室町時代戦国時代日本の歴史

秀吉が得意とした水攻めは住民にとっては過酷な戦術だった

豊臣秀吉は、出世魚のように名前を何度も変えていますが、彼の城攻めは独特でした。戦国大名が用いた正面からの力攻めではなく、城を囲んで、城内に兵糧(食料)や水を持ち込ませない兵糧攻めや、城の周りに堤を築いて水を満たす水攻めを得意としていたのです。これらの戦法は、戦闘をおこなうよりは、兵士の犠牲が少なくできる戦さでした。 この秀吉が得意とした水攻めについて解説します。

豊臣秀吉が得意とした水攻めとは

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水攻めは、お城の周りに堤(つつみ、堤防)を築いて、川などをせき止め、その水を流し込んで周囲を水没させ、城を孤立させる城攻めの戦法のことです。さらにその回りを取り囲んで、城への兵糧(食べ物)や飲み水の運び込みをできなくし、援軍も来れなくすることで、城に立てこもった人たちは飢餓の状態になります。それによって自ら降服するように仕向ける攻略作戦です。

いわゆる兵糧攻めの一種ですが、周りを水に囲まれるため、支援も受けられない厳しい戦法でした。城に立てこもる人たちは非常に苦しい思いをしますが、攻める側としては、戦闘によって多くの味方を失うことのない戦法です。ただ、圧倒的な戦力差がある場合に限られます。

織田信長の家臣であった羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)が得意とした戦法で、兵糧攻めによって味方を失わずに勝つことを優先させた、合理的な秀吉らしい戦法でした。

三大水攻めはすべて秀吉が関係している

日本の水攻めで歴史上有名なものは、次の三大水攻めと呼ばれる城攻めです。

・備中高松城

・大田城(和歌山)

・忍城(おしじょう)

このうち、高松城と大田城の水攻めは秀吉自身がおこなっており、忍城の水攻めは彼の家臣の石田三成らがおこなっています。やはり、秀吉の得意とする戦法であったのです。この中で、唯一降服しなかったのが、忍城ですが、映画「のぼうの城」で野村萬斎さんの主演で描かれています。

一方、大田城は、1585年に羽柴秀吉が織田信雄・徳川家康と小牧・長久手の戦いで戦った際に、大阪で秀吉に反抗ののろしを上げた根来寺と雑賀衆、大田衆が立てこもった城です。秀吉が陣頭に立って10万の兵で、5、6千の兵が立てこもった大田城を取り囲みました。当初に先発隊が50人以上殺されたため、水攻めに切り替えたと言われているのです。立てこもった人たちを皆殺しにしたとも言われています。

有名な備中高松城の水攻め

やはり、水攻めで一番有名なのは、備中高松城です。まだ、羽柴秀吉が織田信長の家臣であったとき、毛利方であった高松城主清水宗治を備中(岡山県)で攻めた際におこなわれました。秀吉は、織田軍の毛利方の中国地方攻略の司令長官だったのです。この攻城戦は、本能寺の変で織田信長が明智光秀の謀反により討たれた際に、秀吉がすぐに和議をまとめて中国大返しをして、天下へのきっかけになったことで有名になりました。

天下人への転換点となった高松城水攻め

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備中高松城の水攻めはほとんど勝負がついており、秀吉が信長の出陣を所望したことが本能寺の変のきっかけになります。信長は、少数の家臣とともに京都に上洛して本能寺に宿泊してから出陣をする予定だったのです。このチャンスを明智光秀は逃さず、短期間とはいえ、天下をとりました。

その明智光秀の毛利方への密使を捕らえた秀吉は、参謀の黒田官兵衛の助言によって、信長の死去を知らない毛利方の安国寺恵瓊を通して話をつけます。清水宗治の切腹と毛利方の一部所領(3国)の割譲で話をつけ、一目散に中国から関西にかけ戻った(中国大返し)のです。そして、山崎の戦いで明智光秀を討ち、天下への道を手繰り寄せました

いずれにしても、水攻めで毛利方も高松城を助けることができなくなっていたことが、短期間での講和を可能にしたと言えます。備中高松城の城跡は、今も観光名所です。

秀吉は最後の小田原城攻めも囲むだけだった

秀吉の中国攻めの中では、山陰の鳥取城攻めで初めて兵糧攻めをおこなっています。鳥取城を兵糧の運び込み道や援軍の侵入道を完全に包囲したために、鳥取城では多数の餓死者が出て、地獄絵になったと言われました。

この兵糧攻めを提案したのは、黒田官兵衛です。また、備中高松城の水攻めの前にも、秀吉は、播磨の三木城でも過酷な兵糧攻めをおこない、降服させています。

羽柴秀吉が最後の敵となった小田原城の北条氏との小田原攻めにおいても、秀吉は城郭を包囲しただけで戦いを仕掛けず、最後には北条氏の降服を誘ったのです。秀吉は、本陣に舞姫を招き、淀君も同行させています。この小田原城攻めの中でおこなわれたのが忍城の水攻めでした。いずれにしても、戦乱に明け暮れた戦国時代を終わらせた攻城戦だったのです。

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