室町時代戦国時代日本の歴史

城を水浸しに!?想定外の水攻めに落城した備中高松城の戦いと清水宗治の潔い最期

日本には「難攻不落」と呼ばれた城がいくつもありますが、攻める方としては頭を悩ませるばかりで、できることなら攻めたくないもの。今回ご紹介する備中高松城(びっちゅうたかまつじょう)は、豊臣秀吉とその軍師・黒田官兵衛(くろだかんべえ)の奇策によってまさかの落城を遂げた城でした。官兵衛の策はなんと「水攻め」。水に浮かぶ城となってしまった城を守る清水宗治(しみずむねはる)は、敗北を覚悟したのです…。では、奇想天外な備中高松城水攻めの全貌をご紹介していきましょう。

備中高松城を巡る武将たちの攻防と清水宗治

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備中高松城は、備中(岡山県西部)にあった城です。群雄割拠の戦国時代において、毛利氏やそのほかの有力な武将たちとの勢力争いの渦中にありました。そこから城主となった清水宗治は、毛利方の信頼厚い武将となり、命をかけて毛利のために戦うと心に誓ったのでした。

備中高松城とは?

備中高松城は、現在の岡山県岡山市北区高松にあった平城(ひらじろ)です。城といってまず思い浮かぶような天守閣などはなく、石垣もなく、土を盛った土塁(どるい)が周りに巡らされていたそうですね。堀もありませんでしたが、元々この辺りが湿地帯だったということで、堀があると非常に攻めにくい城となっていました。

築城された時期は特定されていませんが、元々は、この辺りを支配する三村(みむら)氏の家臣・石川氏がつくったと伝わっています。

清水宗治が城主となる

ただ、中国地方の戦乱により、天正2(1574)年から天正3(1575)年ごろにかけて、三村氏や石川氏は毛利氏宇喜多直家(うきたなおいえ)らによって滅ぼされてしまいました。

今回ご紹介するストーリーにおいて重要な人物となる清水宗治は、石川氏の婿という立場でしたが、毛利方となって生き延びることに成功したのです。裏切り者と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この時は、一族であっても生き延びるために敵方に寝返ることは日常茶飯事。家を守るという点においては、責められることではなかったんですよ。

毛利の忠臣となった宗治

毛利氏に仕えるようになった宗治は、中国地方平定に大きな貢献を果たし、絶大な信頼を得るようになりました。彼が備中高松城に入った経緯の詳細は不明ですが、石川氏時代から城主であったとも、毛利氏傘下となってから城主になったとも言われています。

彼は毛利元就(もうりもとなり)の息子で戦国に名を轟かせる智将・小早川隆景(こばやかわたかかげ)の配下となりました。隆景から刀を授かった宗治は深く感激し、最後まで毛利のために戦い、もし死ぬときはその刀で切腹しようと誓ったとも伝わっています。

迫りくる侵略の手と水攻め

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中国地方を手中に収めた毛利氏でしたが、名将として知られた毛利元就はすでにこの世の人ではなく、当主は孫の輝元(てるもと)となり、小早川隆景やその兄の吉川元春(きっかわもとはる)らが補佐しているような状況でした。そこに目をつけたのが、天下人への階段を駆け上ろうとしていた織田信長です。彼は、家臣の豊臣秀吉(当時は羽柴)を中国攻めの大将として派遣することに決めました。備中高松城と清水宗治はどうなるのか…経緯を見ていきましょう。

信長の侵攻

信長の天下統一事業は総仕上げの段階に入りかけていました。とはいえ、毛利氏の勢力は軽視できるものではなく、信長は信頼する豊臣秀吉に大軍を任せ、中国地方の攻略を命じたのです。秀吉は播磨三木城(はりまみきじょう/兵庫県三木市)鳥取城(鳥取県鳥取市)を兵糧攻めなどで落城させ、ついに毛利氏の拠点に迫って来ました。

備中と備前(びぜん/岡山県南東部)の国境には、境目七城と呼ばれる7つの城が南北に配置され、毛利氏の強力な防衛ラインとなっていましたが、このうちのひとつが備中高松城でした。しかし他の城は、秀吉によって次々と落とされていったのです。

秀吉の大軍に包囲された備中高松城

天正10(1582)年4月、秀吉の率いる3万もの大軍は、備中高松城を包囲しました。城を守る宗治は、5千の兵での籠城戦を選びます。

兵力差を考えれば、いくら攻めにくい備中高松城とはいえ、宗治が不利であることは明らかです。秀吉はおそらく宗治の忠義心を高く評価していたのでしょう、使者を送り、「降伏すれば備中一国を与えよう」と交渉しましたが、宗治がそれに応じることはありませんでした。

すでに2度の兵糧攻めによって城を落としてきた秀吉。しかし宗治の頑強な抵抗と、湿地帯に囲まれた城に対しては攻め手を欠き、頭を悩ませていました。

そこで彼に耳打ちしたのが、軍師・黒田官兵衛だったのです。

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