ヨーロッパの歴史

詩から小説、劇まで…世界文学史の流れが5分でわかる!神話世界から現実へ

文学、と聞いて何を思い浮かべますか?同じ「小説」でも重くて難しいイメージではないでしょうか。そもそも小説ってただの暇つぶし、歴史に関係なんかしてないんじゃない?いいえ、小説は世界を映す鏡であり、文学が国や歴史を形作ってきたのです。世界中の古典文学を読みこなすこと1000作品超、古典LOVEの世界文学オタクな筆者が今回は、世界の風景を変えてきた作家たちをピックアップご紹介していきます。

【古代〜中世】神話と伝説と韻文の時代「詩」の隆盛

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さてまずは古代からたどって行きましょう。文字に記される物語の世界では、長く韻文(いんぶん)の時代が続きます。散文で物語が記されることが主流になるのは、実は17世紀ごろから。紀元前の古代から近世まで、物語といったら「韻文」とほぼイコールでした。あんまり馴染みのない世界ですが、実際はどうなのでしょう?ちょっと名前は聞いたことある、そんな作品をピックアップしつつ、詩と韻文の時代を紹介しましょう。

詩はホメロスにより完成された「イリアス」「オデュッセイア」

古代ギリシャで実際に起った戦争・トロイ戦争を題材にとって、神話の神々が大バトルを繰り広げる「イリアス」。その「イリアス」の英雄オデュッセイアが故郷に帰還するまでの冒険物語「オデュッセイア」。この2編は古代ギリシャの詩人・ホメロスによって創造されました。

ホメロスが本当に歴史上の人物なのか?どうやって創られたのか?など、歴史学的見地から現在も激しい議論がなされているこの詩人ですが、世界文学史は聖書とホメロスなしにははじまりません。古代ギリシャ世界ではホメロスが教養であったほか、カトリック以外ぜんぶ邪教!だった中世世界においても教会や修道院で写本が書き伝えられた文化遺産です。

欧米世界では今もホメロスは教養、かつ多く愛される作品。いえ、むしろ「ホメロス読んでない教養ない庶民はうちの作品の読者じゃないんで」というような風潮が長いこと続くほどでした。血湧き肉躍るこの2つの冒険記は、ヨーロッパ世界の人々の共通概念を作った偉大な作品です。

神の世界をかいま見たダンテ「神曲」

時代は暗黒時代とも呼ばれる中世へ。キリスト教の進出と同時に、生活や倫理に禁欲的な教義が入りこみ、また政治的混乱もあいまって、古代ローマ時代のようなのびやかさは失われます。識字率はガタ落ち、貴族でも字が読める人はごく稀。一方、字の読めるインテリたちの間ではラテン語がメインで扱われていました。

ルネサンスに時代は移り、文学も「自然回帰」の方向へ向かいます。文化繚乱のイタリアはフィレンツェの詩人ダンテがトスカーナ方言で書いた長編叙事詩が、キリスト教世界に衝撃を与えました。「神曲」です。うっかり地獄に迷いこんだダンテが、古代ローマの大詩人ウェルギリウスに叱咤激励されながら導かれ、麗しの乙女ベアトリーチェを求めて地獄・煉獄・天国巡りをする壮大な物語。古代ギリシャのホメロス作品はじめとする詩はもちろん、聖書や伝承、伝説、時事ネタに現実の政治世界、ローマ教皇disりまで含めた、壮大な世界観の凝縮です。

この「神曲」、筆者も読みましたが、隠喩と比喩と古典引用のオンパレード!いかにダンテが教養ある人物だったかを思い知りました。この時代ごろまでは明確に「文学」とはインテリジェンスたちのもの、という感じです。

「ロミジュリ」「オセロー」……演劇の王者・シェイクスピア

世界文学で特異な位置を占めている大作家がいます。シェイクスピアです。実は英国のエリザベス朝時代(アルマダの海戦でスペイン無敵艦隊をイギリスが打ち破った頃です)には演劇がかなり流行していました。群雄割拠の英国演劇界の中で登場したのがシェイクスピアだったのです。その卓越した人間観察力と知識、ドラマ構築力で現在にいたるまで人々の心をつかみつづけています。

「ロミオとジュリエット」「オセロー」をはじめとする4大悲劇ほか、「ヘンリー六世」などの歴史劇を執筆、ファンタジー喜劇「真夏の夜の夢」では妖精をカワイイキャラとして確立させるなど(それまでは妖精といえば、得体の知れない幽霊的ポジション)。ちなみにみんなが知ってる名台詞「ブルータス、お前もか!」はシェイクスピアの歴史劇「ジュリアス・シーザー」が元ネタです。

シェイクスピア劇もある種、韻文的な書かれ方をしています。「シェイクスピアは原語じゃないと面白くないんだゼ」と言われて必死で原書ハムレットを読んで挫折した過去がありますが、近世英語はちょっとふしぎ、そしてたしかに翻訳不可能な絶妙な響きがありました。一方で長く上演される中で悲しい歴史も。「リア王」はラスト、リア王が娘たちに片っ端から裏切られるという悲劇ラストですが、「なんかめでたくない」という理由で、改ざんされたハッピーエンドが数百年に渡り上演されていました。

【近代小説の誕生】散文「小説」の誕生

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韻文とか意味わかんない。と、ボヤきたくなる時代は終わります。ここからは、それ以前の教養古典を知らなくてもそのまま物語を楽しめる有り難い時代へ突入していくのです。といっても、まだこの頃は「神話」や「おとぎ話、寓話」の語り口の延長のような場所にいる感じですね。17世紀~18世紀の「小説」を追ってみましょう。私たちの知っている「小説」の姿がここからはじまります。

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