ヨーロッパの歴史

詩から小説、劇まで…世界文学史の流れが5分でわかる!神話世界から現実へ

英国ヴィクトリア朝文化の影のエロス、オスカー・ワイルド

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サロメ (岩波文庫)

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さて世界はヴィクトリア女王治世の大英帝国が帝国主義でイケイケ時代。ヴィクトリア朝文化は、イギリスのヴィクトリ女王が夫の喪に服する姿勢に世界中が影響されてたもので、キリスト教的倫理が厳しく意識された禁欲的なものでした。

そんな中でもちろんエロシーンなんて書けません。書いても総スカンで発禁です。そこを解決するために小説家たちは「ほのめかして想像させる」という手法をとりました。この技法の名手はヴィクトリア朝時代に何人も出ていますが、特筆すべきがオスカー・ワイルドです。

美しい少年が性的に堕落していく様を描いた「ドリアン・グレイの肖像」では、コレはああいう意味ですね、とほのめかしを察するにつれてゾッとしていく仕様。新約聖書のエピソードを題材にとった劇「サロメ」は、処女サロメの鬱屈された性欲ムンムン。ヴィクトリア朝時代に抑圧された「欲」の姿がうかがえる小説、ワイルドの作品はそう呼ぶことができるでしょう。

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【19世紀その2~20世紀初頭】社会の混迷、誰もが知る文豪たちの活躍

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19世紀は小説の百花繚乱。時代は帝政崩壊、革命、社会主義、共産主義、たび重なる戦争、帝国主義、その衰退など危機的な情勢でした。小説、ないし小説家の興味は「現実」の奥底の真実を描くことに向かっていきます。イプセンの描いた1人の女性がフェミニズム運動の火付け役となってしまい、トルストイ、ドストエフスキーという偉大な作家を生み出したロシアは帝政崩壊して社会主義国家となり……他にも現代日本の小説やアニメにも強い影響を与えるディストピア文学は20世紀初頭あたりから本格的に発展していったんですよ。紹介して参りましょう。

女性の自立を描いたら、うっかり社会の姿が変わったイプセン「人形の家」

世界の歴史を変えた作品として忘れちゃいけない劇があります。ノルウェーの劇作家イプセンによる演劇「人形の家」です。夫に猫かわいがりされる主婦ノラが、借金騒ぎなどを通じて「夫は自分を人間としてみていない!」と気付き、自立する!と言い放って家を出ていく物語です。

これも筆者はちゃんと読みました。主人公ノラは世間知らずの専業主婦。一個の人間として自分をあつかってくれないからといって、夫どころか子供も捨てて家を出ます。甘ちゃんな彼女がどこへ行ってどう生きるかは提示されません。ここから先、ノラのような「独立を求める」女性が生きていく世界をどうするのかは私たち次第、というイプセンの意図が感じられました。

夫が自分を人間扱いしない、腹が立つわ、働いて出ていってやる!というのは現代では当たり前に見られる光景。しかしこんな(はっきり言って本当に甘ちゃんな)姿も当時としては非常に斬新で、世界に衝撃を与えるのには十分だったということにかえって驚きます。「人形の家」はフェミニズム運動の源泉となりました。世界の光景を変えた文学として興味深い作品です。

ロシアの大地が産んだ偉大な魂、トルストイとドストエフスキー

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悪霊(上) (新潮文庫)

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ロシア文学の二大巨匠をご紹介です。まずトルストイ。世界一有名な不倫の話「アンナ・カレーニナ」ナポレオン戦争従軍経験をフルに活かした長編歴史小説「戦争と平和」ほか、力強い筆致と社会に対する洞察力は他の追随を許しません。トルストイは非戦論者・平和主義者として著名で、日本の無政府主義者・幸徳秋水がトルストイに書状を認めるなど、世界的政治力も抜群でした。

社会の理想形を追求したトルストイという作家がいる一方、ロシアにはもう1人偉人がいます。ドストエフスキーです。処女作「貧しき人びと」から「罪と罰」「悪霊」「カラマーゾフの兄弟」などの巨編に至るまで、ロシアの庶民や人間像に迫り、キリスト教的救いのもとに人間や社会そのものの復活の源泉を求めたリアリズム作家。児童虐待や罪のない人々が虐げられた上に楽園が成立するとしても「そんな楽園への切符はつつしんでお返しするんだ」と言い放つ、そんな優しさと激しさにあふれた魅力的な作品群です。

両者に共通するのは、社会主義・共産主義の理想を否定し、その対抗イデオロギーとしてキリスト教隣人愛に救いを求めたところ。ドストエフスキーは最後の長編作品「カラマーゾフの兄弟」の第2部で皇帝暗殺のラストを用意していたと言いますが、未完のまま亡くなっています。トルストイは日露戦争や第一次ロシア革命の暴力、社会主義・共産主義と暴力的な方向に向かう世界を憂いながら、家出先の田舎の駅舎で死去しました。

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みんな大好き!全体主義の発展とディストピア文学の隆盛

「世界の認識を変えた」という意味で欠かしてはならないのが、ディストピア文学。時代はちょっと前後しますが追っていきましょう。16世紀に書かれたトマス・モアの小説「ユートピア」から連綿として続く、楽園に見せかけた地獄の世界。日本でも「PSYCHO-PASS」シリーズをはじめとしてその世界観が大人気、みんな大好きディストピアです。

ハクスリー「すばらしい新世界」(映画化もされた伊藤計劃「ハーモニー」の元ネタとしても有名ですね)は、試験管で赤ん坊が生まれ、その遺伝子により階級が決まり、人びとはセックスと薬物に浸りながら日々を送るという陽気な世界。そこにシェイクスピアおたくの「野蛮人」があらわれるのですが……自由意思って何?幸せって何?管理されれば確かにラクなのかな?と真剣に考えてしまいます。

一方で、全体主義と恐怖政治を批判し、圧倒的リアリティで描ききったジョージ・オーウェル「一九八四年」はディストピア文学の極北。密告と秘密警察、超管理社会、情報操作、永遠に続く戦争、改ざんされる歴史、まさしく地獄のような世界はどこかで現代の日本の気配も感じられます。ディストピア文学は特に東西冷戦期に愛読され、人びとの社会や国際情勢への見方に影響しました。

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