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幕末の薩摩藩を導いた国父「島津久光」の生涯とは?わかりやすく解説

幕末、改革に成功した藩などは国政にも大きな影響力をもちました。その中でもひときわ大きな力を持ったのが薩摩藩です。幕末の薩摩藩を指導した人物こそ、藩主の父で“国父”と称された島津久光。幕末史を語るうえで欠かすことのできないキーパーソンといってよいでしょう。今回は国父、島津久光の生涯をわかりやすく解説します。

“国父”になる前の久光

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久光が生まれた島津家は南九州から琉球まで支配下に置く大大名です。江戸時代の石高は90万石と加賀前田家に次ぐ大藩でした。久光の父である島津斉興は正室の子である斉彬よりも側室お由羅の方の生んだ久光を好んだため、家臣が斉彬派と久光派に分かれて抗争する原因となります。久光自身もこの跡継ぎ争いに巻き込まれていきました。

久光の誕生と薩摩藩の状況

1817年、久光は島津斉興(しまづなりおき)の子として鹿児島城で生まれました。生母は側室のお由羅の方。1825年、島津一門の筆頭である重富島津家の婿養子になります。

このころ、藩政の実権を握っていたのが久光の曽祖父にあたる島津重豪(しまづしげひで)です。重豪は蘭癖大名といわれるほど蘭学に傾倒。重豪は蘭学以外にも豪奢な金遣いで有名でした。晩年は悪化した財政立て直しのため調所広郷を登用しますが、重豪の時代に薩摩藩の財政は大きく傾きます。

久光の異母兄の斉彬は重豪の影響を強く受けました。斉興は重豪の死後、ようやく実権を握ると引き続き調所広郷を重用して財政再建を果たします。斉興や調所広郷らは重豪の影響を強く受けた斉彬よりも国学を好む久光を後継者にしたいと考えました。

調所広郷の失脚とお由良騒動のはじまり

久光を藩主にしたがっていた島津斉興は、世継ぎの斉彬に藩主の座を譲ろうとしませんでした。藩政の中心にいた家老の調所広郷も斉興を支持します。薩摩藩内では若手を中心に、一向に隠居しようとしない斉興とそれを支持する調所広郷、久光を藩主にしようとするお由羅の方に対する不満が強まりました。

斉彬派は調所広郷を失脚させるため琉球での密貿易を幕府に密告。調所は幕府からの事情聴取を受けた直後に江戸藩邸で急死しました。さらに、斉彬派は久光やお由羅の方が斉彬の子を呪詛したとの疑いを持ちます。

そのため、斉彬派はお由羅の方と久光の排除を図りますが事前に発覚。首謀者は切腹を命じられ、50名以上が遠島・謹慎の処分とされました。首謀者がすぐに切腹させられたため真偽のほどは不明ですが、斉彬派はほとんど壊滅状態なります。

お由良騒動の決着

主だったものが斉興によって粛清されたため窮地に陥った斉彬派の一部は、事態を打開するため脱藩。斉興の叔父である黒田長溥(くろだながひろ)に支援を要請しました。黒田長溥は弟の南部信順(なんぶのぶゆき)と相談の上、幕府に事態収拾を訴えます。

当時の幕府老中阿部正弘は斉彬と近い関係にありました。阿部は12代将軍徳川家慶と相談します。徳川家慶は島津斉興に茶器を与え、引退を促しました。さすがの斉興も将軍の意向を無視することはできず藩主の座を斉彬に譲ります。

事件後、お由羅の方に対する処分は特にありませんでした。また、久光は巻き込まれたという側面が強かったため、斉彬個人との関係が悪化したわけではありません。斉彬の藩主就任後は、藩政に協力し海岸防備などを務めました。

国父島津久光

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ペリー来航など日本全体が混乱状態となり幕府の政治が傾きつつあったころ、薩摩藩主島津斉彬が急死しました。斉彬は死の直前、久光の子の忠義を藩主に指名します。久光は若年だった忠義の後見役となり国父として藩政の実権を握りました。久光は若手の人材を起用する一方、中央政界でも活躍します。

精忠組の登用と西郷隆盛との確執

斉彬の死の直後は斉興が健在だったため、忠義の後見は斉興がつとめました。斉興の死後、後見役は久光となり、久光は鹿児島城に入城。以後、久光は国父あるいは副城公とよばれるようになりました。

藩政の実権を握った久光は、のちに精忠組とよばれる若手藩士を登用します。精忠組の主なメンバーは西郷隆盛大久保利通海江田信義吉井友実らでした。特に大久保は久光に重用され藩政に深くかかわります。

一方、久光とそりが合わなかったのが西郷でした。1862年に西郷が無断で大坂入りしたとき、久光は激怒。遠島処分とします。その後、歎願によって西郷の復帰を許したとき、不本意さのあまり加えていた銀のキセルの吸い口に歯型を残したほどでした。この時、久光が登用した若手は、幕末から明治維新にかけて大いに活躍します。久光に人を見る目があったといってよいでしょう。

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