【文学】田山花袋「蒲団」を解説!何がスゴイ?日本の自然主義文学・私小説の正体に迫る
【あらすじと背景】田山花袋『蒲団(ふとん)』
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なんとなく「おっさんが可愛い女弟子に勝手に失恋して、蒲団で泣く」っていうイメージをお持ちのあなた。だいたいそのイメージで合っていますよ。おっさん作家のモデルは田山花袋。女弟子とその恋人にもモデルが実在します。作者の実体験をベースに描く、日本だけにしかない「私小説」というジャンル。その元祖である『蒲団』のあらすじをまずは追いましょう。
退屈な妻子持ちの作家が、キャピキャピ女学生の弟子に慕われて……
3人の子供に恵まれ、妻子とともに平凡に暮らす作家、主人公の竹中時雄。彼は日々をたまらない退屈と鬱屈の中で過ごし、近所の女性をながめては悶々とした欲求を持て余していました。……つまり「恋」の相手は誰でも良かったんですね。と言いたくなりますが、ともかく妻は自分を理解せず、彼自身の芸術にも無頓着。別の、キレイな女の人、それも自分の理解者でいろんな欲求をなぐさめてくれる若い女性があらわれないものだろうか!
と、そんな中で彼の自尊心を慰める存在が登場します。岡山出身、神戸の女学校で学び、文学を志して上京することになる、横山芳子という若い女性です。美文小説家として知られていた時雄に師事することを望んだ芳子。予想に反して芳子はかわいらしく当世風な女性。師である時雄に従順に、文学の道を修行し始めたのです。彼の好みにクリーンヒットですね。
芳子は女子学生らしい無邪気さで時雄を崇拝します。かわいい女の子から「先生すごーい!」とか言われれば、いい歳した男性が浮足立つのは当然。時雄は恋愛に似た欲望を抱きつつ、彼女に対して文学や恋、男女についての教訓を語り聞かせるという日々でした。
彼女が連れてきた「彼氏」は……
若者は若者同士で愛し合うものです。妻子持ちのおっさんなんか知ったことではなく、芳子は同志社大学の学生・田中秀夫と恋人同士になります。プラトニックな関係であると主張する2人。しかし時雄は「監督責任」を盾に、若い弟子の管理をはじめます。オレのことを慕ってたんじゃなかったのか!あまりのショックに、34歳の大の男が大酒を飲んで泥酔し、路上で倒れる始末。
イケメンハイスペ男子なら時雄もまた救われたのでしょうが、芳子が連れてきて引き合わせた秀夫は、今で言う「こじらせ系」。キリスト教の聖職者になることに嫌気がさし、学費を援助してくれていた恩人を裏切って、京都から東京へ強引に出てきたというのです。恋人である芳子の反対をも押しきって、文学で生計を立てたい、そのために時雄にも応援をお願いする、云々。周囲の人々は呆れかえりました。
作品は時雄の一人称に限りなく近い三人称で語られます。時雄の視点で、あくまで主人公の内面を描くことを徹底した本作。時雄は終始、芳子に対する性欲に悩まされます。独善的でひとりよがり、個人の内面を露悪的に描いた本作は、田山花袋の代表作。そして日本文学に大きな影響を与えた自然主義小説です。
作者の田山花袋(たやま かたい)って何者?
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作者の田山花袋のプロフィールについてここで紹介しておきましょう。本名は田山録弥(ろくや)。1872(明治4)年に栃木県館林市(現在の群馬県館林市)に生まれます。若いころに漢詩漢文のほか和歌、西洋文学にも親しみ、これが後年の美文作家・田山花袋のベースとなったのです。
その後上京し、『金色夜叉』で著名な作家・尾崎紅葉のもとで修行します。その他にも民俗学者の柳田國男、作家の島崎藤村や国木田独歩などと交流。日露戦争では従軍記者として活動しました。この頃に『舞姫』『高瀬舟』の文豪・森鴎外に出会っています。この時代の超一流の文化人たちとの出会いも、彼の感性を育みました。
1907年、『蒲団』を発表。自然主義の立役者として日本文壇のトップに躍り出ます。その後は自然主義の衰退とともに、彼の文壇での力は衰えていきましたが、生涯を通して創作活動を続けました。1930(昭和5)年に喉頭癌で没します。日本文学の方向を決定づけた運命的存在の作家です。
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「写実主義と自然主義って、何か違うの?」……全然違います。写実主義はフランスでおこり、世界を席巻した芸術運動。それが日本へ渡り、ガラパゴス的進化を遂げたのです。目に映る世界をありのまま描く写実主義が、どうして日本ではこうなった。田山花袋の罪とは。日本独自の文化「私小説」についても解説しますよ。写実主義運動に関して、詳しくはRintoの芸術記事をどうぞ!
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