日本の歴史

憲法9条は改正すべき?今何が問題になっているの?中立的に解説

テレビ番組やネット記事、新聞の紙面などで、憲法改正問題というニュースが取り沙汰されていることが多くなりました。国会でも毎日のように憲法改正論議が議論され、与党と野党のせめぎ合いが続いていますよね。日本国憲法には103条まで条文があるのですが、その中でいう改憲対象ってどれに当たるの?と感じている方も多いはず。それは【憲法第9条】という日本の安全保障に関わる条文のことなのです。とかく憲法9条に関しては非常にナーバスな問題で、これを取り上げること自体「左か?右か?」という括りになってしまいますので、あくまで中立的な視点から検証してみたいと思います。

そもそも憲法第9条とは、どんな憲法?

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まずは憲法第9条はどういう条文で、何が問題になるのか?基礎的なところから検証していきましょう。

憲法第9条の原文をそのまま読んでみる


1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。


2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。



いわゆる【戦争放棄】を定めた条文なのですが、武力による威嚇や武力の行使を行うために陸海空軍その他の戦力は保持しない。とあります。


戦力は保持しない。と言いつつ、「じゃあ現在の自衛隊の存在って何なの?戦うための武器を持ってるよね?」という素朴な疑問が湧いてきます。


しかもPKO(国連平和維持活動)ではイラクなどに自衛隊員も派遣してるし…

歴代の内閣はずっと【憲法解釈】という考え方を継承してきた

日本国憲法は、1947年に発布された70年以上も前の憲法です。現在からみれば、たしかに矛盾するところも多く、特に第9条は国家の安全に関わるシビアな条文だけに、その矛盾点をどう解決するのか?ということが議論されてきました。

実は、これまでの歴代内閣では、そういった憲法上の矛盾点を【憲法解釈】という考え方でクリアしてきたのです。第9条における自衛隊の存在位置を実は下記のように解釈しています。

憲法第9条はその文言からすると、国際関係における「武力の行使」を一切禁じているように見えますが、憲法前文で確認している「国民の平和的生存権」や憲法第13条が「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は国政の上で最大の尊重を必要とする旨定めている趣旨を踏まえて考えると、憲法第9条が、わが国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を採ることを禁じているとは到底解されません。

引用元 防衛省HP「憲法と自衛権」より

日本国憲法の中で明記されている「国民の生存権や自由の権利」を守るために自衛措置を取ることは、国の交戦権の行使にあたらない。憲法違反ではない。という意味に捉えています。

仮に、国民の生存権や自由の権利を侵害するような外国からの侵略があった場合に、自衛のために戦うことは認められている権利。ということなのです。これを個別的自衛権と呼んでいます。

憲法第9条の歴史と日米安保条約

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では、憲法第9条がどのようにして出来上がったのか?そこには【天皇制の存続】【戦争放棄条項】をどう表現していくかという内閣GHQ(連合国最高司令部)を巻き込んだ様々な紆余曲折があったのです。そしてその後の日米安保条約も絡めて説明していきましょう。

日本国憲法の成立過程とは?

日本がポツダム宣言を受け入れて太平洋戦争が終結した後、乗り込んできたのはマッカーサーを首班とするGHQでした。終戦直後の混乱する日本の戦後処理とともに重要視されたのが、新憲法の制定というものだったのです。

1946年1月、幣原喜重郎首相とマッカーサーが面談した記録とされている羽室メモによると、幣原はこう言ったとされています。

戦争放棄を宣言することで、天皇制に批判的な国際世論を懐柔できるだろう。

実はこの時、天皇制に反対するであろう中国、ソ連、オランダなどが参加する極東委員会(FarEastern Advisory)が1ヶ月後にワシントンで第1回会合を行うため、新憲法の中に【天皇象徴制】【戦争放棄】を盛り込んでおく必要があったのです。マッカーサーも天皇制存続こそが日本統治の鍵となっていたと認識しており、それに同意しました。

日本側は【松本私案】という憲法草案を作成しますが、大日本帝国憲法に修正を加えた程度では、連合国の理解を得られるはずもありません。そこでマッカーサーは改憲の3原則をGHQ民政局に指示します。

1.天皇の職務、権能は憲法に基づき行使される

2.国家主権としての戦争を放棄する

3.日本の封建制度の廃止。華族、貴族の廃止

このようにして、新憲法草案はGHQの手によって作られることになりました。同時に内閣もGHQ案受け入れを閣議決定し、吉田内閣に変わった4月に、日本国憲法草案として全文が発表されたのです。この間わずか3ヶ月足らず。天皇制を存続させるために憲法第9条が盛り込まれたといってもいいでしょう。

憲法第9条に修正を加える

実はこの時の議会において、すでに自衛権論争が始まっており、この第9条については共産党の野坂参三が疑義を述べていました。

自衛権を放棄してしまっては、民族の独立を危うくする。【侵略戦争の放棄】のみにとどめておくべきだ。

逆に吉田茂首相の答弁はこうです。

自衛権の発動としての戦争も放棄すべき。過去の満州事変にしても太平洋戦争にしても、自衛権を主張したがうえに起こったものだ。

おもしろいことに、現在の共産党の主張とはまったく真逆だったのですね。

その後、審議を経た後に、芦田案として修正が加えられました。ここで第2項に元々の草案には入っていなかった「前項の目的を達するため」という文言が付け加えられたのです。

前項の目的を達するため、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

第1項で武力行使と交戦権の否認を謳いつつも、この「前項の目的を達するため」という文言が入ることにより、自衛権の発動と、将来的な国際平和への貢献ということに含みを持たせたのです。

GHQ民政局のケーディス大佐も、日本の自衛権まで剥奪することはないと考えており、ゆえに「自己の安全を保持するための手段としてさえも、戦争を放棄する。」という草案の一部を削除したのです。

こうして憲法上においてもお墨付きを得た形になった第9条は自衛権を保障し、やがて自衛隊の発足へと繋がっていくことになります。

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明石則実