恐ろしいけど憎めない日本の「妖怪」たちー有名どころをご紹介
英雄伝説から愛嬌のあるものまで~多種多様な「日本の妖怪」
「八百万の神」と呼ばれるほど、日本では、神羅万象、ありとあらゆるものに神様が宿っています。それと同じように、様々な物質や自然現象と結びつき、全国各地に無数の妖怪伝承が誕生していったとしても不思議ではありません。科学が発展していなかった時代、雨や風、雷といった現象の正体がわからず、それらを妖怪の仕業と見るのはごく自然なことです。実際、日本にはたくさんの妖怪伝承があります。そんな妖怪たちの中から、特に有名なものを取り上げてみました。
酒好きだった鬼の親分:酒呑童子(しゅてんどうじ)
酒呑童子は平安時代に京都に現れた鬼の名前です。
その正体については諸説あるようですが、須佐之男命(スサノオノミコト)との戦いに負けて逃げた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の息子だという説が有力。八岐大蛇も酒がもとでスサノオに討ち取られたため、酒好きの親子、というところから結び付けられたようです。
酒呑童子の伝説は『大江山絵巻』という絵巻物に描かれています。地域によって伝承の内容に若干の違いがあるようですが、話の筋は概ねこんな感じです。
あるとき、都から若い娘たちが姿を消すという事件が続発。陰陽師が占ったところ、丹波の大江山というところに住む鬼が悪さをしていると判明します。これが酒呑童子です。
このまま放っておくわけにはいきません。悪鬼退治に名乗りを上げたのが、武勇に優れた武将として名高い源頼光。頼光は強者家臣の頼光四天王(渡辺綱、坂田公時、卜部季武、碓井貞光)らとともに出陣。酒呑童子退治に赴きます。
この噂をいち早く聞きつけていた酒呑童子は、刺客の存在に警戒。山伏の扮装でさりげなく近づいてきた源頼光たちを怪しみ、あれこれ質問をして本物の山伏かどうか見極めようとします。妖怪のくせに意外と知的です。
頼光たちは酒呑童子に酒を飲ませ、疑惑の目をそらしつつ、酒呑童子の身の上話を聞いたりします。警戒心が緩んだところで、頼光は酒呑童子に毒酒を盛り寝込みを強襲。首をはねて見事退治します。
しかしそこは、人々を脅かし続けてきた鬼の頭目。酒呑童子の首は、切り落とされてもなお悪態をつき、頼光に噛みついてきたのだそうです。
首が伸びたり抜けたりする奇怪な妖怪:ろくろ首
「ろくろ首」または「ろくろっ首」などと呼ばれる、怪談話などによく登場するこの妖怪。首が伸びるタイプと、首が抜ける(胴体から離れて浮遊する)タイプがあるのだそうです。
語源については、焼き物を作る「轆轤(ろくろ)」からきているとの説が有力。しかしほかにもいくつか説があり、はっきりとはしていないようです。
見た目はごく普通の人間ですが、突然不気味に首が伸びたり抜けたりして、周囲の人を驚かせ怖がらせる。時には人を襲って血を吸ったりするという不気味さ。しかし、伸びた首が元に戻らなくなることもあるという、おまぬけな一面も持っています。
鬼のような凶悪な存在というほどではなく、ただ、闇夜を恐れる人々の恐怖心が生み出した身近な妖怪、といったものなのかもしれません。
葛飾北斎『北斎漫画』や、十返舎一九の『列国怪談聞書帖』にも登場します。
ろくろ首は、中国の「飛頭蛮(ひとうばん)」という、夜になると首が体から離れて浮遊する妖怪に由来する、との説もあるのだとか。真相は定かではありませんが、首が取れる妖怪話は他の国や地域にも存在しており、ろくろ首は海外由来ではなく日本独自に進化を遂げた妖怪話かもしれない、との見方もあるそうです。
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朝廷に恭順しない異端に由来:土蜘蛛(つちぐも)
土蜘蛛とは、遠い遠い昔、古代日本において、天皇(朝廷)に従わなかった土豪(どごう)たちのことを言い表した名称のこと。朝廷から異端視されていたため、このような呼び方が生まれたと考えられています。
現在では「蜘蛛」という字を当てますが、「土雲」という字を使っていたこともありました。それが次第に、蜘蛛の形をした恐ろしい妖怪として、書物や絵画、芝居などで描かれるようになったのです。
酒呑童子の伝説にも登場した武将・源頼光と四天王が活躍する絵巻物『土蜘蛛草紙』では、足が長く恐ろしい形相をした巨大な蜘蛛が描かれています。これを退治せんと刀を振るう四天王たち。切り裂かれた土蜘蛛の腹の中から、土蜘蛛に食われ命を落とした人々の首がたくさん出てきたとか。この退治絵巻は、浄瑠璃や歌舞伎、能などに取り上げられ、江戸時代以降、土蜘蛛の存在は広く知られることとなりました。
現在でも、土蜘蛛伝承が残る地域は日本各地に存在します。
生物に詳しい方なら「あれ、ツチグモっていう蜘蛛、実際にいなかったっけ?」と思いつかれたかもしれません。、日本各地に生息する蜘蛛の仲間に「ジグモ」という1~2㎝ほどの小さな蜘蛛の別名が「ツチグモ」というのですが、妖怪の「土蜘蛛」とは無関係なのだそうです。
目玉がひとつの小坊主の妖怪:一つ目小僧
妖怪とは通常、人を食ったり村を荒らしたり、何かしら危害を加えていく存在として描かれることが多いです。
しかし中には、姿かたちが奇妙なだけで、実際には人畜無害な奴もいます。
例えば一つ目小僧。顔の真ん中に大きな目がひとつある、坊主頭の小僧の姿をした妖怪です。
源頼光のような武将に退治されるほどのこともない、悪さといっても、人をちょっと驚かせる程度のもの。描かれ方もどこかしらユーモラスで、憎めない妖怪のひとつです。
江戸時代の怪談本には、一つ目小僧が何度も登場します。
例えば、いたずらをしている子供がいたので注意をしたところ、振り返った顔に目が一つしかなく、注意した人物が卒倒した……といった具合。気に入った家に居ついて、年に何度か現れて家人を驚かせるという、人を食う妖怪たちと比べたら、実にかわいいものです。
地域によっては、一つ目小僧が現れるという事八日の夜(旧暦の2月8日と12月8日)に、家の軒先に目籠を吊るしておくと追っ払うことができる、という伝承があります。
江戸の人々にとってはなじみ深い、有名な妖怪だったようです。
日本の妖怪界を代表する大物:天狗
日本の妖怪の中で、もっとも有名でもっともたくさんの伝承が残る存在といってよいのではないでしょうか。
山伏の格好をして、手には大きな葉っぱのうちわを持ち、ぎょろりとした大きな目、赤ら顔、そして最も特徴的な長い鼻。風をおこし、目にもとまらぬ素早さで空を飛ぶ。古くは、実在する怪物と信じられていたのだそうです。
一般的には人を魔の世界に引きずり込む恐ろしい妖怪とされていますが、地域によっては神様として祀られていることもあります。
そんな天狗の起源は中国にあるという説が有力なのだそうです。
中国では天狗とは、流れ星を意味する言葉であり、吉凶を占うものでした。夜空に輝くひとすじの流れ星を天を走る犬に見立て、天の狗(いぬという意味の字)であると考えられていたのだそうです。
当時はまだ、天体に関する情報が乏しく、不思議な現象はみんな天狗が悪さをしていると考えられていました。
これが後に日本に伝わり、日本にも天狗伝説が広まっていったものと考えられています。少なくとも『日本書紀』には、巨大な流れ星のことを天狗であるとする記述があり、7世紀頃には既に伝わっていたようです。
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お前はいったい何者なんだ?:河童
日本に古くから伝わる身近な妖怪には、鬼、天狗ともうひとつ「河童(かっぱ)」というものがあります。
河童も昔は(ともすると現在も)実在する生物と考えられていました。
古くから日本全国各地に伝承が残る河童。一般的には、全身が緑か赤色で、頭に皿があり、その皿が乾くと衰弱するという特徴を持っています。
口はくちばし型、背中に甲羅、指の間に水かきという姿で描かれることも多い。ご存じの方も多いと思いますが、好物はキュウリです。
皿が乾くと弱るので、生息地は川や池。カワウソがモデルになったのではないか、とも言われています。
基本的に、やることといえば悪戯程度。通りかかった人を水の中に引き込んでおぼれさせるといった悪さが中心ですが、中には「尻子玉を抜いて殺す」という恐ろしいやつも。逆に、人助けをしたり子供たちと仲良くなったりフレンドリーな描かれ方をすることもあります。
伝承の内容は地域によってさまざま。時に恐れられ、愛され、水神信仰と結びついて祀られることもある河童。「元祖ゆるキャラ」と考えてもよいのかもしれません。