憲法9条は改正すべき?今何が問題になっているの?中立的に解説
日米安保条約と集団的自衛権
そもそも、なぜ米軍が日本にいるのか?不思議に思ったことはありませんか?理由は戦後の米ソ冷戦にあります。
第二次世界大戦が終了するや、アメリカを中心とする西側諸国と、ソ連を中心とする東側諸国とに世界の流れは分かれ、対立する構図となりました。西側に属する日本も、ソ連の軍事的脅威に晒されるかも知れない。そういう意味から日本はアメリカと軍事同盟を結ぶ必要があったのです。それが日米安全保障条約(日米安保条約)でした。
しかし1960年代といえば、太平洋戦争終結からまだ日も浅く、多くの日本人が戦争に対してアレルギーを持っている時代でした。「アメリカの戦争に巻き込まれるんじゃないか?」そういった不安が全国各地に巻き起こり、当時は【安保闘争】という武力衝突にまで発展したのです。
現在に至るまで日米安保条約は継続されています。しかし、日米安保条約の中にある第5条には、こう記述されているのです。
いずれか一方に対する攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであるという位置づけを確認し、憲法や手続きに従い共通の危険に対処するように行動することを宣言している。
これは【共同対処】といい、在日米軍が攻撃された場合にも、自衛隊が守ってやらなくてはいけないということです。しかし、「個別的自衛権は認められているとしても、他国の軍隊まで守ってあげる集団的自衛権はNGじゃないの?」と考える方も多いでしょう。
これも憲法解釈がされていて、「日本の施政権の及ぶ範囲内」だとされています。いわゆる日本の領土を攻撃されたことと同じ解釈で、日本側にも防衛の責任が発生するということなのですね。
2014年には安倍内閣が、集団的自衛権の解釈を定義づけています。
1.密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、国民の生命・自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合
2.国民を守るために他に適当な手段がない場合
3.必要最小限度の実力行使
いわゆる武力行使の3要件といわれますが、国家や国土の個別自衛権というよりも、国民の権利や安全を守るための自衛権に解釈が変化してきたということですね。
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憲法第9条改正によるメリットどデメリット
ここで現在、議論の的になっている憲法第9条の改正内容について、メリット、デメリットそれぞれについて検証していきましょう。
自民党の第9条改憲草案とは?
現在自民党は、将来的な日本国憲法の改正に向けて草案を作成し、公表しています。まずはその中で第9条の部分を抜き取って解説しましょう。
9条の1
1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2.前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない
9条の2
1.我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2.国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3.国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4.前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5.国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
現行の第9条に比べて、ずいぶんと長くなりました。現行のものに比べて4~5倍ほどの量になっていますね。ここで新しく【自衛権】【国防軍】といったワードが出てきました。
自衛権は先ほど説明しましたが、このワードを明記することにより、自衛隊の存在が憲法違反にはならないということ。国防軍とは、自衛権が憲法で保障されることにより、組織はあくまで軍隊だとはっきり明示するもの。という形になります。
憲法第9条改正でメリットがあるという意見【賛成派】
憲法第9条改正に伴っては、実に様々な議論があります。そこで、【賛成派】【反対派】の意見を、それぞれメリット、デメリットという形で検証していきましょう。まずは賛成派の意見から。
♯自衛権を明記することにより、自衛隊が憲法違反ではなくなる。
第9条の法解釈の中では、あくまで自衛権は認められておらず、自衛隊の存在は憲法違反だ。と唱える憲法学者も多いのです。また、日本共産党は真っ向から自衛隊違憲論を唱えており、そういった異論をなくすためにも自衛権は明記すべき。
♯法的な縛りの多かった自衛隊とは違い、国防軍は総理大臣が最高指揮官であるため、事態に応じて素早く行動できる。
現行憲法では、国会の承認を得てからでないと自衛隊の防衛出動などができないため、緊急事態への対応が遅れてしまう。よって総理大臣の裁量によってフレキシブルに行動できる国防軍に組織を改編するべき。
♯軍備の意識を変えないと、ますますアメリカ依存となり、言いなりとなる。その逆の場合もある。
米ソ冷戦の時代から、日本の防衛はアメリカ頼みが続いており、そのために日米地位協定を改正できないなど不利になる立場となっている。また、いつ米軍が引き上げてもいいように日本の防衛は日本の力でするべき。
♯第9条改正となれば、核兵器保有の是非も真剣に検討するべき。
現在、国連安保理の常任理事国は核保有国ばかりであり、日本が常任理事国となり影響力を及ぼすためには、核を持つことが肝要。
♯日本が攻撃されそうな場合に、自衛措置として先制攻撃ができる。
国民の安全と権利が侵害されそうな場合は、先制攻撃をもって制することができる。これは自衛措置でもあり予防措置でもある。
♯幅広い国際貢献ができる。
これまでは国連軍に金を出すだけ。もしくはPKOなどで派遣されても、後方任務ばかりだったが、「国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持」を前提として、幅広い国際貢献ができる。
憲法第9条改正でメリットがないという意見【反対派】
では、反対派の意見をピックアップしてみますね。
♯自衛隊の存在はすでに憲法解釈では合憲だから、今さら変える必要はない。
日本人の大部分は自衛隊の存在を熟知しており、改めて憲法に明記するだけのメリットはない。
♯「国際貢献」の名目のもとに、日本人が巻き込まれる恐れがある。
イラク派遣のPKOでも明らかになったように、戦闘に巻き込まれる可能性は高い。ましてや、なし崩し的に戦闘に参加させられる可能性も高い。
♯国防軍を創設すれば、防衛費が確実にアップする。
現在の自衛隊の装備は専守防衛に特化したもの。しかしこれを攻撃型に変更しようとすれば、国家予算に占める防衛費は確実に高くなる。社会保障費などの財政を圧迫してまで国防軍を創設する必要性があるのか?
総理大臣が最高指揮官となる国防軍は、政府の暴走に繋がる
国会の承認や国民の理解を得ずして、緊急事態だからといって国防軍を動かせば、それはいずれ政府の暴走にも繋がる可能性がある。ましてや緊急事態条項とセットともなれば、それこそが国民の権利を阻害することになる。
軍備の拡張は、周辺諸国との軋轢を生む。
先制攻撃用の兵器や装備を拡充すれば、周辺諸国との軋轢を生み、それがいずれ軍拡競争へと繋がっていく危険がある。
日本の核保有はすべきではない。
唯一の被爆国である我が国が、核兵器を保有するなど本末転倒。核を持つだけの技術も実験施設もない上、莫大な予算も掛かり、国連やIMFからの非難を受けるだけのこと。