安政の大獄の背景
安政の大獄が起きる前から幕府政治は動揺していました。動揺の理由は2つあります。1つ目は米国総領事であるハリスが要求した通商条約調印の要求。2つ目は13代将軍の跡継ぎをめぐる将軍継嗣問題です。通商条約の調印は朝廷を巻き込んだ大騒動へと発展。幕府の権威が著しく傷つきます。将軍継嗣問題では幕府や諸藩の意見が真っ二つに割れ政局が混乱しました。
ハリスによる通商条約調印の要求
1856年、アメリカ総領事のハリスが日米和親条約に基づき伊豆の下田に着任しました。ハリスは着任早々、幕府に対して通商条約の締結を要求します。ハリス着任のおよそ2か月後、中国でアロー戦争が起きました。
当時、中国を統治していた清は1840年のアヘン戦争でイギリスに敗北し不平等条約を結ばされていました。対清貿易のさらなる拡大を狙ったイギリスはフランスとともに再び中国と開戦。これがアロー戦争です。
ハリスは「イギリスやフランスは清との戦争に勝利した後、日本に攻めてくるかもしれない。そうすれば、清のように大変なことになるだろう。今のうちに、日本と友好的なアメリカとの間に通商条約を結び戦争を回避するべきだ」と主張します。
幕府の大半もこれに同意。老中首座の堀田正睦が孝明天皇の勅許をえるために上京します。しかし、攘夷(外国を打ち払え)の考えを持っていた孝明天皇は勅許を出そうとしません。堀田は完全に行き詰まってしまいました。
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将軍継嗣問題
ハリスが通商条約の調印を迫っていたころ、13代将軍徳川家定の跡継ぎ問題が急浮上していました。家定は将軍就任前から病弱で知られています。父の12代将軍徳川家慶が一橋慶喜を養子にして家定を後継者から外そうと考えたくらいでした。
家慶の死後、将軍となった家定には跡を継ぐべき男子がいません。有力な後継候補は二人。一人目は紀伊藩主徳川慶福です。慶福は11代将軍徳川家斉の孫にあたり、徳川本家に血筋も近い人物でした。もう一人は一橋慶喜です。血筋は慶福よりも遠くなりますが、若いころから優秀さが知られていました。
慶福を支持するのは彦根藩主井伊直弼らの譜代大名。一橋慶喜を支持するのは父の前水戸藩主徳川斉昭や越前藩主松平慶永、薩摩藩主島津斉彬、土佐藩主山内豊信ら有力大名たちが中心でした。慶福を支持するグループを南紀派、慶喜を支持するグループを一橋派といいます。両派は互いに譲りませんでした。
安政の大獄の経緯
大きくもめた将軍継嗣問題は、井伊直弼の大老就任により南紀派の勝利に終わります。紀州藩主徳川慶福は14代将軍徳川家茂として徳川本家を相続しました。日米修好通商条約に対し、井伊は慎重な姿勢でしたがハリスの圧力の前に調印を余儀なくされます。将軍継嗣問題で敗れた一橋派や通商条約に反対する攘夷派が条約調印は井伊の独断専行だと批判。井伊は反対派を一掃する安政の大獄に踏み切りました。
井伊直弼の大老就任と将軍継嗣問題の決着
1857年、かねてから病弱であった将軍家定の病状は悪化。南紀派と一橋派による後継争いは激しさを増していました。膠着した事態打開のため、南紀派の譜代大名は井伊直弼の大老就任を画策します。1858年4月、南紀派の工作と将軍家定の意向により、井伊直弼は将軍代理といってもよい権威を持つ大老に就任。1858年6月には将軍家定の名で徳川慶福を後継者とする旨が発表されました。
一説には将軍家定が自分よりも器量が良く人望がある一橋慶喜を嫌ったためともいいますが、定かではありません。しかし、井伊が大老に就任したことで南紀派が将軍継嗣問題で優位に立った事実は疑いようもありません。慶福の後継指名の翌月、徳川家定は死去しました。徳川慶福は名を家茂と改め14代将軍に就任します。
無勅許での日米修好通商条約調印
将軍継嗣問題と同じころ、幕府とハリスは通商条約締結の交渉を行っていました。老中首座の堀田正睦は孝明天皇の勅許を得ることで反対論を抑えようとしますが、勅許を得ることはできません。
かわって大老になった井伊直弼は条約調印に慎重でした。しかし、交渉担当者の下田奉行井上清直や目付の岩瀬忠震は即刻調印するべきと考えます。井上や岩瀬は「(調印を引き延ばすことができず)やむを得ない場合は調印しても良いかと井伊に確認したところ、井伊から「その場合は仕方ない。ただ、できるだけ引き延ばせ」との回答を得ます。井上や岩瀬は井伊も調印に同意したと考え、勅許を待たずに条約に調印しました。
オランダ・ロシア・イギリス・フランスとも同じ内容の条約を締結したので安政の五カ国条約ともいいます。条約に調印することでハリスの圧力はなくなりましたが、無勅許で調印したことに対して批判の声が上がりました。
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