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5分でわかる『失楽園』!イギリス文学史上の最高傑作のあらすじ・筆者のミルトンをわかりやすく解説!

『失楽園』は、旧約聖書『創世記』第3章の挿話をわかりやすく描いた叙事詩です。ロマン派の詩人たちは、堕落し悪魔となり下がった「サタン」を英雄的に描いた魅力的な作品だと称賛しています。一節によると、ミルトンは主人公のサタンやアダムを自分に置き換えて登場させているとか。今回は、イギリス文学史上最高傑作のひとつ『失楽園』をわかりやすく解説したいと思います。

1.『失楽園』の著者ミルトンってどんな人?

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『失楽園』の著者「ミルトン」は、17世紀に活躍したイギリスの詩人・思想家・革命家です。彼は、清教徒革命に身を投じ、多くの政治的論文も残しました。革命に翻弄された彼の思いが、作品の中に見え隠れしています。それでは、『失楽園』の著者ミルトンが、どんな人物かをご紹介しましょう。

1-1ミルトンの青年期

ジョン・ミルトン(John Milton)は、ロンドンで1608年12月9日に、父が公証人で音楽家の裕福なピューリタンの家に生まれています。ミルトンも、歌やオルガンやチェロを弾けたようです。父から聖職者になることを期待され、本人もそのつもりでしたが、実際は詩人としての人生を選びます。

1625年にケンブリッジ大学クライストカレッジに入学。1629年は大学院へ進み、1632年に美術の修士号を取得します。在学中は、『快活な人』や『沈思な人』など、リリカルな詩を残しました。中性的だったため、大学仲間からの評判は悪かったとか。

卒業後は詩人を目指し、ロンドン近郊ホートンの実家に住み詩作に励みました。1634年には貴族の依頼による、仮面劇『コーマス(Comus)』が上演されています。友人の一人のエドワード・キングが、1637年に洋上で水死したことを悼んで書いた『リシダス(Lycidas)』は、イギリス文学史上三大牧歌哀歌の一遍となりました。

1-2イギリス激動の時代

ミルトンは1638年から、フランス、スイス、イタリア、ドイツなどへの周遊をしています。この旅で、ガリレオ・ガリレイと対面を果たしたとか。途中のイタリアナポリで、イギリスで革命の気運が高まっていると聞き、1639年8月に急遽帰国しています。

この頃の20年間は10篇ほどのソネットを書いたのみで、政治や宗教活動に費やしました。これらの作品は、19世紀ロマン派のソネット再興のモデルとされています。1642年にメアリーと結婚するも失敗し、『離婚論』を書きました。清教徒革命時の1644年には『教育論』や言論の自由を論じた『アレオパギティカ』を発信したのです。

チャールズ1世の処刑後は、「独立派」に属します。支持するクロムウェルから共和政府のラテン語書記に任命され、世界に向けて政府の主張(弁護)を伝えました。英語やラテン語を真面目に学びながら、『偶像破壊者』や『第一弁護論』などの出版物をたくさん出しています。在職3年目に激務が原因で両眼を失明してしまい、同僚で友人だったアンドルー・マーヴェルが、補佐役となり手助けをしたようです。1658年から『失楽園』の構想に着手しています。

1-3盲目と執筆

1660年にクロムウェルの独裁制が崩壊し王政復古を迎えると、投獄されるなどミルトンは地獄へ突き落されます。王党派からの拷問を受け、処刑寸前だったとか。マーヴェルらに助けられ恩赦となり、迫害から救われます。しかし、ミルトンの著書は焚書に処せられ、自身も投獄の上私有財産を没収。その後は政治活動から足を洗い詩作に励みました。

1663年に3度目の結婚をします。完全に失明しており執筆活動は口述で行われ、娘らの援助があって続けられたようです。イギリス叙事詩の最高傑作と称される『失楽園』もこうして誕生しました。

1-4ミルトンの晩年

『失楽園(Paradise Lost)』は1667年に、全10巻で出版されました。1674年には手直しされた、全12巻として再出版されています。1671年には楽園でアダムが失ったものをキリストが回復するという叙事詩、全4巻の『復楽園(Paradise Regained)』が刊行されました。『新約聖書』のルカによる福音書の4章にある、「荒野の誘惑」をテーマにしたものです。失楽園とは異なり、簡潔・明快な表現で書かれています。

同年には、『旧約聖書』の「士師記」による韻文悲劇『闘技者サムソン』も出版されました。晩年は平和な時を過ごしており、1674年11月8日にロンドンで逝去しています。彼は、シェークスピアの後イギリス文学を牽引し、イギリスルネッサンス文学を再現しました。イギリスのみならず世界文学の起点として、現在も愛され続ける詩人のひとりです。

2.『失楽園』の書き出し

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