なぜ起きた?トロイア戦争の原因と背景
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トロイア戦争とは、ギリシャ神話に登場する、ギリシアとトロイアによる戦争。古代ギリシャの吟遊詩人・ホメロスによって記されたとされる英雄叙事詩『イリアス』にも記されています。激しい戦闘は10年にも及んだと伝わっていますが、その発端は何だったのでしょうか。物語は意外なところから始まります。
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一番美しいのは誰?黄金の林檎を巡って激しいバトル
事は神々の世界から始まります。
オリンポスでは、人間であるペレウスと海の女神テティスの結婚式が行われていました。
多くの神々や高貴な身分の人々が招かれ、華やかな宴が催されていたわけですが、災いの女神エリスだけは招かれていません。腹を立てたエリスは「最も美しい女神へ」と書かれた「ヘスペリデスの黄金の林檎(別名、不和の林檎)」を宴の場に投げ入れます。
最も美しい女神といったら私のことじゃないかしら?ゼウスの妻で最高位の女神ヘラと、戦いの女神アテナ、そして愛と美の女神アフロディーテ(ヴィーナス)の三女神が、林檎を取り合ってバトルを展開。三者一歩も譲りません。これには全能の神ゼウスもかたなしです。
あちらを立てればこちらが立たず、困り果てたゼウスは、トロイアという国の王子のパリスという青年に「ヘラとアテナとアフロディーテのうち、誰が林檎を持つべきか決めてほしいと頼みます。
トロイアとは、ギリシャ神話にたびたび登場する都市の名前。おそらくは現在のトルコの北部を指しているものと思われます。こうして女神たちの争いの結末は、人間界のひとりの青年の判断にゆだねられました。
どうせもともとはエリスの嫌がらせなんだし、最高神であるゼウスがびしっと決めて事をおさめてやったらよかったのに、女神たちが怖いのか、こういう時のゼウスはことごとく弱腰です。
権力か栄誉かそれとも美女か?究極の選択「パリスの審判」
ヘラもアテナもアフロディーテ。どうしても林檎が欲しい三女神は必死です。それぞれ着飾ってパリスのもとへ出向き、自分を選ばせようと誘惑します。
「私を選んでくれたら、地上を支配する力をあげるわ」とヘラ。
「私を選べば、あなたはどんな戦でも連戦連勝、必ず勝利するわ」とアテナ。
そしてアフロディーテは「この世で最も美しい、最高の美女があなたのものになるわ」と約束します。
そこまでして林檎が欲しいのかとも思いますが、女神たちにとっては負けられない戦いなのでしょう。かくしてパリスは、権力、武力、美女の3つのいずれかを選ぶこととなったのです。
若い王子は迷うことなく「美女」を選びます。
林檎はアフロディーテのものに。そしてアフロディーテは約束通り、世界で最も美しい女性をパリスのもとに届けます。
アフロディーテが連れてきた美女ヘレネは、それはもう文句なしの絶世の美女でした。しかしこのヘレネが問題。彼女は人妻で、あの強豪スパルタの王・メネラオスの奥さんだったのです。
妻を返せ!断る!ギリシャvsトロイア全面戦争
スパルタといえば、戦争に勝つために鍛え上げられた精鋭ばかりで構成された軍事都市。たった300人で数万の大軍を撃破したことでも知られ、人々から恐れられている国です。
なんでそんな国の王様の妻を……。アフロディーテも罪なことをします。
最愛の妻を奪われたメネラオスが黙っているわけもありません。超激怒。兄でありミュケナイというギリシアの古代都市の王でもあるアガメムノンに事の次第を告げ、ともにトロイア攻めを決起します。そしてここに、スパルタ、ミュケナイという強大都市によるギリシャ連合軍が結成されたのです。
パリス王子、地上最強の軍隊を敵に回してしまいます。大ピンチです。今ならまだ、ヘレネを返せば許してもらえるかも……。いえいえところが、当のヘレネもパリス王子にすっかり魅了されてしまい、二人は相思相愛。離れようとしません。
実はこのヘレネという女性には、こんな話も伝わっています。
スパルタ王と結婚する前のこと。ヘレネがあまりにも美しかったので、求婚者が後を絶たず、誰か一人を選ぼうものなら一触即発、とんでもないことが起きそうな状況だったのです。そこでヘレネのお父さんは押し寄せる求婚者たちに「誰がヘレネと結婚したとしても、その男が窮地に立たされた時、全員でその男を助けること」と約束させます。
その後、ヘレネはスパルタ王メネラオスと結婚。
そしてそのメネラオスが、ヘレネをさらわれて窮地に。旧求婚者たちは先の約束があるのでメネラオスを助けないわけにはいきません。とりあえずトロイア攻めに参戦。
そんなわけで、ギリシア全土から、ヘレネ奪還のための軍隊が集まり、全面戦争へと突入することになったのです。
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ギリシア大軍による包囲網!トロイア戦争の全容とは
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ちょっとしたことが大事に発展……そんな印象も否めませんが、とにかくこうして、ギリシャとトロイアの全面戦争の火ぶたは切られました。ギリシャ軍は大艦隊を率いてトロイアへ侵攻します。戦いの行方は?パリス王子はどうなったのか?続きを見てみることにいたしましょう。
喧嘩は強いが踵は弱い~英雄アキレウスの活躍
総勢10万、1168隻の大艦隊。ギリシャの大軍はたちまちトロイアに上陸し、周辺を包囲します。
ここで活躍したのが、アキレス腱で有名なアキレウスです。
アキレウスは話の冒頭で登場した、ペレウスとテティスの息子。幼少時代、息子を不死身の体にしようとした母テティスによって、逆さまに川につけられたという逸話の持ち主です。このとき、テティスはアキレウスの足首を持って逆さまにしていたため、足首だけ水に浸かっておらず、足首がアキレウスの弱点となってしまいます。
でも、足首以外は不死身です。とにかく強い。しかもかなりの俊足だったそうです。
トロイア戦争が起きそうになっていた頃、わが子を戦争に送り出したくないと考えたテティスが再び画策。アキレウスに女の子の服を着せて隠します。しかしここにオデュッセウスという英雄が現れ、アキレウスの正体に気づき、結局アキレウスがトロイア戦争に駆り出されてしまうのです。
アキレウスはトロイア戦争でかなりの戦果をあげます。ギリシャ軍優勢の状態が続き、勝利目前かと思われましたが、ギリシャ軍の総大将アガメムノンとアキレウスの間に亀裂が生じ、一時期、アキレウスが立ち去ってしまい形勢不利に陥ったりと、なかなか事が進みません。
一方のトロイア側にも英雄がいました。第一王子でありパリスの兄でもあるヘクトルです。戦争の原因である弟はヘラヘラしていますが、兄は国のことを思い、前線に出て戦います。
そしてついに両雄激突。ヘクトルとアキレウスの一騎打ちが始まります。結果はアキレウスの勝利。しかしそのアキレウスも、なんとあのパリス王子に足を弓で射られて命を落としてしまいます。
10年近くも膠着状態~トロイの木馬で起死回生
アキレウスとヘクトルが命を落とすと、戦争は膠着状態に陥ります。ギリシャもトロイアも、両軍とも多くの犠牲を出しながら、戦争は何年も続きました。
トロイアは強固な城壁の中に籠城しており、ギリシャ軍は完全に手詰まり。なかなか攻め落とすことができず、戦争は10年目に突入。このままではどうにも埒があきません。
そこで知将オデュッセウスが奇策を思いつきます。
大きな木馬を作ってその中に兵を潜ませ、トロイアの市街地に運んで城壁内部に侵入しようというのです。
普段のギリシャ軍なら、こんな突拍子もない策に飛びつくはずないでしょうが、よほど疲弊していたのか、賛成者多数で可決。早速、木馬の制作に取り掛かります。
完成した木馬を夜のうちにトロイアの城壁の外に置き、中に精鋭たちが潜り込んで準備完了。ギリシャ軍は陸地の陣を引き払って痕跡を消し、船で待機します。
翌朝、驚いたのはトロイア軍です。ギリシャ軍の姿はなく、大きな木馬だけがぽつんと残されています。ギリシャ軍は撤退した、私たちの勝利だと確信し、大喜びするトロイア人たち。戦利品として木馬を城内に引き入れます。作戦大成功です。