日本の歴史

5分でわかる薙刀の歴史ー誰が使ってた?有名な薙刀は?女性の武器になったのはなぜ?わかりやすく解説

2-2.巴御前の凛々しい活躍ぶり

源義仲軍の一手の大将として1千人の兵を率いて戦場を疾駆する姿に敵方は恐怖したそうです。信濃随一の愛馬「春風」を駆って義仲に付き従った巴御前は、敵の中に駆け入って名のある武者の首をねじ切って討ち取るなど最後までその武勇を発揮しました。

巴御前といえば、後世の絵巻物や錦絵などを見ても薙刀を振るっているシーンばかりが描かれています。

しかし彼女を描写した「平家物語」や「源平盛衰記」などの記述には「中三権頭が娘巴と云女也、つよ弓の手だり荒馬乗の上手」とあるように弓矢や刀の使い手とされているものの、薙刀を使ったという描写が一切ありません。これはどういうことでしょうか。

おそらく江戸時代になって女性でも扱える薙刀術が発展し、「男にも負けない強い女武者像」を巴御前に求め、その結果、「巴御前の武器は薙刀だった」というふうに解釈されたのでしょう。薙刀の中に【巴型】という形があるというのも、何だかうなずけますよね。

2-3.常山城と運命を共にした女軍の大将【鶴姫】

戦国時代、備中国(現在の岡山県東部)を支配していた三村氏と、中国地方の覇者毛利氏との間で行われた戦乱を【備中兵乱】と呼びますが、三村氏が滅んだ後に行われた最終戦が常山城の戦いでした。

いよいよ落城間近となり、城主上野高徳はじめ一族の者たちが自害しようとするのを目の当たりにした妻【鶴姫】は、このまま死ぬのは無念とばかりに毛利勢に向かって討って出ました。

しかしこの時の様子を描写した軍記物語によって内容が少し違うのです。秀吉の高松城水攻めの際に生き残った中島大炊介元行が後年書いた【中国兵乱記】によれば、鶴姫は代々伝わる名刀を片手に毛利勢に斬り込み、敵を次々に討ち取り、悩ませた上に城へ立ち帰ってそこで自害したといいます。

2-4.鶴姫の雄姿を表現した「備中兵乱記」

しかし一方、三村家家臣が中国兵乱記を元にして書いたと思われる【備中兵乱記】によれば、白柄の薙刀を引っ提げて庭に飛び出るや、その姿に感動した侍女たち30人余が同様に薙刀を携え、毛利の陣へ突きかかっていったと書かれていますね。

最後は毛利の将【乃美宗勝】に一騎打ちを挑もうとするも、本望を遂げられなかった鶴姫は城へ戻り、夫と刺し違えて自害したそうです。

やはり備中兵乱記の方が、「真っ白な柄の薙刀を手にする颯爽とした鶴姫の姿」や、「敵の将と一騎打ちしようとする姿」や、「夫と刺し違えて自害する姿」など、かなり脚色めいたものを感じます。

三村家家臣が江戸時代になって書いたものですから、やはりかつての主君の姿を美化したかったのでしょうか。

2-5.薙刀をふるって謀反人を成敗した武勇の女性【甲斐姫】

小田原北条氏の家臣、成田氏長の娘でのちに豊臣秀吉の側室となった女性が甲斐姫です。豊臣軍の忍城水攻めの際にも大活躍し、開城後に蒲生家の客将として迎え入れられた父と共に会津へやってきました。

ある時、新規に召し抱えた浜田兄弟が謀反を起こし、あろうことか氏長の妻を殺し、成田氏が預かっていた城を占拠してしまいました。

そこで甲斐姫はわずか10数騎で200人を数える浜田勢に突っ込み、あっという間に兄を斬り殺しました。さらに逃げた弟も愛用の薙刀で右腕を切り落とし、生け捕りにしたそうです。

2-6.時代を超えて語り継がれた甲斐姫の武勇

このあたりのくだりは成田氏の事績を記録した「成田記」に記述されていますが、この逸話もどうやら後世の脚色の域を出ません。

「成田記」じたいが江戸時代後期の文化年間に記録されたものですし、作者の小沼十五郎自身が「成田家の後裔や臣下の末孫が、遠国より縁故を頼って尋ね来ることが多いが、宝暦の火災により旧記が焼失してしまい、事実不明な点が多いので考訂して記録を世に伝える」という主旨を書いているために、伝聞や創作を元にしていることは確かでしょう。

とはいえ甲斐姫が武勇に優れていたことは間違いなさそうで、その噂を聞きつけた豊臣秀吉がたいそう興味を持ったそうです。戦国時代の女性はたくましい方が多かったのですね。

2-7.薙刀の使い方が女性に合っていた?

これまで見てきた通り、女武者たちが薙刀で戦ったという事実はほとんど確認できません。ではなぜ後世の後付けで薙刀で戦ったというふうに解釈されたのでしょうか。

先ほど「薙刀の歴史」で解説させて頂いたように、薙刀は戦国の頃にはすっかり廃れ、江戸時代になって女性のための武芸として新たに普及したと述べました。当時は武家の子女であっても嗜みの一つとして薙刀術が好まれたことに大きな意味があり、薙刀だったからこそ女性でも扱えたということがいえますね。

槍は突いたり叩いたりして用いる武器ですが、薙刀は上から下へ切り下げる使い方です。そのため非力な女性でも薙刀を振り上げれば「慣性の法則」と「引力」によって振り下ろしやすいということが言えると思います。

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明石則実