その他の国の歴史中東

ペルシア湾岸地域を動揺させた「イラン・イラク戦争」の背景・経緯・その後についてわかりやすく解説

イラン革命の影響とイランとアメリカの対立

イラン革命の成功により、宗教国家となったイランの存在は周辺諸国にとって脅威でした。アラブの盟主を辞任するサウジアラビアは教義面で対立するスンナ派の盟主。シーア派であるイランの勢力拡大は望みません

一方、イランはパフレヴィー朝時代に進出していた欧米の国際石油資本の施設を接収し国有化。これにより、欧米との関係悪化を招きます。また、イラン革命後、イランとアメリカの関係は悪化の一途をたどりました。

イランは革命後、亡命したパフレヴィー2世の身柄引き渡しをアメリカに要求しましたが、アメリカが拒否。これに激高したテヘランの学生らがアメリカ大使館を占拠。大使館員を人質にしたのです。アメリカ政府は1980年に人質救出を図りますが失敗。作戦失敗によりアメリカの威信は大きく傷つきました

イランとイラクが戦った三つの理由

イランとイラクが戦争に至った原因は3つあります。一つ目はペルシア湾岸の石油開発をめぐる対立。中東地域で、石油資源をどの国が所有しているかはしばしば戦争の原因となりました。

二つ目はシャトル=アラブ川をめぐる領土や通行権の対立。シャトル=アラブ川はティグリス川とユーフラテス川が合流した川のことで、イランとイラクのどちらに管理権があるかは重要な問題です。

三つ目はイラクの国内事情。イラクは人工的に国境線が引かれた国なので、国内に複数の勢力が入り混じっている状態でした。北部にはクルド人勢力、南部にはバスラを中心とするシーア派の勢力があり、フセインはクルド人とシーア派を弾圧することでバース党政権を維持していたのです。

イラン革命の成功は南部のシーア派を勢いづかせる可能性が高く、南部のコントロールを失えば、北部の油田地帯付近のクルド人も蜂起する危険性がありました。

イラク軍によるイラン侵攻

イラン革命の成功に危機感を覚えたフセインはアメリカなどイランと対立する国や、シーア派の拡大を懸念するサウジアラビアの支援を取り付け、イランに対する先制攻撃を企図します。

1980年9月22日、イラク軍はイランの空軍基地を奇襲攻撃。イラン・イラク戦争が始まりました。北部・中部・南部の三つの方面から一斉に侵攻したイラク軍はイラン領内に進撃します。

迎え撃つイラン軍は指揮系統の混乱もあり、劣勢に立たされました。ところが、開戦後、イランでは20万を超える人々が義勇兵として戦争に参加。イラク軍の前に立ちふさがります。イラン軍の人海戦術はイラク軍の進撃を抑え込みました。

また、シリアがイランに味方してシリア領内を通るイラクのパイプラインを停止させたことでイラクは石油輸出ができなくなります。1982年には形勢は逆転。イラン軍は占領された地域を取り戻していきました。

イラン・イラク戦争の終結とその後

image by PIXTA / 9775111

イランの予想を超える抵抗を前に、イラク軍の進撃は止められイラン・イラク戦争は長期戦となりました。1988年、イランは国連安保理決議を受諾し停戦に応じます。1989年にホメイニ師が死去すると、両国は関係改善に動き出しました。イラン・イラク両国は戦争で多大な被害を受けますが、フセイン政権はクウェートに矛先を転じ、湾岸戦争を引き起こします。

戦線の膠着と停戦

イラン軍がイラク軍を押し戻し、逆にイラク領への進撃する可能性が出てくるとフセインはイランに停戦交渉を持ち掛けます。しかし、ホメイニ師は停戦を拒否。あくまでフセイン政権打倒を目指したことから、イラン・イラク戦争は長期化します。

1985年にはイランとイラクが互いに都市をミサイル攻撃しますが、決定的な打撃とはなりませんでした。1987年、イラン軍は南部戦線で攻勢に出てイラク軍に大打撃を与えます。しかし、これも決定的な打撃とならず戦闘は継続されました。

国連安保理は1987年に即時停戦、戦争責任の調査、武器の輸出停止、経済制裁などを内容とする598号決議を採択。停戦に向けて圧力をかけました。1988年、イランは安保理決議を受諾。ようやく、イラン・イラク戦争は終結します。

戦争後のイラン

イラン革命を成し遂げ、イラン・イラク戦争中も指導し続けたホメイニ師が1989年に死去すると、ハメネイ師が最高指導者となりました。ハメネイ師も基本的にイスラム原理主義に基づく政治を志向します。

大統領職に就いたのはラフサンジャニでした。彼は穏健な現実主義者とみなされ、西側との関係改善や対米宥和に踏み出します。後継のハタミ大統領も穏健路線を継承しました。

しかし、経済が好転しないことなどから2005年の大統領選挙では保守派のアフマディネジャドに敗れてしまいました。2019年現在の大統領はロウハニ氏。アメリカのトランプ大統領との厳しい外交の中、欧米との関係をどのようにしていくのか注目ですね。

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