イギリスヨーロッパの歴史

ダーウィン「進化論」とは?世紀の大発見に隠された葛藤と苦しみを紐解く

チャールズ・ダーウィンの『種の起源』。これは、それまで考えられていた地球や生き物の歴史を大きく変え、科学を発展させた、まさに世界を変えた本です。「生き物は長い時間を経て変化していく」今となっては当たり前の考えは、この本をきっかけに世に広まりました。しかし、彼にとってこの発見は決して喜ばしいものではなく、むしろその後の人生を苦しめるものでした。そこには、われわれ日本人には理解しがたい宗教の問題がひそんでいます。「進化論」をめぐるダーウィンの葛藤や苦しみ、その胸のうちをのぞいてみましょう。

今とは違う 地球と生き物の歴史

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今から150年以上むかし、キリスト教の教えにしたがう人々が信じていたことがありました。世界がどのように始まったのかというお話です。19世紀は、西欧のキリスト教諸国が世界中で力を持っていたため、ものの考え方もキリスト教の教えに基づいていました。特に、ダーウィンが生まれ育ったイングランドでは、協会が、聖書に書かれていることが正しいと主張し、科学で解明したり説明することを反対していたほどです。では、聖書には一体どのような地球と生き物の歴史が書かれていたのでしょうか。詳しくみていきましょう。

聖書に書かれた生き物の誕生

旧約聖書の「創世記」には、動物や植物がどのように地球に誕生したかが書かれています。天地や地球上の生き物は、この世界のはじまりの6日間に、神によってつくられました。とりわけ、神のすがたに似せて特別につくられた生き物、それが人間です。

生き物の姿ははじめから決まっていて、変わることはありません。さらに、神様は生き物を平等には作りませんでした。種(しゅ)には階段のような序列があり、ミミズや昆虫は階段の一番下、下から順番に、爬虫類、鳥、哺乳類、そして階段のてっぺんにおかれたのは、もちろんわれわれ人間です。聖書は、人間や動物をはっきりと区別し、人間だけが特別に賢い存在だと伝えました。そのため、キリスト教にしたがう人たちは、自分たち人間を、自然界の中で特別な存在だと信じていました。

協会が決めた地球の歴史

地球の歴史も今とは大きく異なります。今では、地球は約46億年前に誕生したと考えられていますが、当時のキリスト教の教えによると、世界ができた日付は、紀元前4004年10月23日だそうです。この日にちは聖書に書かれているわけではありませんが、聖書の記述をたよりに、ふたりの聖職者が計算した結果、そうなりました。

ダーウィンだけが気づいた生き物と自然の関係

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旧約聖書に書かれた地球と生き物の歴史は、今を生きる私たちにとっては「物語」ですが、150年以上まえの人々は「事実」として信じていました。この出来事を「事実」から「物語」に変えたきっかけ、それがダーウィンの書いた『種の起源』です。ダーウィンが発見したこと、それは、生き物は長い時間を経て変化していくということ、そして、その変化はどうして起こるのかということ、さらには、今いるすべての生き物が共通の祖先からわかれて誕生した、ということでした。聖書の教えを根底から覆す彼の発見について、みていきましょう。

人生を変えたビーグル号の航海

生き物は世代を経てすがたを変えていくという「進化論」、実はダーウィンよりも前にこの考えにいたった人が、ごくわずかに存在していました。彼の祖父もそのひとりです。しかし、ダーウィンははじめのうちは、生き物が進化するという考えを知っても、それを信じていませんでした。そんな彼が考えを変えたきっかけ、それが、5年にわたる航海の旅でした。

1831年、22歳の時にダーウィンは運命を変える航海への切符を手に入れます。イギリス海軍の所有するビーグル号が、海岸線を測量するために南米に派遣されるにあたって、標本を集めて科学的な記録の書ける博物学者を探していました。そこで、ダーウィンに白羽の矢が立ったのです。この時のダーウィンは、まだ博物学者ではありません。生き物の姿は変わることがないという聖書の教えを信じ、自然や動植物にとてつもない関心を抱く、研究熱心な若者でした。

この旅でダーウィンは、その場所の地質やさまざまな植物、動物を調査し、標本を集めました。5年にわたる調査でさまざまな動植物を集めた彼は、帰国後、多くの専門家たちに協力してもらいながら、研究をすすめていきます。すると、不思議なことに気づきました。

生き物は進化するという発想

それは、ガラパゴス諸島で集めた様々な鳥の報告を、鳥類学者から受けたときのことでした。その結果は、ダーウィンが予想したものとは全く違ったのです。彼はガラパゴス諸島のそれぞれの島で色々な種類の鳥を夢中になって採集しました。なんと、彼が別の種類だと思っていた鳥たちは、すべてフィンチという同じ一種類の鳥だったのです。

ダーウィンがちがう種類だと思っていたのも無理ありません。なぜなら、その鳥はくちばしが、長いもの、短いもの、太いものや細いものなど、形が異なっていたからです。しかし、専門家によれば、羽の生え方やからだのつくりをみると、すべて同じフィンチだということでした。彼がひっかかったのは、どれもこれも「少しだけ」すがたが違ったということです。すべての生き物は、神様が、今ある姿と同じようにおつくりになられた、それにしては、なぜ神様はフィンチのすがたを少しずつ変えてつくる必要があったのでしょう。ダーウィンは自分が集めたものを調べたり、専門家からの報告をもらううちに、生き物は長い時間をかけて少しずつすがたを変えてきたのではないだろうか、と思うようになりました。

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