平成日本の歴史

日本中を震撼させた地下鉄サリン事件~オウム真理教とはいったい何だったのか?~

平成の日本を震撼させ恐怖のどん底に叩き込んだ「地下鉄サリン事件」。いまだに人々の記憶に新しく、現在に至っても毒物の影響で苦しんでいる人たちが大勢いらっしゃいます。史上最悪のテロ事件から25年が経とうとしていますが、後継団体が活発に活動していることもあり、事件は完全に終わっていないと言っていいでしょう。なぜこんな凶悪なテロ事件が起こり「オウム真理教」という宗教テロ集団がなぜ跋扈できたのか?麻原彰晃(本名 松本智津夫)やオウムが下してきた狡猾な手法をもとに紐解いていきましょう。

オウム真理教の成り立ちと勢力拡大

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まずはオウム真理教がいかにして生まれ、いかにして信者を増やしていったのか?そこには悪知恵ともいうべき麻原彰晃の巧みな情報操作や洗脳があったのです。オウム真理教を知るには、まずその成り立ちから解説していきましょう。

合法的な活動で社会を信用させる手法

どのような宗教もそうなのですが、その教義以外に何がいったい重要なのかといえば、まずは「人々や社会を信用させること」。これに尽きるでしょう。自らを「神がかる者」とした上で社会に対して正統性を主張し、「平和」「愛」だのといった耳触りの良い言葉を使って人々を籠絡すること。そして自分を慕ってくる者たちを信者として束ねる。その上でカネなり権力なりを思うがままにして更に教団を大きくする。そんなところではないでしょうか。

オウム真理教が大きくなった理由もまさしくそれで、麻原という人間は稀代の詐欺師だといえるのかも知れません。ただのヨガ教室からキャリアをスタートさせた彼は、その後「オウム神仙の会」~「オウム真理教」と名を変えるごとに社会を信用させ、認知させることに成功していくのです。

それは貧しい国々への訪問や支援活動に始まり、チベットのダライ・ラマと会談して自らの権威を宣伝したこともそうですし、正式に宗教法人として認可されたこともそう。当時のマスコミ自体がオウム真理教を誉めそやし、イカモノ扱いはするもののその危険性については誰も気づかなかった。ということからも明らかなのですね。

オウム真理教の教義とは?

一口に言ってオウム真理教の教義は複雑そのものです。それもそのはず。世界の三大宗教やヒンズー教ですらその教義の中に取り込み、全てを一緒くたにして「真理」と称してうそぶいていたわけですから、本当に各宗教の都合の良いところだけをつまんでは意味を曲解し、それを信者に押し付けていたに過ぎないわけですね。

オウム真理教の主神はヒンズー教の神「シヴァ神」ですが、なぜかいっぽうでは原始仏教やチベット仏教の教義を振りかざし、またいっぽうでは「ノストラダムスの預言」にまつわるハルマゲドンを真剣に吹聴していました。要は一貫性がなく、既に日本の宗教界では「単なるイカモノでなんの宗教的価値もない存在」だと捉えられていました。よく考えれば単なるインチキだというのがわかるはずなのに、それでも信者となる人間が後を絶たなかったということは驚くべきことです。

オウム真理教の資金作りとは?

オウム真理教も他の宗教団体の例に漏れず、組織が大きくなるに従って巨額の資金が必要となっていました。当然の如く出家信者や在家信者からの寄付だけでは足りず、宗教とはまったく関係のない事業を興したり店舗を運営するなどの多角経営が目立つようになっていました。しかしそこで働く信者たちには給与が支払われることもなく、あくまで修行の一環だとして無償労働させていたのです。

それだけではありません。麻原を教祖であり最終解脱者だと信奉する信者の心理を突いて、次々と霊感商法まがいのインチキな商品が売りつけられました。さらにもっと最悪なのは、覚せい剤や合成麻薬などを製造して信者に売りつけ、それすらも資金源にしたことなのです。麻薬を高額な金で買わせて信者を薬漬けにする。そんな信じられないことが平然と行われていたのでした。

オウム真理教が信者たちに高額で売り続けていたインチキ商品の数々

麻原の脳波を再現した電極付きの「ヘッドギア」。販売額100万円。レンタル月額10万円。

麻原の血液入りの液体を飲む「血のイニシエーション」。100万円。

お守り代わりにするための「麻原の髪の毛」。1本1,000円。

麻原が入った風呂の残り湯「ミラクルボンド」。20mlあたり2万円。

この他にもたくさんありますね。

 

衆議院議員選挙での大敗と方針転換

教団が大きくなってくると、教祖が次に考えることといえば「自分は選ばれた存在であり、この世を救済しなければならない」という手前勝手な妄想に至るのは枚挙に暇がありません。麻原もそのような考えに至った人間の一人であり、彼が取った行動は【政治の実権を握り、その力によって世界を救済する】というものでした。この誇大妄想狂ともいえるような発想は現実のものとなり、教団をあげて衆議院議員選挙への出馬という形になったのでした。

教団からは25人もの幹部が立候補しました。耳触りこそ良いが実現不可能な選挙公約を並べ立て、信者たちによる怪しげなダンスやオウムソングを歌うなど派手なパフォーマンスを繰り広げ、さらには選挙妨害や対立候補の選挙ポスターを破り捨てるなど過激な選挙活動に終始しました。

結局蓋を開けてみれば候補者全員が落選するという大惨敗。高額な選挙供託金も没収される羽目に。麻原はこの大敗がよほどショックだったのか、敗北の原因を「国家権力による陰謀」だと断じました。そしてこれ以降は選挙などの合法的な手法から【武力による政権奪取】に舵を切り、教団ぐるみでテロリズムに走ることになるのです。まさにこの衆議院議員選挙での大敗がオウムの凶暴化に拍車を掛けていくのでした。

麻原と教団との関係

教団にとっては麻原の存在そのものが全てであり、麻原の意向なしには運営もままならない状況でした。教団幹部といえば聞こえはいいが完全に麻原のイエスマンでしかなく、ある意味彼らも洗脳されていたのかも知れませんね。

オウム真理教という組織を麻原が完全に私物化し、思うがままにしていたという証言は飽きるほど出てきています。常に100人以上もの愛人を侍らせていただの、信者から巻き上げた金で旅客機のファーストクラスを貸し切ったり高級外車を乗り回していただの、宗教家らしからぬ美食家であっただの。いずれにしても麻原という人物は客観的にみれば、最終解脱者や救済者どころか煩悩にまみれたただの俗物だったのは疑いようもありません。

元幹部だった上祐史浩が証言していますが、麻原という人間の根源は「逆恨み」「被害妄想」から成り立っていたとされています。教団内ではたしかに偉い王様だったのかも知れませんが、世間から見れば【ただのイカモノ】でしかありませんでした。それを認めようとしない外部の人間や社会、マスコミに対して逆恨みと被害妄想の境地から凶暴なテロ行為に走ったと言えるのでしょうね。

「イカモノ」とは=偽物。えたいの知れないもの。

引用元 Weblio 辞書より

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