ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」あらすじや名言、宗教事情を解説
「理由もなしにこんなひどいことをするはずがないもの」
「カラマーゾフの兄弟」は本来2部作として書かれる予定だったことが冒頭、ドストエフスキー本人により明かされています。しかし彼はこの「カラマーゾフの兄弟」続編を書き上げる前に逝去。つまりこの長編小説は未完なのです。そんな事情から、回収しきれていない伏線が存在しますが、アリョーシャと少年たちの物語もその1つ。
物語の前半、アリョーシャはドミトーリィの婚約者カテリーナに、兄が退役軍人を酒の席で酷く侮辱したという事件を聞きます。その謝罪におもむく途中の道で、中学生の少年たちの集団に出くわしました。そのうちの1人からアリョーシャ石を投げられ、怪我までしてしまうのです。これがドミトーリィが侮辱した退役軍人の息子イリューシャでした。アリョーシャは彼にこう呼びかけるのです。
でも、僕が君になにもしていないはずはないよね。君だって理由もなしにこんなひどいことをするはずがないもの。だったら、僕が何をしたの、君にどんなわるいことをしたのか、教えてくれないか?
読んでいてなぜか癒される、どうしてなのか人間や世界をあらためて愛することができる、ドストエフスキー作品にはそんなエネルギーが満ちています。はたして中学生たちがどのような役割を果たすはずだったのか、今となってはそれはまさに神のみぞ知るです。
キリスト教で『カラマーゾフの兄弟』を読み解く
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エンタメ炸裂でキャラも濃いドストエフスキー。でも、宗教ネタが多すぎてわからない!ドストエフスキーを読んだばかりに教会に言って聖書をめくるはめになった筆者が解説しましょう。ちなみにRintoには他にもキリスト教の教派や宗教の特徴・歴史についての記事がたくさんありますよ!ぜひのぞいていってくださいね。
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無神論って悪いこと?当時の西洋事情
えっ、無神論ってダメなことなの?日本人からしたら全然ピンとこないかもしれませんね。しかし西洋世界において神の否定は、道徳の欠如であり伝統や歴史をないがしろにすることです。なによりも既存の秩序に対する反乱でした。
19世紀の過渡期ロシアでは無神論をともなう共産主義・社会主義が蔓延しており、一大社会問題になっていたのです。過去にはドストエフスキー自身も社会主義運動に身を投じ、銃殺までされかかりました。自らが体験した社会主義に絶望したドストエフスキーはロシア正教会の神(イエス・キリスト)による人類の救済を信じたのです。
しかしドストエフスキーは「神を信じない人間は地獄」「キリスト教以外みんな邪教」のような狂信者ではありません。苦悩を背負った人間を肯定するのです。彼の説く神の教えはかなりユルい!神について本気で考えることって普段あんまりありませんが、ドストエフスキーを読むことはちょっと深く人生を考え直すきっかけにもなりますよ。
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ドストエフスキー作品は「よくわかるロシア正教会の世界」
私たちがキリスト教と言われてイメージするのは、イタリアのバチカンに本部を置くローマ・カトリック。聖母マリア像があり、神父やシスターがいて十字を切ります。一方でドストエフスキーはロシア正教会を篤く信仰し、ロシア正教の神に祝福された選ばれし民ロシア人が世界を救うと考えていました。
先にも紹介したゾシマ長老の姿やイワンの叙事詩「大審問官」をはじめ、キリスト教に対し深い洞察を加えた『カラマーゾフの兄弟』はキリスト教の教会から高い評価を得ています。つまり、読むだけでなんとなくよくわかるキリスト教(ロシア正教会特化)の本なのです。
宗教って人を救うんだ、ということをドストエフスキーを読むたびに感じます。とはいえ彼も宗教の詭弁や一部の聖職者の態度をすごい勢いで批判してもいるんですよ。Rintoにはキリスト教の教派をわかりやすく徹底的に比較し紹介した記事もあります、そちらもぜひ参考にしてみてください。
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作中にひそむ3人のキリスト
無実の人イエス・キリスト。ただ単に救いの教え(福音)を説いただけなのに邪魔者扱いされて死刑になった神の子。そんなイエス・キリストの象徴を背負わされた人物がこの作品には少なくとも3人います。アリョーシャ、ドミトーリィ、少年イリューシャの3人です。ここでは深読みのコツを伝授しましょう。
無垢で無邪気で文句なしに善良なアリョーシャに、読む人はメロメロになること間違いなし。俺の天使!と多くの登場人物が叫んでいます。世界文学におけるきっての癒しキャラ。アリョーシャはまさに善良なキリストの象徴です。
父親の死に関しては無実の罪で逮捕されるドミトーリィもまた、キリスト。あらゆる証拠が彼を殺人者だと決めつけます。しかしこの長兄が選ぶことになる道は……。アリョーシャやその仲間の中学生たちに強い印象を与えるイリューシャは、死の床についた少年です。彼の死によって少年たちは硬く結びつけられることになります。この物語は現代のキリストを描くドストエフスキーの挑戦でもありました。そういう観点から読むと、さらに味わい深くおもしろく読めますよ。
文豪ドストエフスキー、文句なしの傑作!
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ドストエフスキーは癒しとゆるしの文学だと筆者は感じています。キリスト教を扱った作品だからといって「宗教かぁ……」と尻込みする必要はありません。『カラマーゾフの兄弟』の人物はそれぞれ一人ひとりが魅力的です。ロシア文学ビギナーが読む場合はわかりやすい亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)がおすすめです!さあドストエフスキーの愛の世界へ。
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