関東軍の思惑
関東軍にとって、張作霖は徐々に厄介な存在となっていました。関東軍が張作霖を支援した目的は、張作霖を通じて中国東北地方である満州を実質的に支配することです。しかし、張作霖は満州だけでは飽き足らず、権力の空白地帯だった北京を制圧して勢力拡大をはかりました。
上海クーデタで共産党勢力を追い出した蒋介石は、欧米の援助を得ることに成功します。また、日本政府に対し、北伐軍が山海関を越えることはないと暗に伝えたため、日本は張作霖に対し積極的支援をためらうようになりました。
1928年、張作霖軍が蒋介石軍と戦い敗北すると、関東軍は張作霖の支援には限界があると判断。張作霖を排除して、より操りやすい政権を樹立しようとはかります。関東軍高給参謀の河本大作大佐を中心に、撤退中の張作霖を暗殺する計画が立てられました。
張作霖爆殺事件の発生
1928年6月4日、国民党軍との戦争に敗れた張作霖は北京を脱出。本拠地である満州・奉天行きの列車に乗り込みました。張作霖の満州復帰を望まない関東軍は、張作霖の帰還を阻もうとします。
張作霖の特別列車が奉天付近の鉄橋に差し掛かったところ、鉄橋上に仕掛けられていた爆薬が爆発。張作霖が乗った列車を吹き飛ばしました。重傷を負った張作霖は、死ぬ間際に「日本軍の仕業だ」と言い残したと伝えられます。
爆弾を仕掛け、張作霖を爆殺したのは関東軍の河本大佐でした。河本は犯行を蒋介石の命令を受けたスパイの仕業にしようと中国人を買収し、殺害しました。しかし、買収された中国人の一人が生き延び、張作霖の子の張学良に真相を話したため、事件が関東軍の仕業によるものだと張学良に知られてしまいます。
張作霖爆殺事件後の動き
事件の発生を知った田中義一首相は、事件の真相解明を昭和天皇に約束します。しかし、のちに「関東軍に問題はない」と昭和天皇に報告したため、話が違うと昭和天皇が田中を叱責。それが原因で、田中は首相を辞任します。満州では、張作霖の後を継いだ張学良が蒋介石に従うことを表明しました。関東軍は、張学良の排除を図り、1931年に満州事変をおこします。その後、関東軍は傀儡国家満州国をつくりました。
昭和天皇による田中首相叱責
張作霖爆殺事件は、政府内では真相が良くわからないという意味で「満州某重大事件」と呼ばれていました。
日本側と奉天軍閥側の両方が立ち会った現場検証が行われましたが、双方の主張は平行線をたどります。奉天軍閥側は、爆破に使用した電線が日本側の監視所に引き込まれていることを指摘し、事件が関東軍によって起こされたものだと主張しました。
調査が進むにつれ、関東軍の関与が明らかになったので、田中首相は昭和天皇に真相究明と首謀者の処罰を約束します。
ところが、関東軍や陸軍大臣は関東軍による事件への関与を否定。そのため、田中義一は昭和天皇に対し、関東軍は無関係で、警備上の手落ちのみ処罰すると報告しました。これを聞いた昭和天皇が、最初の話とあまりに違うとして激怒。田中は恐縮あまり、首相を辞任してしまいます。
張学良の易幟と満州事変
張作霖の死後、奉天軍閥を引き継いだ張学良は、事件の真相を知り激しく憤ります。張学良は日本との提携をやめ、北京まで進出していた蒋介石と和解。ともに、日本軍に立ち向かうよう方針を転換しました。
1928年12月29日、張学良は奉天を含む支配地に、中華民国の旗である「青天白日旗」を掲げさせました。掲げていた旗をかえる事から「易幟」といいます。これにより、張学良軍は蒋介石の指揮下に入りました。
満州地域での影響力が低下した関東軍は、張学良の排除を図ります。1931年、奉天郊外の柳条湖付近の鉄道を関東軍が爆破。これを張学良軍の仕業であるとして、満州各地を軍事占領します(満州事変)。
張学良は日本軍との本格的戦闘を避け、万里の長城以南に撤退しました。関東軍は清朝最後の皇帝である愛親覚羅溥儀を執政とする満州国の建国を宣言します。
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満州国の建国と国際連盟脱退
満州事変の勃発は、満州進出を狙っていたアメリカを怒らせました。アメリカのフーヴァー大統領は、日本による満州事変は中国の領土保全を約束した九カ国条約や不戦条約に違反しているので承認できないと発表します。
中国側も、日本の行動は侵略行為だとして国際連盟に提訴しました。国際連盟はリットン調査団を派遣。調査団も、満州事変が関東軍の謀略である可能性を指摘します。
国際連盟は満州国の不承認と日本軍の占領地からの撤退を決議したため、日本は国際連盟から脱退しました。国際連盟を脱退したことで、日本の孤立が深まります。
満州事変後、日本軍は軍事活動を万里の長城以南にも拡大。華北分離工作をおこない、中国北部を中華民国から分離させようと図りました。
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