日本の歴史

日本を産んだ夫婦神「イザナギ・イザナミ」の神話とは?似た外国の神話などわかりやすく紹介

八百万の神がいます日本。その神々を産み出した夫婦の神様がいます。イザナギノミコト(伊弉諾尊)とイザナミノミコト(伊耶那美命)です。なんとなく国産みの神様、そして縁結びの神様というイメージがあるかと思います。神道を語るにあたっても欠かせない夫婦神、一体どんな神様たちなのでしょう?そしてイザナギとイザナミの神話に類似した外国の神話とは。今回は日本を産んだ夫婦の神様と、その「似た者同士さん」について紹介します。

イザナギとイザナミの国産み神話

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世にも有名なイザナギ・イザナミの国産み神話、そして夫イザナギが妻イザナミを慕って死者の国である黄泉に行った末の夫婦喧嘩。夫婦神はこの日本の大地をはじめ森羅万象を産み出しました。どんな物語があるのでしょうか?本来ならば神様なので「1柱、2柱」あるいは「二神」などと数えるところですが、今回この記事では『古事記』の神様があまりに人間的なことから、あえて「1人、2人」と数えますね。

イザナギ・イザナミの夫婦による国産み・神産みの物語

国産みの神として有名なイザナギ・イザナミの夫婦神。天地開闢(てんちかいびゃく)の後、神世七代の最後に誕生したのがイザナギとイザナミです。実は兄妹なんですね。2人は他の神々から、まだドロドロである大地を完成させよとミッションを受けます。2人は天の浮き橋の上から「天沼矛(あめのぬまほこ)」で海をいっしょにかき回しました。それによって大地は固まり、出来上がったオノゴロ島(淡路島との説も)に2人は降り立ちます。

オノゴロ島で2人は夫婦となりました。しかし最初の子供は女のほうから誘ったのが原因で、不完全な体で産まれてしまいます。これはヒルコ(水子)として海に流されてしまいました。その後はイザナギの方からリードする形で本格的に夫婦の「国産み・神産み」がはじまります。本州、九州、四国といった国、山、海、川をはじめとして日本全土を形作る土地、また森羅万象あらゆる自然や物の神々を次々と産んだのです。

しかし火の神である迦具土神(かぐつちのかみ)を産んだことで、妻のイザナミが女陰(女性器)をやけど。重傷であったことから病気となり亡くなってしまいます。死の床についたイザナミは苦痛の中で、尿や糞便などの神様も産みました。最期まで自分の子供を成し続けてくれた妻の死を夫イザナギは深く悲しみます。その死の原因となった迦具土神はイザナギによって殺されてしまいました。

妻イザナミの死と夫イザナギ黄泉下り、壮絶な離婚

妻に会いたい!なんとイザナギは死の世界である黄泉国にまで下って行きます。しかし死者となった妻イザナミは黄泉の国の食べ物を口にしてしまっており、帰ることができません。愛しい夫が迎えに来たことで感動したイザナミは黄泉の国の神々と交渉することに。「こちらがいいって言うまで、絶対にのぞかないでくださいね」。言われると気になるものです。イザナギは妻が遅いのにイラついてチラッとのぞき見をしてしまいます。そこにいたのは体中をウジに食われ醜く変わり果てたイザナミの姿でした。

イザナギは逃げます。黄泉の鬼に追いかけられるのを振り切るために、髪飾りから生まれたぶどう、クシから生まれた筍(たけのこ)、そして黄泉と地上の境に生えていた桃の木の身を投げて追手を撃退。この3つの植物(特に桃)は邪を祓うとして現在も尊ばれています。やっとのことで黄泉比良坂(よもつひらさか)をイザナギは登りきりました。おっかないので地上側の出口を岩でふさぎ、ほっと一安心。ここで追いついた妻・イザナミとの罵倒合戦が繰り広げられました。

イザナミは「愛しい人、こんなひどいことをなさるなら私は1日に1000人の人を殺すでしょう」と怒り、それに対してイザナギは「愛しい人、それでは私は産屋を建てて1日に1500人の子供を産ませよう」と返事。これで2人は離縁。イザナギとイザナミは日本初の夫婦であり、日本初の離婚カップルです。

黄泉から戻ったイザナギ、三貴子の誕生

黄泉から戻ったイザナギは、穢れを落とすために禊(みそぎ。水に入って体を清める浄化のこと)を行いました。全身を洗い清めたときにまた身体から次々と神が産まれます。左目の部分から天照大神(アマテラスおおみかみ)、右目から月読命(つくよみのみこと)、鼻から建速須佐之男命(スサノオのみこと)が誕生。以後イザナギはこの三貴子に日本の統治を託します。女神・天照大神には高天原を、月読命には夜を、建速須佐之男命には海をそれぞれ頼んだのです。

しかし建速須佐之男命は母・イザナミのいる国に行きたいと言って大泣き。怒ったイザナギはこの末の息子を追放してしまいます。日本という国をつくり上げ、愛した妻と熟年離婚をしたイザナギはその後、淡道の幽宮というところへ引退することとなったのです。

太陽神の女神・天照大神は高天原を統べました。天照大神は日本の皇室の祖とされています。スサノオはその後も高天原を引っかき回すトラブルメーカーとして『古事記』で活躍し(?)、お姉ちゃんのアマテラスがブチ切れて天の岩戸に引きこもる事件などを次々と起こしますが、それはまた別の話。ちなみに今上の令和天皇陛下は『古事記』の世界から数えて126代目。自分のご先祖様が神話に語り伝えられているって、なんだかロマンチックですね。

イザナギ・イザナミに似た外国の神話って?

ところで世界中の神話や文学を見ていると「あれ、これパクリ……?」と首をかしげるようなことがあります。まさかパクったわけではありません。しかし不思議と世界には、似通った神話や伝説があります。これを比較宗教学という分野が深く研究を続けてきました。イザナギの繰り広げた黄泉下りの冒険。よく似た神話は世界に非常に多くあります。その中でも有名どころを3つ紹介しましょう。

芸は身を助ける!?ギリシャ神話の『オルフェウス』

ギリシャ神話にもイザナギの黄泉下りに類似の記述があります。竪琴の名手・オルフェウス(オルペウス)の冥府下りの物語です。草木も耳を傾けるというほどの竪琴の名手であるオルフェウスは、最愛の妻エウリュディケーを毒蛇にかまれて亡くしてしまいます。妻に会いたい!彼は冥府(死者の世界)を下ってエウリュディケーを取り戻しに行きました。

哀しみと切なさのみなぎる竪琴のメロディに地下の河スティクスの渡し守カローン、地獄の番犬ケルベロスなど地獄警備員たちはボロ泣き。オルフェウスの奏でる音色に涙を流す者共をやりすごし、オルフェウスは冥界の王ハデスとその妃ペルセポネに面会することができました。オルフェウスの渾身の演奏に感動したハデスはエウリュディケーを返還することに同意します。「ただし絶対に振り返ってはいけない」と言い聞かせて、オルフェウスの後ろにエウリュディケーを従わせる形で送り出しました。しかし地上の光が見えたその瞬間、ふいに不安になったオルフェウスは後ろを振り向いてしまいます。その瞬間エウリュディケーは消え去り……それが永遠の別れとなりました。

イザナギの黄泉下りとすごく似ていませんか?2つの神話の共通点は多神教であることです。人間味あふれる(時として人間以上にエグい)神々のドラマ。また『古事記』と『ギリシャ神話』において、死後(黄泉・冥府)の世界は汚く醜くおそろしいという世界観も共通していますね。死後の世界がキラキラした天国・極楽というポジティブな世界観はユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教などに見られますが、これらの宗教は現在も多くの信者を得ています。死後もいいとこ一度はおいで、という感じが教えを広く受け入れられた理由かもしれませんね。

ダンテ『神曲』の地獄巡り、そして元ネタ(!)ウェルギリウス『アエネーイス』

黄泉下りの物語として見逃せないのは、ルネサンス期に書かれた叙事詩ダンテの『神曲』。死んでしまった永遠の乙女ベアトリーチェを求め、案内役のウェルギリウスにくっついて地獄、煉獄、そして天国をめぐる超エキサイティングな冒険物語です。筆者も『地獄篇』のみ読みましたが、時事ネタや政治批判をこれでもかと詰めこみ教養が練りこまれた一大叙事詩には圧巻の一言でした。

クライマックス艱難辛苦を乗り越え、ダンテはついにベアトリーチェに再会します。さてこの物語自体は有名ですが、日本ではあまり知られていない「元ネタ」となった叙事詩があるんです。それが、古代ギリシャ時代の詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』。ホメロスの史上最高の叙事詩『イリアス』に登場する英雄アイネイアスが主人公です(タイトルの『アエネーイス』は「アイネイアスの物語」の意味)。

多くの死者を出したトロイア戦争。トロイアの王子アイネイアスは「トロイの木馬作戦」でトロイアが陥落した後、旅に出ることに。カルタゴの女王との恋物語や古代ローマ帝国の建国につながるエピソードなどを散りばめている一大叙事詩ですが、この旅の中で英雄アイネイアスはすべてを見通す巫女・クマエのシビュラに導かれて冥界(死者の国)に下ります。もう亡くなった敬愛する父親を求めて冥界へ向かうアイネイアスは、トロイア戦争で命を落とした戦士たちの姿も眼にすることになるのですが……。『アエネーイス』はラテン語文学の最高傑作と言われています。ダンテはその作者ウェルギリウスを大リスペクト!「師」として自作の中に登場させたのです。

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