平安時代日本の歴史

蝦夷征討で活躍した征夷大将軍「坂上田村麻呂」とは?元予備校講師がわかりやすく解説

8世紀末から9世紀にかけて、桓武天皇は東北地方の蝦夷(えみし、えぞ)を征討し朝廷に従わせようと考えました。この時、桓武天皇が征夷大将軍に任じたのが坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)です。坂上田村麻呂は蝦夷の首長アテルイとの戦いに勝利し、東北での朝廷の支配領域を大きく広げました。今回は朝廷が行った蝦夷征討と坂上田村麻呂について元予備校講師がわかりやすく解説します。

奈良時代以前の東北経営

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645年、大化の改新によって天皇中心の国づくりが始まりました。その一方で、朝廷は支配領域を徐々に拡大。7世紀中ごろ、斉明天皇によって派遣された阿倍比羅夫は東北地方の日本海側を制圧します。その後、奈良時代に出羽国が設置され日本海側の支配が進みました。一方、太平洋側は724年に、ようやく多賀城が設置されるなど日本海側よりも朝廷の進出が遅れます。

阿倍比羅夫の遠征

奈良時代より前の古墳時代から、東北地方には蝦夷と呼ばれる人たちが住んでいました。蝦夷とは宮城県中部以北、山形県以北に住んでいた人々のこと。

645年に大化の改新が行われ、中央集権的な国がつくられ始めると、朝廷は東北地方に領域を拡大します。647年、朝廷は新潟県北部に淳足柵磐舟柵などの軍事拠点を設置し北上をはかりました。

658年、斉明天皇は武人の阿倍比羅夫に水軍180隻を授けて東北地方の日本海側を北上させます。「日本書紀」によると、阿倍比羅夫は東北地方の蝦夷を従わせ、北海道とされる粛慎を平らげました。

北海道にまで到達したかどうかはさておくとして、阿倍比羅夫の遠征により朝廷による日本海側の支配が進んだことは確かでしょう。

出羽国の設置と日本海側への進出

阿倍比羅夫の遠征からおよそ50年後、708年に出羽柵が秋田県南部に作られます。その3年後、朝廷は出羽柵の周辺に出羽国を設置し東北支配の拠点としました。出羽を支配する出羽国府は最初、出羽柵に置かれたと考えられます。

733年、朝廷は出羽国支配の拠点を秋田県南部の庄内地方にあった出羽柵から現在の秋田市に築城した秋田城に移しました。秋田城が整備されたのは天平宝字年間(757~764)年のことと考えられます。中央では淳仁天皇のもと、藤原仲麻呂が権勢をふるっていたころですね。

奈良時代につくられた秋田城は平安時代になっても出羽国支配の拠点として使われ続けます。秋田城は津軽や北海道南西部の渡島の蝦夷との交流や中国東北部にあった渤海国との交流の窓口として機能しました。

多賀城の設置と太平洋側への進出

日本海側に比べ、太平洋側の進出は大分遅れました。日本海側は、都である京都からの交通の便が良く、兵を動かしやすかったのに対し、太平洋側は未開発で交通の発達も不十分だったからでしょう。

それでも、724年に現在の多賀城市周辺に多賀城が築かれます。多賀城には陸奥国府が置かれ、朝廷の東北地方支配における最重要拠点として機能しました。築城したのは按察使の大野東人です。

多賀城は築城当初と天平宝字年間、伊治呰麻呂の乱で焼失した後の再建、貞観地震による倒壊からの再建と4度にわたって修築・改修を繰り返しました。多賀城は九州の大宰府と同様、朝廷の威信を示すための施設として威容を誇ります。坂上田村麻呂の東北遠征でも、多賀城は重要な拠点として機能しました。

桓武天皇時代の東北経営

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780年、桓武天皇の父である光仁天皇の時代に伊治呰麻呂の乱が勃発。東北地方の拠点だった多賀城が焼失しました。781年に即位した桓武天皇は紀古佐美に蝦夷を征討させます。ところが、紀古佐美は蝦夷の首長アテルイ(阿弖流為)に敗北してしまいました。かわって、征夷大将軍に任じられ蝦夷征討を行ったのが坂上田村麻呂です。坂上田村麻呂はアテルイに勝利し、朝廷の支配領域を北に押し上げました。

伊治呰麻呂の乱

伊治呰麻呂は8世紀後半に東北地方で活動した蝦夷の首長です。朝廷から官位を授けられ、郡司にも任命された有力者でした。光仁天皇時代の780年(宝亀11年)、伊治呰麻呂が朝廷に対し反旗を翻します。

伊治呰麻呂は陸奥按察使の紀広住純らを襲撃して殺害。朝廷の拠点である多賀城を攻略しました。呰麻呂の反乱は個人的な怨恨が原因とも、朝廷の蝦夷支配に対する不満があったともいわれていますが、定かではありません。

朝廷は藤原継縄を征東大使に、大伴益立と紀古佐美を副使に任じて呰麻呂を討伐させようとしました。しかし、征東軍は十分な準備ができず、軍事活動を行うことができません。

遅々として蝦夷征討が進まないため、朝廷は司令官を藤原小黒麻呂に変えましたが、決定的な戦果を挙げることはできませんでした

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