平安時代日本の歴史

3分でわかる!落窪物語のあらすじ・和歌・おすすめマンガまでご紹介

日本が全般的に平和だった平安時代は、さまざまな文学が発達しました。たくさん編纂された和歌集などもちろんそうなのですが、創作文学も「源氏物語」や「伊勢物語」、「竹取物語」など読者の想像を掻き立てるような魅力的な作品が多く登場しました。その中でも「落窪物語」は日本版シンデレラともいうべき秀作で、物語の面白さだけでなく、作品を通して当時の風俗や習慣などが垣間見えるものとなっています。そんな落窪物語を詳しく読み解いていきたいと思います。

1.落窪物語とはどのような作品?

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まず物語の本題に入る前に、1000年前のシンデレラストーリー「落窪物語」という創作文学(小説)がどのようなものだったのか?解説していきましょう。

1-1.イジメ、恋愛、勧善懲悪を描いた人間ドラマ

書かれたのは平安時代中期の10世紀末だといわれており、その最終巻は清少納言が執筆したともされています。

「落窪物語」の落窪とは、貴族の寝殿(母屋)の横にある落ち窪んだ部屋のことで、まるで召使い同然の扱いで住まわされている【落窪の君】という姫のことです。

早い話が、継母(ままはは)にイジメを受ける薄幸な姫の物語ということなのですが、男らしくてかっこいい王子様が現れて姫を救い出し、落窪の君をいじめていた継母が罰を受けるというお話。

この時代の作品らしく、不幸な境遇の主人公が苦難の果てにに幸せなラストを迎えるというハッピーエンドは、今も昔も人々の共感を呼んだということでしょうね。

2.【第1巻】姫の不幸な生い立ちと、右近の少将との出会い

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落窪の君は、まさに薄幸を絵に描いたようなキャラクターで、物語の中ではしょっちゅう泣いています。そんな境遇にあった姫にとって唯一の光ともいえる存在が右近の少将との出会いでした。

2-1.哀しい落窪の君の境遇

その昔、源忠頼という中納言がいました。彼には北の方という正妻と娘が四人いて、長女と次女はすでに結婚して同じ屋敷に住まわせ、三女と四女は将来のために大事に育てていました。

ところがもう一人、中納言が皇族の娘との間に産ませた姫がおり、母が亡くなったために引き取ったわけですが、まったく姫扱いすらされずに、片隅の落ち窪んだ部屋に押し込まれていました。

しかしその姫はたいそう美しく、皆からは「落窪の君」と呼ばれていました。

2-2.右近の少将の登場

姫であるのに皆から蔑まれ、下働きの者がするような裁縫などの雑事も全て押し付けられ、落窪の君は眠る暇すらありません。しかも着るものもみすぼらしく使用人同然。彼女はそんな境遇を嘆き悲しむ日々が続きました。

そんな彼女の唯一の慰めは、もとは自分の侍女だった阿漕(あこき)が足繁く部屋へ来てくれること。二人は昔から本当に仲が良かったのです。阿漕の夫である帯刀(たてわき)も落窪の君の数少ない味方でした。

ところが、その帯刀と乳兄弟だった右近の少将という貴族の美青年がここで登場します。何気なく帯刀から落窪の君の話を聞いた少将は、彼女に興味を持つことに。

「不幸な境遇にあるとはいえ、高貴な姫の生まれでたいそう美しいと聞く。どのような姫なのだろう?」

そこで彼は試しに手紙を差し出すことにしました。

「君ありと 聞くに心を つくばねの 見ねど恋しき なげきをぞする」

(あなたのような美しい方がいると聞いて、まだお会いもせぬのに悶々としております)

2-3.熱心に手紙を出し続ける右近の少将

しかし落窪の君にとって、手紙をもらうのはもちろん初めてのこと。たいへん困惑しました。いわゆるラブレターですから、どうしていいのかわからないのは当然のことでしょう。

また落窪の君は、自分のみすぼらしさを恥じ入ります。

「お相手は今を時めく貴公子なのに、私はこんな小汚い姿でしかない。」

落窪の君は恥ずかしさのあまり返事すら出そうとしません。いや返事を出せませんでした。それでもなお少将は懲りずに手紙を出し続けたのです。

帯刀から妻の阿漕経由で手紙を渡すものの、中納言家の三女の婚姻や日々の雑用など、落窪の君の忙しさは目が回るようで、まともに手紙を読む暇すらなかったのでしょう。

2-4.落窪の君と少将の契り

少将が悶々としていた頃、中納言家では石山詣に行くということで皆出払ってしまいました、もちろん落窪の君は連れて行ってもらえずに留守番です。

すると帯刀から話を聞いた少将が「これは好機到来!」とばかりに中納言家へやって来たのでした。垣根の隙間から見た姫の姿はたいそう美しく、夜を待って少将はたまらず姫の寝所へ。

当時の求愛は相手の寝所へ忍ぶ「夜這い」が普通でしたから。姫は自分のみすぼらしい姿が恥ずかしくて泣くばかり。しかし、少将はそんな落窪の君の姿が可愛らしく思え、ますます恋心をつのらせるのでした。

侍女の阿漕は、せめて部屋の見栄えを良くしなければと掃除をしたり、叔母から美しい衣や調度品を譲り受けたりしました。

そして第二夜を迎えた頃、姫も徐々に打ち解けて少し話ができるようになったようです。そして第三夜のこと、今度は豪雨の中をわざわざ逢いに来てくれた少将の誠意に、落窪の君もまた強い恋心を抱いたのでした。

2-5.北の方の憎悪

しばらくして中納言一家が屋敷に帰ってきました。相変わらず姫のつらい生活は続いており、たびたび人目を忍んで少将は姫に会いに行っていましたが、ある時ついに北の方に見られてしまうことに。

実は娘の四の君を少将に嫁がせたいと考えていたのですが、事実をその目で見た北の方は、いっそう落窪の君への憎しみが増していくのでした。

激怒した北の方は、夫の中納言にあることないことを言い触らします。少将のことは隠しておいて、とんでもないことを言い放ったのです。

「落窪の君は密かに帯刀と通じていて、こそこそと会っていた!」

そんなウソを中納言も疑うことなく同意し、落窪の君は薄汚い物置に監禁されてしまったのです。

「人しれず 思ふこころも いはでさは つゆとはかなく 消えぬべきかな」

(少将さまを人知れずお慕いしているこの思いは、露のようにはかなく消え去ってしまうのだろうか)

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明石則実