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ドストエフスキーVSトルストイ、ロシア2大文豪どっちがスゴイ?違いや背景を分析

19世紀はロシア文学黄金期。泣く子も黙るのがドストエフスキーとトルストイです。思想家としても世界中に多大な影響をおよぼしたトルストイ。一方でドストエフスキーは「20世紀の預言書」とまで呼ばれた作品群を書き上げました。どちらもスゴイ文豪ですが、さて、その違いは?結局どっちのほうがすごいの?今回は世界文学どっぷりなアラサー文学少女(?)がロシア2大文豪を大分析です!

ドストエフスキー、トルストイの人生ってどんなの?

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「えっと、ロシアの人でしょ?」という感じですよね。彼らが生きたのは19世紀、農奴解放と社会主義・共産主義の台頭で揺れる激動のロシア帝国でした。2人はともに同じ時代を生きながら、人柄や人生はほとんど真反対。好対照なドストエフスキーとトルストイの人生、それを土壌に生まれた名作たち。作品の原点となった文豪の人生をおさらいです。

貴族で戦争にも行ったトルストイ、処女作で絶賛を受けるドストエフスキー

まずトルストイから紹介していきましょう。彼は伯爵、ロシア皇帝家に仕えた由緒正しい貴族です。両親の死後叔母のもとで育ちますが、学校ではお酒だ舞踏会だ社交界だと遊びまくって成績不振。あふれでるボンボン臭!そんな中で農民生活改善をめざすものの、いいとこの坊っちゃんが頭でっかちに考えたことで、当然ながら失敗します。その後も遊んで暮らしましたが、その後コーカサス戦争やクリミア戦争に従軍。この時の経験が大作「戦争と平和」に活かされます。そして彼の生涯を貫く「非暴力主義」の源となるのです。

ドストエフスキーは貧民救済病院の医師を父親に持ちます。少年時代に父親が殺され、この事件は晩年の傑作「カラマーゾフの兄弟」の父親殺し事件のモデルとなったのです。ドストエフスキーは貴族ではありませんでしたが、ある程度の有産階級だったととらえて良いでしょう。サンクトペテルブルクで陸軍工兵学校に入り、職を得ようとしますが、就職先の工兵製図局がイマイチ、と1年で退職。作家で食っていく!と決心するのです。そして処女作「貧しき人びと」をものにするのですが……。

ドストエフスキーの「貧しき人びと」を読んだ当時の作家・評論家は驚愕。「第2のゴーゴリの誕生だ」と歓喜し、なんとドストエフスキーの自宅を夜中に突撃して祝福しました。文学史に残るドラマティックなエピソードです。一方、トルストイの処女作は「幼年時代」。当時から心理描写に秀で、新進作家として注目されはじめていました。

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ドストエフスキーは政治犯として処刑!?トルストイが農民改革に乗り出した理由は

華々しいデビューを飾ったドストエフスキーはその後、作家として活動をはじめますが、出す作品はことごとく不評。筆者はその頃の作品「白夜」などを読んだことがありますが、初々しく見事な作品で、決して下手ではありませんでした(というか普通にめちゃくちゃおもしろかったです)……。ともあれあそこまで処女作で絶賛された彼は酷評を受けます。ここで彼は生涯を変える大事件に遭遇するのでした――銃殺刑です。

非合法の空想的社会主義の活動に没頭しだしたドストエフスキー。当局は彼を逮捕し、死刑を言い渡します。執行当日、銃殺隊の前で目隠しをされてついに死が訪れようとしたそのとき、皇帝からの使者が到着しました。刑を減じられ、シベリア流刑となったのです。マジで「死ぬかと思った」ドストエフスキー。彼の運命は転回しはじめます。

一方、従軍から帰還し作家活動を開始したトルストイは、だんだん地に足のついた生活を欲するようになりました。折しも農奴解放令が発布。ロシアの社会システムが大きく揺らいだ時期です。ロシアの農奴は教育も人権もなく金銭で売り買いされる存在でしたが、トルストイは農奴解放によって自由になった彼らを教育・農民生活の改善に力を尽くしました。その後妻ソフィヤと結婚。12人の子どもをもうけます。しかし彼は人生の無意味さを感じ、自殺を考えるようになるまでとなっていたのです……農民への教育で大地に根ざすことで、自分を保っていたのかもしれません。

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聖人君子トルストイ、ダメダメ人間ドストエフスキー

トルストイの代表作といったら「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」などの写実主義の群像劇、大長編。特に「戦争と平和」は登場人物なんと500人!膨大な人物すべて生き生きと描いた作品は驚嘆の一言です。「アンナ・カレーニナ」は世界一有名な不倫小説の1つですが、人妻アンナと美男の貴公子アレクセイの恋と破滅が緻密な後世で描かれます。ドストエフスキーもこの「アンナ・カレーニナ」を絶賛しているんですよ。

で、ドストエフスキー。シベリア流刑から帰還した後「虐げられた人びと」などの作品で復帰した彼は、ドストエフスキーがドストエフスキーになった作品と評される「地下室の手記」で大きな転換点を迎えました。人間の内面の醜悪と慾望をえぐる彼の作品は、貴族的な清潔ともいえるトルストイの作品とはほぼ真逆のように筆者は考えます。「罪と罰」「悪霊」「白痴」など傑作をものにしますが……。

ドストエフスキーの傑作の陰には酒びたりと賭博狂いで借金まみれという生活がありました。原稿料を前借りして気合で作品を書く日々。なんか、すごく、ダメ人間!生涯を教育と思想の形成についやし、政治的にも高潔で世界に影響を与えたトルストイとは、別ベクトルですね。しかしこの「ダメ人間」っぷりが彼の作品の人間愛へつながっているのです。

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