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シェイクスピア著、喜劇の傑作『ヴェニスの商人』をわかりやすく解説!単純な勧善懲悪の物語では終わらない…?

『ヴェニスの商人』は、商業資本主義的な面など16世紀のヴェニス社会を垣間見られる、シェイクスピアの喜劇です。勧善懲悪がテーマのスッキリ系の小説として読むのもいいですが、家族関係をはじめ宗教差別や経済、同性愛etc…小難しいシェークスピアワールドを多方面から読み解くのにもおすすめです。また、最大の面白さは自分勝手に主人公を変えて読んでみること。今回は、シェイクスピアが軽快なテンポで書き下ろした喜劇の傑作『ヴェニスの商人』を解説します。

1.『ヴェニスの商人』のあらすじ

『ヴェニスの商人』は、1594~1597年に全5幕20場で書かれたシェイクスピア喜劇の代表作のひとつです。富豪の娘に恋い焦がれる青年を応援する友は、復讐を狙う高利貸しから自分の体の肉1ポンドを担保に借金をするも返済不能に!ペナルティを課せられる間際に、思わぬ救世主が現れるのです…。英国で初演され400年経つも、現在も人気の衰えない『ヴェニスの商人』とは、いったいどんな物語なんでしょう。

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〇登場人物

・アントーニオ(Antonio)―ヴェニスの貿易商(主人公)。バサ―ニオの借金の保証人となる、正義感が強く情に厚い男。

・シャイロック(Portia)―ユダヤ人の強欲な高利貸し。商売の邪魔だとアントーニオに恨みを持ち、自分の体の肉を担保に金を貸す。

・バサーニオ(Bassanio)―高等遊民でアントーニオの親友。ポーシャと結婚する。

・グラシアーノ(Gratiano)―アントーニオとバサーニオの友人。ネリッサと結婚する。

・ポーシャ(Portia)―莫大な財産を相続した娘。博士に変装し裁判所で大岡裁きをやってのける。パサーニオと結ばれる。

・ジェシカ(Jessica)―シャイロックの娘。

・ロレンゾ(Lorenzo)―ジェシカと結婚する。アントーニオとバサーニオの友人。

・ソレーニオ(Solanio)―バサーニオの仲間。本によっては仲間の数が違うことも。

・ネリッサ(Nerissa)―ポーシャの次女。グラシアーノと結婚する。

・テューバル(Tubal)―シャイロックのユダヤ人の友人。

・ランスロット(Launcelot)―シャイロックの召使、道化役

第一幕 高利貸しと心優しきヴェニスの商人

ヴェニスで貿易商を営む「アントーニオ(主人公)」は、父の膨大な遺産を相続したある国の貴婦人ポーシャを愛しているのにお金がなく相応しい支度が整えられないため求婚できない、親友バサーニオに3000ダカットのお金をどうにかできないかと相談されました。アントーニオは、その時全財産を海上貿易に投資しており手元にはお金がありません。

いつも無利子で金を貸すアントーニオのことを恨む、ユダヤ人高利貸しのシャイロックに借金を頼んだのです。シャイロックは、それでも3ヶ月の期限付きでお金を貸してくれます。キリスト教のアントーニオは軽蔑するユダヤ人からお金を借りたくはなかったのですが、親友バサーニオのためと借りることにしたのです。

その時シャイロックは遊び心で、期限内に返済できない時は、無利子にする代わりにアントーニオの体から、金と同じ1ポンドの重さの肉を切り取ることを提案します。それまでには投資船が戻り大金を手にしていると踏み、借用書にサインをしました。

第二幕ポーシャの結婚の条件とジェシカの駆け落ち

バサーニオが愛するポーシャのベルモントにある豪華な屋敷へ、最初に求婚目的でやってきたのは黒人モロッコ皇太子です。彼女の父は結婚に、「金・銀・鉛」で作られた3つの箱から好きなものを選ぶ、「箱選び」の条件を出していました。正しい箱を選べば結婚を承諾するが、間違えたら二度と他の女性には求婚しないと誓えというのです。それでも、モロッコ皇太子は挑戦しますが、黒いドクロが入った外れの「金の箱」を選びスゴスゴと帰りました。

ヴェニスでは、シャイロックの使用人で道化のランスロットが、欲深い主人に辟易して、バサーニオに仕えたいと親子で訪れます。バサーニオは快諾し、「今夜のパーティへシャイロックを招待したい」と使いを頼んだのです。辞めたばかりの元主人へのお使いでしたが、道化らしく難なくクリアします。

シャイロックの娘ジェシカは、アントーニオの友人でキリスト教徒のロレンゾと相思相愛でした。2人はシャイロックがパーティへ出かけた隙に、金銭や宝石を持ち駆け落ちするのです。突然パーティが中止になり家へ戻ったシャイロックは、状況を見て悲しみのあまり「裁判だ!金と娘を返せ!」と喚き、キリスト教徒への憎悪を滾らせました。一方ポーシャの元には、次の求婚者として、ボーっとした印象のアラゴン王子が訪れます。彼は道化人形が入った外れの「銀の箱」を選び、潔く帰りました。

第三幕アントーニオの破産とポーシャと結婚するバサーニオ

アントーニオの命を担保に借りたお金でバサーニオも、友人のグラシアーノを連れポーシャの元へ求婚に行くことを決意し港に到着します。その時、アントーニオの投資船が遭難したとの情報が入るも、一隻だけならと重く受け止めず船でベルモントへ向かったのです。

ヴェニスでは、アントーニオの投資船難破の噂で沸き、失意のどん底にあったシャイロックは彼が破産すると踏み復讐を決めます。ベルモントに着き求婚に訪れたバサーニオに、ポーシャも好意を持っていましたが、父の遺言を曲げるわけにはいきません。「箱選び」に挑戦したアントーニオは、ポーシャの絵が入った鉛の箱を選びます。「あなたは、外見で人を判断しない男だ。」とのメモもあり、ポーシャとの結婚の条件をクリアしたのです。お伴で友人のグラシアーノも、ポーシャの侍女ネリッサと恋に落ち、2組のカップルが誕生しました。

バサーニオは、愛する妻と膨大な財産を手に入れます。アントーニオが破産し、シャイロックの彼に対する復讐心を知ったバサーニオは、いてもたってもいられません。バサーニオはポーシャに「アントーニオが体の肉を切り取らせる約束で借金をしてくれたのでここへ来れた。」と告げます。ポーシャは、証文の取り消しのため借金の倍6000ダカットを持たせ、グラシアーノとヴェニスへ帰らせたのです。その時、ポーシャとネリッサも、夫たちに内緒でヴェニスに向かいました。

第四幕人肉裁判の結末は如何に?

ヴェニス大公は、アントーニオの不運を憐れむようシャイロックに要請します。バサーニオは今ここにある、3000ダカットの倍の6000ダカットで返済を申し出るも、証文通りにしてほしいと一歩も譲らなかったのです。借金返済ができない、アントーニオは覚悟を決めます。

若い法学者に変装したポーシャも、アントーニオの慈悲を促すも譲りません。証文は完璧だとシャイロックに語らせ、仕方なく肉1ポンドを切り取る判決を下したのです。シャイロックは大喜びでナイフを胸元に付けた時、ポーシャの反撃が始まります。外国人がヴェニス市民の生命を脅かした時の法律により、「証文にないキリスト教徒の血を、ちょっとでも出血させれば全財産を没収する」と告げたのです。

血を出さずに肉を切り取るのは無理と諦めたシャイロックは、元本だけと引き下がりますが、ポーシャは逆に人命を奪おうとした罪で罰するといいました。でも、アントーニオはキリシタンの慈悲により、死罪になったシャイロックを3つの罰で許すように提案します。財産を駆け落ちした婿に半分渡し、キリスト教へ改宗すること。遺産は全て娘たちに譲るというもので、シャイロックは後に財産の譲渡証書に署名させられることになったのです。

バサーニオは裁判のお礼にお金を差し出すも、ポーシャは指にある婚約指輪を要求します。最初は断るも、アントーニオの説得によりグラシアーノと共に婚約指輪を渡さざるを得ませんでした。

第五幕幸福の始まりは微笑ましい悪戯からだった

ポーシャとネリッサは大急ぎで屋敷に帰り、2人の夫とアントーニオを迎えます。笑いを堪えながら2人は、夫に指輪がないことを問い詰めたのです。事情を説明するも妻たちは、若い女の子にあげたと取り合いません。

次第に可哀想になり、指輪を出し裁判でシャイロックを懲らしめた若者は私たちだと正体をばらしました。そして、アントーニオにも、難破した投資船の内3隻が港に姿を現した吉報を知らせます。ポーシャたちの微笑ましい悪ふざけとバサーニオがちが知って、シャイロック以外の皆がハッピーエンドになりました。

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