ドストエフスキーVSトルストイ、ロシア2大文豪どっちがスゴイ?違いや背景を分析
ストイックなトルストイ、堕落から希望を求めるドストエフスキー
トルストイ派とドストエフスキー派に分かれる理由の1つに、その作品世界観、人生観が大きく影響しています。ドストエフスキーは数多く女性遍歴があることもあり、女以上に女心の分析をしていて悪女も賢女も描き方が見事。また彼の作品のコンセプトは「罪人の救済」です。酒浸りで家族の靴下まで売り飛ばしてウォッカに変えてしまう飲んだくれ、少女を陵辱する青年貴族、男を手玉に取るヒステリー女、とざっとピックアップしただけでも、人間らしいといえば人間らしい、ダメ人間といえばダメ人間なやつらが作中で躍動します。
ドストエフスキー自身がダメ人間、罪深い人間であると自覚していたからこそ、このような救済の思想を持てたのでしょう。トルストイはその反対に、作中で清らかな理想の世界のビジョンをしっかりと作っています。人間の業や哀しみを、超絶したリアリズムの技術で描きながら、彼の作品には非暴力と農民たちへの愛があふれてやむことがありません。
強い理想を持ち、その高みにむけて邁進し、2人の姿はまさに巨人そのもの。彼らが当時も今も多くの人の尊敬と愛を受けているのは、なんといっても思想の強靭さゆえでしょう。
罪と罰〈上〉 (新潮文庫)
Amazonで見るドストエフスキーとトルストイ、とっつきやすい代表作をご紹介
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ドストエフスキーとトルストイ、大長編の名前は聞いたことがあるけど手が出づらい……そんな方も多いと思います。短編~中編で読みやすい作品をピックアップしてご紹介していきましょう!筆者のおすすめの仕方としましては、「自分がダメ人間だと悩んでいるならドストエフスキー。美しい世界と小説を求めるならトルストイ」です。あなたが楽しい読書に出会えますように。
ドストエフスキー「貧しき人びと」「地下室の手記」
まずドストエフスキーのおすすめ中編は「貧しき人びと」。ドストエフスキー作品は先にも記したとおり、借金と前借りの連続の中書いたため、プロデビューの後の作品は実は専門的に見るとアラが目立つんです。一方この処女作は時間と手間をかけることができたため、構成など非常にていねい。「貧しき人びと」の見どころはなんといっても、お金!内容は、ビンボなおっさん下級官吏と病弱な孤児の少女の書簡体ラブロマンス。下着がいくらしただの、贈り物の値段がどうの、古着が安かっただの、切々としたお金のリアリティ、そして痛々しいほどの純愛は圧巻です。
「地下室の手記」は「ドストエフスキーがドストエフスキーになった小説」と言われています。人間の恥部、醜悪さ、孤独や偏執的な感情、イタさに踏み込んだ作品。この小説は、いろいろとイタい!なんせ冒頭の一文がコレです。
俺は病んでいる。
「地下室の手記」亀山郁夫訳
自意識過剰の意識高い系おっさんが、パーティーに出るもののぼっちでハブられるなど、イタイけど自分も身に覚えがあるかも……と、一部の人は既視感バリバリになること間違いなし。地下室にこもったアラフォーおじさんが自分を振り返る手記なのですが、自己顕示欲と自己嫌悪がないまぜになりながらも、訪れるのは不思議な読後感……優れた小説というのは、自分に寄り添ってくれる、という実感を強く持てる物語です。「地下室の手記」はその1つに数えてよいでしょう。
貧しき人びと (新潮文庫)
Amazonで見るトルストイ「イワン・イリイチの死、クロイツェル・ソナタ」「イワンのばか」
トルストイ作品は「悪人は悪!善人はいいひと!」と、わりと明暗がハッキリしているのが特長の1つです。人物像が明瞭なのがお好きな方はトルストイをおすすめ。トルストイ作品の中から読みやすいものをピックアップしますね。
「イワン・イリイチの死、クロイツェル・ソナタ」は短編集。「イワン・イリイチの死」は、イワン・イリイチの葬儀のシーンから物語がはじまります。彼の人生はまじめそのもの。しかし周囲との感情のふれあいをおそろかにした結果……。「クロイツェル・ソナタ」は、妻の不貞を疑う夫の姿と三角関係ドラマを描いたものです。心理描写の鮮やかさとドラマティックさは、賛嘆の一言。問答無用で一気にひきこまれます。ただ人によっては「女性蔑視がちょっと……」となるかもしれません。しかしトルストイにはじめて手を出すとしたら、おすすめです。
「イワンのばか」は、ロシア民話をトルストイが再編して書いたもの。主人公「ばかのイワン」はロシア正教会の文化の1つ「痴愚聖」「神がかり行者」などと呼ばれる、知的障害者への崇敬につながる思想をあらわしています。「天の国は子どもたちのもの」というキリストの言葉を実践するかのような一編です。民話なので、子どもにもおすすめ!
イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)
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