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【文学】ヴィクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』を解説!読みづらい原作の攻略ポイントを整理!

ミュージカルや映画、『ああ無情』の邦題でも知られるフランス文学の傑作『レ・ミゼラブル』。ジャン・バルジャンと少女コゼット、それを追いつめるジャベール警部、マリユスとのロマンスと革命……しかし原作の読みづらさはまさに、ああ無情……読書家の筆者が遠い目をするほど。でもミュージカルの原作に挑戦したい!そんなあなたへの、今回はレ・ミゼラブルのあらすじをたどる「原作」攻略記事です。

【第1部】「ファンティーヌ」ジャン・バルジャンの物語のはじまり

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張り切って参りましょう。この章のテーマは「贖罪、悔悛」。元懲役人のジャン・バルジャンの物語がいよいよ……はじまりません!最初はずっと、司教の給与明細や支出項目について延々と語り続けます。主人公ジャン・バルジャンが登場するのはなんと中盤ごろから。なんでこんな構成になったの?それにはユゴー作品独特の目的によります。

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唐突に繰り出される司教の家計簿?

冒頭から挫折ポイント。司教(カトリック教会における聖職者の上級管理職)である、ミリエル閣下のプロフィールが語られますが、いきなり司教の給与明細や家計簿が公開されます。いや、あの、これ何の関係があるんですか。

実は『レ・ミゼラブル』は小説ではなく、ヴィクトル・ユゴーのマニフェストなのです。フランスそのもの、理想の政治や教会、そして人間のタイプを描くための小説でした。フランス革命以前の教会腐敗は醜悪なものがありました。信仰なんてなんのその、高額な給与と贅沢な生活。それゆえに革命において教会組織の根絶がはかられたのです。結局実現はしませんでしたが……。

一切れのパンを盗んだがために19年間投獄されていた、元囚人ジャン・バルジャンはそんな中でユゴーが想像した、理想的な神のしもべ・ミリエル司教のもとへたどり着くのです。ここから先は実際に読んでみてください。著名な「銀食器と燭台」シーンは涙なしには読めません。『レ・ミゼラブル』は圧倒的リーダビリティで私たちを魅せます。真の神と信仰によって人は復活し再生することができる……ユーゴーの作品を貫いている信念です。

「マドレーヌ市長」と受難の女ファンティーヌ

小都市モントルイユ=シュル=メールに現れたカリスマ指導者、彼の名はマドレーヌ。見事な手腕によって町に工場を運営し福祉を整えました。その町にやってきた1人のシングルマザー。美しい金髪と見事な白い歯を持つうら若き、ファンティーヌ。彼女はモンフィルメイユの宿屋の主・テナルディエ夫妻のもとに小さな娘を預け、生活のため故郷へ帰ってきたのでした。

ここで解説を付しておかなければならないのは、19世紀当時のシングルマザーの風当たりです。父親がいない子供を産むなんて!不貞は破戒、神や信仰の名のもとに村八分。数々の嫌がらせで職を失った彼女は娼婦にまで身を落とします。ファンティーヌがどん底までいっているのと同時期、マドレーヌ市長……すなわちジャン・バルジャンのもとに ジャベール警部が迫るのです。

ある事件をきっかけに、マドレーヌ……ジャン・バルジャンはファンティーヌを自らのもとへ保護することに。そしてジャベール警部はついに懲役人ジャン・バルジャンの再犯を告発します。しかし心掛りはファンティーヌの娘コゼット……さてジャン・バルジャンはどのような選択をするのでしょうか?

【第2部】「コゼット」追われるジャン・バルジャン、意外な展開の連続!

どうなるのジャン・バルジャン!?胸を熱くしてさあ第2部へ。第1部でファンティーヌが手放した娘のコゼットがタイトルとなっています、なのにはじまるのは……ワーテルローの戦いジャン・バルジャンの物語が展開される年代は、ナポレオン没落直後の1815年から1832年。これ何か関係あるの?そんなバラバラな要素をつなぎあわせて構成される『レ・ミゼラブル』。ユゴーのスゴさはここからが本領発揮です。

前半5分の1近く、ワーテルローの戦いへの熱い語り

ジャン・バルジャン、どうなるの?ジャベール警部怖い、逃げて!とハラハラして第2部のページを開きます。すると唐突に開始されるのです。ワーテルローの戦いについての、ユゴーの私論が。前半、約5分の1に渡って。「ワーテルローの戦い」は言わずもがな、1815年、流刑先のエルバ島から脱出したナポレオンがイギリスやプロイセンをはじめとする連合軍と戦い敗北した戦闘です。この戦闘の結果として皇帝ナポレオンははるばるセントヘレナ島へ去ることとなります。

ワーテルローの戦い、1815年といえば、ジャン・バルジャンの物語がはじまったのと同時期。ジャン・バルジャンの釈放のころにこの戦いがあり、王政復古からルイ・フィリップ王の治世に移っていくのですが……そういう歴史的背景をおさえないと、この小説は味わい尽くせないとはいえ。うんざりしながら読み進めると、意外すぎる人物が意外きわまりない登場をし、後半への重要な伏線を張るのです。これだから『レ・ミゼラブル』はおもしろい!

さてここまで、予言しておきますが、ジャン・バルジャンは出てきません!なんとこの大長編では、主人公の彼の名前すら出てこない時期すらあります。物語の先を急ぎたい方はレッツ読み飛ばし。このような長編作品の攻略において読み飛ばしは罪ではありません。だんだん「あーまたユゴーのおっさん、はじめたよ」と慣れてきますが……。

コゼットの救出、聖域たる修道院へ

ファンティーヌの遺児、少女コゼット。宿屋テナルディエ夫婦のもとで虐待そして過重労働を強いられている、わずか8歳の少女です。ジャン・バルジャンは艱難辛苦のすえに哀れなファンティーヌの遺言を遂行します。しいたげられたコゼットのもとにあらわれたジャン・バルジャンはまるで神さまでした。

ユゴーはこの物語を通して、フランスそのものやパリの民衆をくまなく描こうと試みているのです。手に汗握る逃亡劇の結果、2人の逃げこんだパリのル・プティ・ピクピュス修道院。教会関係施設の敷地は聖域で内部に犯罪者が1歩でも入ったら、警察でも政府でも手が出ません。ちょうど日本でも駆け込み寺も同じようなシステムですね。

ある意外な人物に再会したジャン・バルジャン。ところでユゴーはこの章で刑務所と修道院を比較しています。第1部で信仰や神の必要性を力説した一方で、ユゴーは修道院制度を批判しているのです。このあたりはヨーロッパの業の深さといいますか……。この「牢獄のような場所」、シャバとは完全隔離の修道院にて、ジャン・バルジャンとコゼットは、はたして。

【第3部】「マリウス」政治のおはなし、はじまりはじまり

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By ジャック=ルイ・ダヴィッド – histoire image: info pic, パブリック・ドメイン, Link

フランス革命、それに続くナポレオン戦争。そして複数回に渡る暴動や反乱、共和制。自由と平等と人権を求めたフランスの世界を変えた決定的な認識転換が、フランス国内に大きな分断を産んだのです。すなわちナポレオン派と、王政派。伝統的なブルボン王朝を重んじるか、英雄ナポレオンを愛するか……このことは現代フランスでも「地雷」だそうな。さてこの政治的事情が物語を、歴史を動かします。

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