小説・童話あらすじ

日本三大奇書「ドグラ・マグラ」夢野久作の描く悪夢をわかりやすく解説

日本三大奇書「ドグラ・マグラ」。夢野久作のめくるめく悪夢の世界ですが、クレイジーさに序盤で挫折した人も多いのでは?次から次へと立ちはだかる難所の数々。でも今回こそ挫折しない!3回挫折ののち通しで読むことに成功し、挫折ポイントを把握。年間300冊を読みこなす自他ともに認める読書家な筆者が「ドグラ・マグラ」の魅力と攻略方法を全解説します。三大奇書の名に恥じない、まさに「読むヤバイ薬物」。あなたもご一緒に。

夢野久作「ドグラ・マグラ」きほんのキ

image by iStockphoto

まずは「ドグラ・マグラ」のあらすじをたどることとします。全体像を把握してから攻略にかかりましょう。この作品は三大奇書の「黒死館殺人事件」と比較すればまだカンタン(というのが筆者の見解)ですが、それでも一筋縄ではいきません。読み解き方もアプローチの仕方も無限にある「ドグラ・マグラ」ですが、基礎的な構造を確認してまいりましょう。

〈あらすじ〉ドグラ・マグラ

目覚めるとそこは精神病院――大正15年、秋。自分の名前も年齢も、なにも覚えていないまま精神病院の一室で意識を取り戻した主人公のもとに、若林という法医学教授がやってきます。そしてこのように言われるのです。「ここは九州帝国大学の精神病棟。あなたは自らの力で記憶を取り戻さなければならない」と。

青年の婚約者だとされる絶世の美少女、精神病患者の残した資料。記憶を取り戻したい青年の目にとまったのは一幅の絵巻物。そして精神病科教授・正田博士の様々な記録……「胎児の夢」「キチガイ地獄外道祭文」をはじめ、ある殺人事件の事件簿、「脳髄論」……。

読み進める主人公の前に意外極まりない人物が目の前にあらわれます。そして、とある2人の熾烈な戦いが明らかになるのです……。めくるめく作中作の連続の先、すべてが1つにつながり、最高のどんでん返しが待ち構えています。

ドグラ・マグラの基本構造

「ドグラ・マグラ」に筋はありますが、正直言ってあらすじを知っても内容の把握にはあんまり役に立ちません。方位磁針になる程度です。本作はとにかく、作中作の連続。主人公がフェードアウトして別の作品が始まり、怒涛の展開の連続。途中でやっと「あっ主人公のこと忘れてた」と我に返る始末。何が何やら。

これを専門用語で「入れ子構造」と呼びます。「ドグラ・マグラ」は作中作がいっぱい詰まった玉手箱。1つの筋を追いかけるという読書ではなく、あっちに寄り道そっちに道草、それが最後に収束していく様は圧巻です。なのでとにかく初読で挫折しない方法としては、「わけわかんない!」を楽しむこと。

入れ子となっている本作の様子は、マトリョーシカ人形が次から次へ中からポンポンと出てくるのに似ています。1つの筋を探っていくという一般的な構造とは異なるため「オレの知ってる小説と違う」となりますが、これも立派な小説の様式の1つ。新世界があなたを待っていますよ。

狂気に負けるな!3つの挫折ポイント攻略方法

image by iStockphoto

ここからは「あらすじがない上に全体像の把握困難」というムチャクチャな小説「ドグラ・マグラ」を読破する上で立ちはだかる3つの大きな挫折ポイントの攻略方法をご紹介しましょう。なんだこの冒頭?チャカポコ?次々にあらわれる難関の数々。生粋の読書家で世界中のあらゆる技巧の小説も読破してきた筆者が、難関読書を攻略する有力な技を伝授しましょう。

〈ポイントその1〉最初の数ページですでに怖い

「ドグラ・マグラ」攻略にあたって最初の難関は、最初の数ページです。展開が早すぎますね。論より証拠、本編からいくつか引用していきましょう。

 …………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。

「ドグラ・マグラ」の巻頭歌の直後、本編の第1文です。日本文学史に残る印象的かつ奇怪な冒頭。そして終盤のある伏線となってくるのですが……この音とともに主人公は目覚め、謎の中に放り込まれることとなるのです。異様かつ不穏な空気に息苦しくなる思いで読み進めると、さらに難関。隣の部屋から聞こえるこんな声……筆者はココで一回挫折しました。

「……お兄さまお兄さまお兄さまお兄さまお兄さま……お隣りのお部屋に居らっしゃるお兄様……あたしです。あたしです。お兄様の許嫁いいなずけだった……貴方あなたの未来の妻でした妾……あたしです。あたしです。どうぞ……どうぞ今のお声をモウ一度聞かして……聞かして頂戴……聞かして……聞かしてエ――ッ……お兄様お兄様お兄様お兄様……おにいさまア――ッ……」

怖い!すごく怖い!狂気と恐怖に放り込まれた読者は震え上がってページを閉じ、そのまま挫折となることが多いのです。

〈攻略方法〉薄目でながめながら、ダッシュで駆け抜けよう!

この調子で奇怪な状況が続き、書かれ方が堂に入った、狂気と悪夢にあふれています。何度読んでも、駆け足で走り抜けるお化け屋敷状態。読む側が正気を失いかねない異様な感覚と戦いながら読書することとなるのですが、序盤で挫折しないようにするためにはどうしたらよいのでしょう?

正解は「速読」です。ここで重要なことを1つ。一字一句丁寧に拾い堪能しながら読むという読書方法は、「ドグラ・マグラ」においては挫折フラグとなりかねません。夢野久作は巧みに漢字・ひらがな・カタカナや記号のバランスまで計算して狂気の空間を構築しているため、まじめに読んでいると冗談抜きで気が滅入ります。一字一句を味わう読み方はとても誠実で尊いのですが、ここはちょっと妥協してみませんか?

そもそも「ドグラ・マグラ」は一度だけで理解などできない、いえ、下手をすると一生のあいだに何十回も読んでようやく何パターンか読み方がわかるというレベルの奇書。小説の世界って奥深いですね。再読のときに細かい伏線には気づいてみましょう。え、こんな本再読する気が起きない?……さて最後まで読んでも、果たしてあなたはそう言えるでしょうか。

〈挫折ポイントその2〉苦行!チャカポコの悪夢「キチガイ地獄外道祭文」

序盤の難関をくぐり抜けて息をつく間もなく、第2のダンジョンが待ち構えています。作中作の1つその名も「キチガイ地獄外道祭文」(なんというタイトル)!ここでは「チャカポコ」と通称しましょう。といいますのも、この作中作パートは延々とこんな感じ。

 ▼あ――ア。そんじょ、そこらの地獄の話じゃ。さても斯様かような地獄の起りが。いわく因縁イロハのイの字の。そもや初めと尋ねるならば。文明開化のおかげと御座る。そこで世界の文明開化の。日進月歩の由来と申せば。科学知識のたっとい賜物たまもの。中に尊といお医者の仕事じゃ。人の病気を治癒なおすが役目じゃ……チャカポコチャカポコ……

この調子でずーっと続き、果てがありません。果てしなく「チャカポコ」が繰り返され、何が何やらどうなっているやら。多くの人が挫折する最大の山場です。しかも結構長い!筆者はここで2度目の挫折を味わいました。地図がないまま迷路に迷い込んでいる状態……いろいろな意味で気が遠くなります。

次のページを読む
1 2 3
Share: