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夏目漱石『坊っちゃん』!魅力的な登場人物と物語を徹底解説!【あらすじあり】

あらすじ5 赤シャツたちを懲らしめる~東京の清のもとへ

坊っちゃんは山嵐が辞めるならおれも辞める、と校長に直談判しますが、考え直してほしいと言われます。辞表を出した山嵐とともに、赤シャツへの制裁のため芸者遊びの見張りをする坊っちゃん。そしてついに赤シャツと野だいこが姿を現します。朝、彼らが宿から出てきたところを狙い、坊っちゃんたちは仕返しをしました。辞表を郵便で送った坊っちゃんは、山嵐とともに船でその地を離れます。東京で職を得た坊っちゃんは、清と一緒に暮らしました。その後清は肺炎で亡くなります。彼女の希望は、坊っちゃんと同じお墓に入りたい、というもの。「だから清の墓は小日向の養源寺にある」として、物語は締められています。

魅力あふれる登場人物

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坊っちゃんには魅力的な登場人物が多くいます。坊っちゃん、山嵐、うらなり、赤シャツ……。ここでは坊っちゃんや山嵐のみならず、「悪者」とされる人物の魅力にも迫っていけたらと思います。

曲がったことが大嫌い! 主人公・坊っちゃん

『坊っちゃん』というタイトルからも分かる通り、江戸生まれの「坊っちゃん」が主人公のこの小説。もしかしたら読んでいて違和感を感じる人もいるかもしれません。そう、「坊っちゃん」の名前が最後まで分からないのです。これは、あえて特定の名前を付けずに「坊っちゃん」という抽象的な名前にすることで、作品への没入感を高める効果を狙ってるのではないかと思います。読んでいて、自分に似ているところがあるな、と感じた方もいるのではないでしょうか。

坊っちゃんは中学校で数学教師となりました。曲がったことが許せず、赤シャツたちに反抗する姿が印象的です。しかし、その実直さがあだとなり、間違った判断をしてしまうことがあります。山嵐とのけんかは、坊っちゃんが赤シャツの言うことをそのまま信じてしまったから起こった部分もありますよね。うらなりへの気遣いや、山嵐への義理高さなど、とにかくまっすぐな人間なことが伝わってきます。

一時はけんかをするも、坊っちゃんの理解者に! 山嵐

会津出身の数学教師である、山嵐。作中では山嵐と呼ばれることが多いですが、彼には堀田という名前があります。山嵐で印象的なのが、けんかをした坊っちゃんが山嵐に「氷水代」を突き返すエピソード。そのお金は仲直りのときまでずっと山嵐の机の上に置かれたままになっており、埃を被っていました。坊っちゃんも頑固ですが、同じくらい山嵐も頑固なのです。うらなりのために動くなど、正義感も同じくらい強いですね。

生徒からの人気も高かった山嵐ですが、最後は坊っちゃんとともに生徒同士がしたけんかの責任を問われ辞職。終盤に「山嵐とはすぐ分れたぎり今日まで逢う機会がない」とあり、その後彼がどうなったのかは描写されていません。

気が弱いけど、坊っちゃんから言わせれば君子 うらなり

英語教師のうらなり君こと、古賀先生。うらなりというのはもともと時期を外れてウリなどの実がなることを意味していて、そこから転じて不健康そうな青白い顔をした人をあらわす言葉となりました。うらなりは気が弱く、人がよく、かわいそうな人物というイメージですね。坊っちゃんは彼に好感を抱いていて、「君子」とまで評しています。

マドンナを赤シャツに奪われて、九州の延岡への転勤が嫌なのに断りきれない。もっとちゃんと自分の意思をあらわせばいいのに!と思ってしまう人もいるかもしれません。送別会の様子を見ていると、みんなに気を遣っていて本当に心根が優しい人なのだろうなあ、と個人的には思います。

かなりのお調子者?赤シャツの太鼓持ち 野だいこ

同じ江戸出身なのに、かなり坊っちゃんとは違った性格の野だいこ。彼は美術の先生で、本名は吉川。坊っちゃんは野だいこを略して野だと呼んでいます。野の太鼓持ち。もともとは「太鼓持ち」という宴席の芸を得意とする職業がありました。「野だいこ」はとくに芸はないけれど、座を取り持つ人のことを指します。野だいこは主に赤シャツの太鼓持ちをしていますね。

坊っちゃんのことを影でこそこそ笑ったり、赤シャツとともに行動して最後には坊っちゃんたちにこらしめられたりするため、「悪役」側であろう野だいこ。しかし、野だいこの存在は「笑いどころ」を作り、『坊っちゃん』をさらに明るい物語にしているように思います。出てくる登場人物すべてに言えることですが、彼はとくに「キャラが立っている」と感じるのです。

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