小説・童話あらすじ

【考察】森鴎外『舞姫』主人公・豊太郎の行動、あなたはどう考える?

主人公・太田豊太郎という人物について

豊太郎はエリートコースを歩んできた青年。しかし、家庭環境は恵まれているとは言えなかったかもしれません。まず、一家の名誉を取り戻す存在となるよう、子供のころから厳しく教育を受けていた豊太郎。彼にもっとも期待をかけていたであろう父親は早いうちに亡くなってしまいます。その後、母親から愛情と期待を受けながら育ちました。その期待につぶされることもなく、豊太郎はいつもすぐれた成績を残し、母親とも良好な関係を築いていたようです。

ただ、ドイツ留学をするうち、母や官長の「期待に応え続けている自分」に豊太郎は疑問を抱くようになりました。この結果として、官長から悪印象を抱かれ、後の免官につながることとなります。

余は私(ひそか)に思ふやう、我母は余を活きたる辞書となさんとし、我官長は余を活きたる法律となさんとやしけん

物語がバッドエンドとなった理由

『舞姫』のラストはエリスとの別れで終わり、後味も悪いので「バッドエンド」と言っていいものでしょう。大臣に気に入られたことで名誉を取り戻したので「ハッピーエンド」の側面もあるといえばあるのかもしれませんが……。バッドエンドになってしまった原因は、豊太郎の「優柔不断さ」にあるのではないか、と私は考えます。相沢がエリスに豊太郎の帰国を伝えたこともたしかに一因にはなっているとは思うのですが、そもそもは帰るにしろ帰らないにしろ豊太郎が決めなければならなかったことですよね。優柔不断で、しかも人(友人や目上の人、そして親)の意見に流されやすい。この性質に豊太郎は一旦気付きはしたのでしょうが、結局物語の最後まで克服することはできていないように感じます。

親友・相沢謙吉の言動について

名誉を取り戻す道か、エリスとの交際か、どちらかを選べ。豊太郎の親友である相沢は、なぜこのようなことを言うに至ったのでしょうか。彼の考えは、それが良いか悪いかは別として「当時における当たり前な、一般的な考え方」なのではないかと思います。もともと、豊太郎は調査留学でベルリンに来ていました。「日本という国のために勉強し、その知識を持ち帰って活かす」ことが目的だったはずです。資金も国から出してもらっていました。ですから、相沢は豊太郎の名誉回復ためのサポートをしたのだと考えられます。「相沢謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし(相沢謙吉のような良い友は、世間でめったに得られるものではないだろう)」と述べられていることから推察するに、「善意」から生じた行動だったのでしょう。相沢にとって『舞姫』の結末はハッピーエンドなのかもしれませんね。

ドイツ留学がもとになった鴎外の作品はほかにも

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実は、『舞姫』だけがドイツでの恋愛を描いた作品ではないのです。鴎外の作品集である『美奈和集(水沫集)』に収録された『舞姫』、そして『うたかたの記』『文づかひ』。これら三作品はあわせて、「ドイツ三部作」と呼ばれています。実際にドイツへ留学した鴎外だからこそ表現できた小説の数々をぜひ読んでみてくださいね。

本文中の引用は青空文庫(下記リンク)からおこないました。

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