「バルビゾン派」って?パリ郊外に集った写実主義画家たちの世界をわかりやすく解説
#7 貪欲に自由を求め……ナルシス・ディアズ・ド・ラ・ペーニャ
By ナルシス・ディアズ・ド・ラ・ペーニャ – http://dallasmuseumofart.org, パブリック・ドメイン, Link
ディアズは名前からも察せられるとおり、スペインから亡命してきたスペイン人の両親から生まれたフランス人。両親とも子供時代に亡くし、その上毒蛇に足を噛まれた時の治療がまずく義足の生活を送ることとなりました。そんな逆境で陶器の絵付の仕事についたものの、もっと自由な絵を!とを求めて写実主義絵画の世界に飛び込んだ、それがディアズです。タフな人ですね。
ディアズは当初エキゾチックな人物画でデビューしましたが、先に紹介したテオドール・ルソーの絵を見てからは4歳年下のルソーを師として慕い、バルビゾン村で手ほどきを受けます。風景画家に転身した彼は人気画家に成長。オルレアン公(王位継承者たる王太子の次にエライ称号。日本で言うなら「宮様」でしょうか)に絵をお買い上げされる他、フランスの国民栄誉賞たるレジオン・ドヌール勲章を受勲しています。
こちらはディアズ「フォンテーヌブローの森」。なんて美しい木漏れ日なのでしょうか。木の葉のささめきすら聞こえてきそう。写実主義絵画のすごいところは、ありのままを描いたものなのに、その風景は現実以上にリアル、かつ美しいのです。バルビゾン派のミューズ(創作の女神)だったフォンテーヌブローの森、あなたもいつか行ってみてください。
#8 こよなく愛された動物画家、コンスタン・トロワイヨン
By コンスタン・トロワイヨン – Web Gallery of Art: Image Info about artwork, パブリック・ドメイン, Link
動物画家コンスタン・トロワイヨンの代表作「浅瀬」です。うわあ、かわいい!放牧中の牛と牧羊犬が浅瀬へ入っている図ですが、がっしりした骨組みから毛並みまで、牛の描き方がとっても見事。風景画を主に扱ったバルビゾン派ですが、そんな中動物をメインに動物をこよなく愛して描いたのがトロワイヨンです。
当時、ジャンルとして確立されはじめていた風景画を志したトロワイヨンでしたが、なかなかうまくいかない時期が続きます。バルビゾン村に移住し、バルビゾン派の作品にふれあいながら制作を続けましたがパッとしませんでした。
そんな中、オランダの夭折の画家パウルス・ポッテルの描いた「若い牛」という動物絵に衝撃を受けます。他にもレンブラントなどのオランダ人画家たちの作品を研究したトロワイヨンは、次第に独自の世界観と製作技法を作り上げることに成功。彼の作品はイギリスやアメリカでも大人気!後半生ではナポレオン3世がパトロンにつきレジオン・ドヌール勲章を受勲するなど栄誉を得ています。
#9 あの人の元同僚!?人と才能に恵まれて……ジュール・デュプレ
By ジュール・デュプレ – National Gallery of Art, Washington, D. C., online collection, パブリック・ドメイン, Link
磁器の絵付け職人としてスタートした写実主義画家……あれデジャヴ?いいえ実はこの人、先に紹介したディアズの同僚。といってもディアズとは違って、彼は磁器工房の経営者を父に持つお坊っちゃんでした。叔父さんの工場でディアズとは一緒だったのです。
そんな不思議な運命の綾のもと、ジュール・デュプレは風景画家を目指して絵付け職人の仕事を辞め、なんとイギリスへ。そこで風景画の師について学んだ後、帰国。トロワイヨンやテオドール・ルソーなどとお友達になります。世間が狭いですね。サロンに出展した作品がロマン主義の巨匠ウージェーヌ・ドラクロワに賞賛されて画家としての地位を固め、その後は風景画をメインに活躍しました。
デュプレ「カシの老木」はその賞賛になるほど納得。がっつりと絵の具を重ねて描いた地面や木、空の質感。向こうの雲はもくもくと湧いて青空を覆い隠し、今にも不穏な風の音、雨の匂いが伝わってくるよう。「ただの光景を絵にしただけ」の風景画の何が面白いのかと訊かれると、やはり平面の映像なのに伝わる立体感と世界観ですね。見事です。
#10 風景画家一家のサラブレッド!シャルル=フランソワ・ドービニー
By シャルル=フランソワ・ドービニー – The Minneapolis Institute of Arts, パブリック・ドメイン, Link
ドービニー「フォンテーヌブローの森」です。パリっ子のドービニーはお父さんも叔父さんも風景画家という芸術一家サラブレッド。風景画の英才教育を受けた素質ある少年は成長し、旅を重ねます。戸外での観察を丹念に行い、その結実として見事な質感ある絵画が誕生したのです。
森へ入っていく1人の旅人。森の緑は濃く、草木は風になぶられ、青空にかかった雲はあやしく黒くなっていき……どこか不穏さを感じさせるようで、そしてなんだかドラマティック。影の部分の暗色など感服の一言です。
彼は後世の画家を育成するという大切な役割を果たしました。画壇でハブられがちだった印象派の若い画家たちを賞賛。その後の絵画の発展につながる画家たちを励まし、後押しする役割を果たしたのです。またドービニーは所有する小舟「ボタン号」をアトリエとし、舟の上で制作をしていましたが、このスタイルは後に印象派の巨匠クロード・モネが真似っ子しているんですよ。
#11 19世紀を駆け抜け、モダニズムへの橋渡しをしたジャン=バティスト・カミーユ・コロー
By ジャン=バティスト・カミーユ・コロー – The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメイン, Link
「モルトフォンテーヌの思い出」カミーユ・コローの代表作です。コローの絵の特徴といったらなんといってもこのカワイさ。そして詩情。ありのままの風景がおとぎ話の中のような美しさでとらえられ、私たちの前にあらわれます。
18世紀末に生を受け、19世紀の4分の3を生きた長生き画家コロー。彼はバルビゾン派に数えられますが、他にもフランス全土やイタリアなどにも旅を重ね、その結果、淡い明るい色彩を使いこなしました。この「モルトフォンテーヌの思い出」は幕のように樹が画面にかぶさっていますが、オペラ座の舞台美術の構図に影響を受けたとも言われています。
コローは貧しさにあえぐ有能な画家に支援をする他、その技法や作品は印象派やポスト印象派、モダニズムと呼ばれることになる次世代にバトンを渡す役割を果たしました。1875年に76歳で大往生。バルビゾン派の偉大な先人たちのバトンを引き継ぎ、芸術は次の段階へと進むのです。
#12 「ありのままの風景」を愛した写実主義画家たちの聖地、バルビゾン村
image by iStockphoto
写実主義画家たちにとって、バルビゾン村の風景はまさに原風景といっても良いものだったのでしょう。都会の混乱と喧騒を離れたところにフランスの生の姿が息づいており、自然や土まみれの生命が息づいていました。バルビゾン村は、写実主義という芸術運動に最高のモチーフを提供したのです。バルビゾン派・写実主義はその後印象派やモダニズムに移っていきますが、後代の画家の育成を大切にした様子もバルビゾン派画家の姿から伝わってきます。歴史、そして芸術は人の心や意思で作られるんですね。
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