ヨーロッパの歴史

聖地エルサレムの奪還を目指した「十字軍」をわかりやすく解説

第三回十字軍~キリスト教徒とイスラム教徒の英雄が激突~

サラディンことサラーフ=アッディーンはエジプトのアイユーブ朝の創始者です。サラディン率いるアイユーブ朝の軍団は中東の重要拠点であるダマスクスも制圧しました。

サラディンは自分の領土に食い込むように存在している十字軍国家の一掃を図ります。1187年、サラディンはエルサレム王国の軍を破ってエルサレムを取り戻しました

これを知ったキリスト教側は第三回十字軍を編成します。神聖ローマ皇帝、フランス王、イギリス王が参戦する大規模な軍団でした。とくに有名なのはイギリス王リチャード1世です。その勇猛な戦いぶりは「獅子心王 the Lion-hearted」と称されるほどでした。

リチャード1世とサラディンは互いの死力を尽くして戦いますが勝負がつきません。1192年、リチャード1世とサラディンは講和条約を締結。巡礼者の安全は確保したものの、聖地奪還はできませんでした。

第四回十字軍~裏切りの十字軍~

第三回十字軍の最中、神聖ローマ皇帝のフリードリヒ1世は事故死していました。皇帝というライバルが消えたことで一気に力を得たのが教皇インノケンティウス3世です。彼はこの好機を逃すまいと十字軍編成を提唱します。

第四回十字軍の目標はイスラム勢力の根拠地とみなされたエジプトのカイロ。参加する北フランスの諸侯はヴェネツィアの船に乗っていく予定でした。

ところが、諸侯たちはヴェネツィアに払うお金がありません。ヴェネツィアは「カイロに行く前に、私たちの商売の邪魔をするジェノヴァ人の拠点コンスタンティノープルを攻略してくれたら、費用をまけてあげるよ」と提案。お金がない十字軍はこの提案に乗りました。

1204年、十字軍はコンスタンティノープルの攻略に成功しラテン帝国を建国します。怒り心頭に発した教皇は十字軍を破門してしまいました。その後もフランス王ルイ9世らが二度にわたって十字軍を編成しますがいずれも失敗に終わります。

十字軍の影響

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十字軍は西ヨーロッパと地中海世界に大きな影響を与えました。最初は宗教的意味合いが強かった十字軍は戦いを重ねるごとに経済的目的が強まっていきます。その一方、十字軍運動が活発になるにしたがって物の輸送が盛んになり、イスラーム世界との交易も活発化しました。十字軍の影響をまとめましょう。

十字軍の負け組

十字軍の失敗は教皇の権威を著しく低下させました。聖地エルサレムの奪還は一時的なものであり、十字軍が建てたエルサレム王国などの十字軍国家は全て滅ぼされてしまいました。「神の意思」であったはずの十字軍なのに失敗してしまったのです。

第四回十字軍を提唱したインノケンティウス3世はイギリス王ジョンやフランス王フィリップ2世を破門するなど教皇の権威を見せつけていました。一方、十字軍後の教皇であるボニファティウス8世はフランス王フィリップ4世との争いに敗れて幽閉されてしまいます

十字軍に参加した諸侯や騎士たちも大きく力を落としました。多額の費用をかけた遠征で領土を得ることができず、経済的に疲弊しただけだったからです。十字軍運動に乗り気だった教皇や諸侯・騎士たちの力は十字軍の失敗で大きく低下しました。

十字軍の勝ち組

教皇や諸侯・騎士たちの没落により利益を得たのは国王でした。中世ヨーロッパでは諸侯・騎士は独立した領主たちで、国王といえども一方的に命令することはできませんで。また、諸侯や騎士たちは領内の裁判権も持っていて、国王の介入を許しません。

ところが、十字軍の失敗で国王と対等に近い力を持っていた諸侯は軒並み没落しました。徐々に力を強めた国王は国内統一を進め、のちの絶対王政に繋がっていきます。また、教皇権は国王よりも力が上だと主張していた教皇の力も低下しました。これにより、国王は教皇からの干渉を弱めることにも成功します。

いままで、国内統一を阻んでいた障害がなくなったという意味では国王たちは十字軍の失敗で大きな利益を得たといってよいでしょう。これ以後、イギリスやフランスでは中央集権が進みます

地中海貿易の発展

十字軍運動は地中海の物流を活性化させました。十字軍を運ぶ役割を担ったヴェネツィアやジェノヴァなどの海の都市国家は力を強めます。彼らの最大の収入源は香辛料や絹などを扱う東方貿易でした。

特にヴェネツィアは東方貿易で巨万の富を築き上げ「アドリア海の女王」といわれます。ヴェネツィアやジェノヴァは十字軍の最中でもイスラム教徒と貿易を続行。第四回十字軍ではヴェネツィアは十字軍を動かしてライバルであるジェノヴァの追い落としを図りました。

こうして対立しながらも両都市国家は成長を続けたのです。東方貿易で富がもたらされたイタリアでは多くの都市が成長します。フィレンツェのメディチ家のように芸術家を保護する一族も出現。十字軍で盛んになった東方貿易はイタリア=ルネサンスが花開くきっかけとなったのです。

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