明治維新前、蘭学者・英学者・通訳として活躍し、海外に渡航した福沢諭吉
九州にあった豊前中津藩の下級武士の子として生まれた福沢諭吉は、長崎や大坂で勉学を重ね、蘭学を究めます。大坂の適塾では筆頭塾生である塾頭になりました。藩の命令で江戸に行くと、今後、洋学を学ぶためには蘭学よりも英学を学ぶべきだと悟ります。独学で英語を学んだ福沢は、幕府使節に志願し3回にわたって遣米・遣欧使節に随行。日本きっての洋学通となりました。
福沢諭吉の生い立ち
福沢諭吉は天保五(1835)年12月12日に中津藩の下級武士、福沢百助の五男として生まれました。父である百介は中津藩の大坂蔵屋敷で商人たちと借財について交渉する立場にいた人物です。
父は儒学者としても高い知識を持っていましたが、下級武士の出だったため、世に出ることなく一生を終えました。後年、福沢は「門閥制度は親の敵」と述べ、学識がありつつも、世に出ることなく亡くなった父を悼みます。
1836年、父の死去を受け、福沢は中津藩に帰郷。勉学や一刀流の修得に励みました。14歳のころから本格的に読書に取り組み、様々な漢籍を読み漁ります。儒教関連の書物はもちろん、『史記』や『老子』などの古典についても学びました。
このころには、福沢の知識はかなり増えます。のちに自伝で福沢は「漢学者の前座くらい」は務まるほどの知識を持っていたと語りました。
長崎での勉学
1854年、19歳になった福沢はより知識を広めたいと考えるようになりました。当時、九州で最も先進的な場所は開港地の長崎です。福沢は長崎に遊学し、蘭学を学びます。
福沢が長崎に留学した1854年は、浦賀にペリーが来航した年でした。黒船という現実的な「恐怖」を前に、多くの藩で蘭学者の需要が高まっていた時期です。福沢は長崎奉行の配下で砲術家の山本物次郎宅に寄宿。オランダ通詞(オランダ語の通訳を務めた長崎の役人)のもとでオランダ語を学びました。
長崎時代の福沢にとって、山本家は絶好の学習場所でした。というのも、山本家には天保の改革の時代に逮捕・投獄された砲術家、高島秋帆の砲術書などの蘭学書が多数保管されていたからです。
また、長崎を訪れる諸藩の人々は山本家を訪れ、様々な便宜を図ってもらいました。この時、諸藩の人々と接触し、彼らの希望を聞き、斡旋することも寄宿中の福沢の仕事。こうした、多くの人々との出会いが福沢を成長させたと考えられます。
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大坂の適塾で学ぶ福沢
1855年、福沢は中津に戻るようにという藩命には従わず、大坂へと向かいます。福沢は江戸に行こうとしましたが、中津藩蔵屋敷にいた兄の説得により大坂で勉学することにしました。福沢は大坂で緒方洪庵が開いていた適々斎塾(適塾)で蘭学を学びます。適塾はもともと医学を教える塾でしたが、やがて総合的な蘭学塾へと成長しました。
適塾では25年間で3000人もの学生が学んだといわれます。中でも、成績優秀なものは塾頭とよばれました。福沢は洪庵から数えて10代目の塾頭となります。福沢が塾頭となったのは22歳の時でした。ちなみに、適塾の有名な塾頭には、4代塾頭の大村益次郎(村田蔵六)がいます。
適塾生徒の熱心な勉学ぶりは当時から周知のこと。特に、オランダ語の辞書であるヅーフ辞書が置かれた部屋には夜中であっても明かりが絶えることがなかったといいます。勉学好きの学生は、互いに教えあい切磋琢磨することで自分や学友を高めていきました。
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江戸出府と英学の独習
1858年、中津藩は福沢に江戸出府を命じます。風雲急を告げる幕末情勢の中、少しでも外国事情に明るいものを江戸に置いておきたいと藩が考えたとしても不思議はありません。江戸に出た福沢は築地鉄砲洲にあった中津藩の中屋敷に住み込み、蘭学塾をひらきました。この蘭学塾が、のちに慶應義塾へと成長します。
1859年、福沢は日米修好通商条約により開かれた横浜の外国人居留地を訪れました。この時、福沢は大きな衝撃を受けます。横浜居留地で、オランダ語が全く通用しなかったからです。
というのも、開港以来、日本の最大貿易相手となったのはイギリスだったからでした。横浜居留地で用いられる主言語は英語。オランダ語は話されていないばかりか、看板にすら書かれていないありさまだったといいます。
アヘン戦争・アロー戦争で清に勝利し、世界の覇権を握っていたイギリス。次の時代はイギリスの言葉である英語が重要であることを福沢は痛切に理解します。福沢は英蘭辞書などを使い独学で英語と英学を学びました。
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