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日本が誇る最古のマンガ?「鳥獣人物戯画」にまつわる謎に迫ってみよう

平安時代末期から鎌倉時代に描かれた絵巻物で「鳥獣人物戯画(ちょうじゅうじんぶつぎが)」というものがあります。皆さんも一度くらい目にしたことはあるかと思いますが、カエルやウサギを擬人化した水墨画で、「ハスの葉を傘代わりにしたカエルの絵」といえばピンとくるかも知れませんね。まさしく日本最古のマンガといえるものです。しかし、この鳥獣人物戯画は謎に包まれた作品で、誰がいったい何のために描かせたのか?また、いったい誰が描いたものなのかはっきりとしないのです。この作品を詳しく解説すると同時に、様々な謎に迫ってみたいと思います。

「鳥獣人物戯画」を詳しく見てみよう!

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日本最古のマンガと呼ばれる鳥獣人物戯画について。まずどのような絵巻物なのか?また技法や絵のタッチなども含めて解説していきますね。

人間っぽい動物キャラが魅力的!鳥獣人物戯画とはどんな作品?

絵巻物というだけあって、かなりの横長で縦は30センチほど、横は1メートル以上のサイズがあります。1つの絵巻物というわけではなく、甲(こう)、乙(おつ)、丙(へい)、丁(てい)と4つに分かれていて、それぞれ描かれた年代が違うとされているのです。

ということは、当然それぞれの作者も違うわけで、絵のタッチや構図などもかなり違ってきてたりしますね。つい最近修復され、2015年に4つまとめて展示されたことがありましたが、見比べてみると確かに同じような水墨画だけれども、明らかに筆のタッチが違うなど一目でわかると思います。

例えば内容が連続した絵巻物なら、連続ドラマのように各巻で明確な繋がりがあるものですが、鳥獣人物戯画に関しては各巻まったく繋がりめいたものがなく、あたかもオムニバス作品のような印象なのですね。

いかにもユーモラスな動物たちが描かれ、まるで人間のように遊んだり、騒いだりする姿は滑稽でありながらも、その描写力には驚きを禁じ得ないでしょう。

元は京都の北東にある栂尾山高山寺の寺宝として長年伝えられており、国宝に指定されて以後は「甲・丙巻」が東京国立博物館に。「乙・丁巻」が京都国立博物館に収蔵されているのです。

それでは各巻の解説を始めていきましょう。

まるで人間のように動物たちが遊ぶ【甲巻】

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不明suntory.com, パブリック・ドメイン, リンクによる

皆さんがよく目にするのは甲巻の一部だけではないでしょうか。ウサギ、カエル、サルを中心に11種類に及ぶ動物たちが登場し、まるでジブリ作品を彷彿とさせるようなファンタジックな世界が描かれています。

 

ウサギとカエルがサルを追いかけ回している構図

仰向けにひっくり返ったカエルを心配して、ウサギだけでなくキツネも寄ってきた絵

高いところから水に飛び込む際に、水が入らないように鼻をつまむウサギ。

シカの背中に乗ったウサギが水を渡ろうとすると、サルが冷やかしで水をぶっかけたり。

 

ものすごく人間臭い行動が滑稽で、思わずクスッと笑ってしまいそうですね。セリフを入れる吹き出しを付ければ、そのままマンガになりそうです。

現在見られる甲巻は、かつて盗難や火災に遭うなど、一部が焼損していたり失われていたりで加筆されたともされていて、明らかに補修の跡が見受けられます。

また中盤と後半の絵が入れ替わっていることが判明し、紛失後の改修した際に、つなぎ合わせ方を間違ったものだと思われていますね。

まるで動物図鑑のような【乙巻】

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Anonymous, 12th century – OLD REPLICA published at 1924 by YAMATOE DOKOKAI, Tokyo, japan, パブリック・ドメイン, リンクによる

甲巻では動物たちが擬人的に描かれていましたが、乙巻の場合、一転して動物たちが図鑑のように写実的に描かれています。いわゆる動物園で私たちが見るような、動物の生態そのままだということ。

甲巻で頻繁に登場したウサギ、カエル、サルなどはほとんど出てこず、乙巻前半部分では代わりにウシ、ニワトリ、イヌ、ヤギなどの一般的な動物が描かれています。

また後半部に入ると麒麟や獅子、青龍といった伝説上の動物が登場することも特徴の一つとなっていますね。これはいったいどういうことでしょうか。

仮説の域を出ないものの、おそらく図鑑のように動物を描くことによって、例えば次に麒麟を描こうとした絵師が絵のタッチを参考にしたのではないでしょうか。いわゆる習作というものですね。だからこそ動物本来の動きを絵の中に再現し、非常にわかりやすい構図となっています。

実は紙の裏表に描かれていた【丙巻】

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丙巻の前半部にはこれまで出てこなかった人間が登場します。囲碁に興じる僧と稚児や、賭双六に興じる人たちの模様などが描かれていて、滑稽な遊びに興ずる人々の笑いが伝わってくるようです。他巻に比べて繊細な筆致が特徴で、そのまま色を付ければ立派な屏風絵にもなりそうですね。

後半部になると再び動物たちが登場し、甲巻と同じく遊戯に興ずる様子が擬人化されています。ウサギはほとんど出てこなくて、主役はサルとカエルとなっているのが特徴。

前半部と後半部が繋ぎ合わされているのですが、元々は厚手の紙の裏表に描かれた絵だったらしく、鑑賞しやすいように2枚に剥がした後、繋いで仕立てたものだということがわかりました。

人物のみで描かれた【丁巻】

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丁巻はこれまでと一転して人間のみが描かれています。人々が勝負事に挑む姿が多く描かれていて、侏儒(体の小さい人)の曲芸に続き、修験者と法師が験を競う場面が表され、法会や流鏑馬(やぶさめ)、木遣り(きやり)といったシーンがユーモアたっぷりに描かれているのが特徴です。

木遣りとは重い物を運ぶときに出す掛け声や歌のことですから、その場のにぎやかな様子が伝わってくるようですね。ちなみに流鏑馬は源頼朝が復活させた武芸ですし、木遣り唄も13世紀初めに栄西上人が興したものですから、この丁巻の成立が鎌倉時代だということがわかります。

絵のタッチは全体的に軽妙で奔放。思うがままに筆を走らせたことが見て取れますね。今でいうラフ画のような感じでしょうか。

「鳥獣人物戯画」はいったい誰が描いたもの?

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それでは鳥獣人物戯画の謎に迫っていきましょう。まず第一の謎は、いったい誰がこれを描いたのか?ということ。鳥獣人物戯画の成立は平安時代後期~鎌倉時代初めだとされていて、かなり年代に幅があります。それぞれの巻によって絵のタッチも異なるため、おそらく複数の人間によって描かれたものでしょう。確証となる資料がないため何とも言えないところですが、作者かも知れない何人かを紹介していきたいと思います。

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明石則実