3-4.第四、五条【摂関の任免】
摂関家の生まれであっても、才能のない者が三公・摂政・関白に任命されることがあってはならない。ましてや摂関家以外の者の任官など論外。
能力のある三公・摂政・関白が高齢だといえども辞めてはならない。ただし、辞任したとしても再任は有るべきこと。
摂関家とは、お公家さんの中でも摂政や関白を出す名門の家のことですね。摂関家の生まれで、かつ才能がないとトップに任官できないということです。
また才能や能力があれば、高齢を理由に辞職は許さないということですし、もし辞めてもまた任官すればいいですよ。という意味になります。基本的に能力があれば定年退職を認めていないということですね。
いずれにしても摂政や関白は、天皇に成り代わって政務を取り仕切る役目なのですが、政治の実権がない朝廷にとって、政治とは「宮中行事」や「祭祀」を指す意味となりました。
3-5.第六条【養子】
即ち同姓を用ふべし。女縁を以ってその家督を相続すること古今一切無きこと
「養子を迎える時は、同じ姓を持つ者から選ぶこと。また、母方の縁に繋がる養子に家督相続させてはならない。そのような前例はないから。」とありますね。
誰を養子にしようが勝手にしたいところですが、幕府はこんなところにも口を挟んでいたのですね。
3-6.第七条【武家官位】
公家の官位は、武家の官位とは別のものとする
官位は本来、朝廷から賜るべきものでしたが、勝手に官位を叙任するようなことがないようにしました。また武士の官位も幕府の推薦がないと得られないようにしたのです。
3-7.第八条【改元】
改元は、中国の年号から良いものを選ぶべきである
年号の改元は朝廷の特権だったのですが、幕府はそんなところにも横槍を入れています。ちなみに江戸時代以前の年号は、天皇の代替わり以外にも、天変地異や飢饉などのたびに頻繁に変えられていたため、期間が短くなっていますね。
3-8.第九条【天子以下諸臣の衣服】
天皇や上皇、親王や公家、女官にいたるまで、朝廷における服装規定を幕府が決めたものです。ここまでくると、やりすぎ感が否めませんが、朝廷に対して居丈高な幕府の態度が透けて見えますよね。
3-9.第十条【諸家昇進の次第】
お公家さんの昇進について規定したものですが、それと同時に、徳川家じたいが将軍職を継いでいくことを明らかにしているのがミソです。
「徳川家はこれからも将軍職を継いでいくわけだから、そのつもりでいてね」ということを宣言しています。
3-10.第十一、十二条【関白や武家伝奏などの申渡違背者への罰則】
関白・武家伝奏・奉行職が申し渡した命令に、堂上家・地下家の公家が従わないことがあれば流罪にするべきである
関白はお公家さんたちのトップだからわかりますが、武家伝奏や奉行職とは幕府が任命した公家や武士のこと。
「幕府の言うことが聞けない不届き者は、公家であろうと流罪に処すぞ!」と脅しているわけです。また第十二条では具体的な処罰の方法も規定されていますね。
3-11.第十三条【摂関門跡の座次】
摂家門跡は親王門跡の次座、摂家は、三公の時には親王の上座たりと雖も、前官大臣は親王の次座と定められたるによりこれに准ずる
門跡(もんぜき)とは、公家や親王だった者が住職として住む寺院のことで、ここでは名家といわれる摂家門跡の地位はは、親王門跡の次だとされています。
なぜなら摂関家の者が三公に就いていたといっても、辞職すれば親王よりも位が低くなるとされているから。それに準ずるということなのです。
3-12.第十四、十五条【僧正、門跡、院家の任命叙任】
ここでは、お坊さんの位や叙任の方法などを定めていて、先例にならうべきだとしています。特に問題はないでしょうか。
3-13.第十六条【紫衣の寺住持職】
紫衣を許される住職は以前は少なかった。しかし、近年はみだりに勅許が行われて席次を乱しており、ひいては寺院の名を汚すことにもなって大変よろしくない。
今後は紫衣を与えるべきかどうかを良く選別し、その住職が紫衣を与えるに相応しい住職であることを確かめた上で、紫衣を与えるべきだ。
「紫衣(しえ)」とは徳のあるお坊さんや尼さんに対して、天皇から贈られる紫色の衣のことで、朝廷の貴重な収入源になっていたといいます。
しかし幕府は、そんな朝廷の特権すら取り上げようとしました。幕府の横槍もここに極まれり。という感じでしょうか。後に紹介する「紫衣事件」によって天皇の怒りが爆発するのです。