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【文学】ヴィクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』を解説!読みづらい原作の攻略ポイントを整理!

王党とボナパルト党、飽くなき対立が呼ぶ家族の分断

中盤以降で重要人物となってくる、この第3部の章題ともなっている青年マリウス。この章でのワクワクは第2部、ワーテルローの戦いパートを頑張って読み進めたあなたにだけ与えられるごぼうびです。ええっまさか!?の連続。ともあれ章タイトルである少年マリウスについて語らなければなりません。

少年マリウスはコッテコテのアンチ・ナポレオン派の祖父のもとで育ちます。しかし彼の父親はナポレオンの旗のもとで戦った「ポンメルシー大佐」。ずっと伏せられていた父の秘密を知ったマリウスは、元来夢想家。父の真実と、そしてナポレオンの功績を知るにつれて熱烈なボナパルト党になっていきます。「マリウス・ポンメルシー男爵」と名乗りだしたマリウスに、ナポレオン嫌いの祖父は激怒。

政治的対立が1つの親子を引き裂いてしまったのです。マリウスは親友クールフェラックのもとへ転がりこんで、翻訳などで食いつなぎます。貧困の中けんめいに生きるマリウスはリュクサンブール公園での散歩中「父親に連れられた美しい少女」を遠くに見つけるのです。遠くからひと目見るだけで恋に落ちるなんて、なかなかロマンチックというかなんというか……。

「ABCの会」、犯罪者、アウトローたち……そして恋

祖父のもとを飛び出したマリウスが転がりこんだのは、親友クールフェラックのもと。彼は秘密結社に属していました。秘密結社は、その名もABCの友の会。リーダーであるアンジョルラス、側を固めるコンブフェールなどの魅力的な人間性を持つメンバーで構成される、この会は共和派の秘密結社でした。マリウスも引っ張り込まれることになるのです。

「共和制」を報じる「ABCの友」。ここにフランスの深く強いトラウマがあります。ブルボン王朝の圧政の後なんだかんだで王政に戻ったフランス。「共和制」とはピンとこない言葉ですが、要するに国民主権国家のこと。王様や貴族を排除して一般庶民が政治の決定権をにぎる……それは夢であり理想であり、希望だったのです。

さてマリウスのビンボ生活に転機がおとずれます。この後重要になる人物・浮浪児ガウローシュ、そしてエポニーヌ、そしてジョンドレットと名乗る貧民です。彼のもとにあらわれた、背の高い男とその娘……ジョンドレット、そしてリュクサンブール公園で出会った名も知らぬ恋人の「父」の真実の名前とは?ここの展開は語らないことにしておきましょう。ハラハラドキドキの手に汗握る展開を楽しむためにも、第2部冒5分の1を読んでください。スキのない構成にあっけにとられますよ!

【第4部】「ブリュメ通りの牧歌とサン・ドゥニ通りの叙事詩」いよいよクライマックス!

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さて大詰めが見えてきました。ここまで読んできた方ならこの後ユゴーが何をどうするか……最初はルイ・フィリップという国王に関してが語られます。「この構成、想定内!」とここまで読んだ読者なら叫んで頭を抱えるはず。まあちょっと彼の言葉を聞いてあげるといいかもしれません。というのも、ヴィクトル・ユーゴーがこの大河小説を書いた理由は、くまなくフランスを描くためだと筆者は感じるからです。さて物語やいかに!?

『レ・ミゼラブル』当時の社会とフランスの「革命」

1789年フランス革命以降、フランスひいてはヨーロッパに荒れ狂い、てんやわんやのカオスで政体もコロコロ変わります。世界史の教科書でも正直わけがわかりません。なのでカンタンにフランス革命以降の流れを整理しておきます。

フランス革命(1789年~1799年の約10年間)→ナポレオンの登場とナポレオン戦争(1799年から1815年の16年間)→ブルボン王朝による王政復古(1814年~1830年の16年間。途中にエルバ島から舞い戻ったナポレオンの百日天下を挟む)→七月革命でルイ・フィリップが国王に推されて即位。いわゆる「七月王政」のスタート。(1830~1848年)→二月革命(1848年)の後にナポレオン三世の即位

長い!フランスを駈け抜けた革命という嵐の結果なんと60年に渡ってカオスでした。フランス革命の混沌を鎮めたのがナポレオンでしたが、ナポレオンの混乱をまとめたのが、ルイ・フィリップ王です。この王様、かなり良い君主だった模様。ちなみにその後に登場したのがナポレオン3世。いい王様ならいいんじゃないの?いいえ、「自由・平等・博愛」を自ら勝ち取ったフランス国民は、民衆の手に政治がゆだねられることを熱望していたのです。

マリウスとコゼットのピュアな恋。そして1832年6月5日。

マリウスに片想いするエポニーヌは、マリウスの強い希望に沿うために「リュクサンブール公園の彼女」ひいてはコゼットの居場所を教えます。ようやく実際にたがいの手をとり名前を知ったマリウスとコゼットは、相手に夢中になりました。

ジャン・バルジャンの暗黒といっていい半生、そこに灯りをともしてくれたのがコゼットという幼い女の子。コゼットを父のごとく愛することで救われた彼。そこに他の男、それも恋人の存在……嫁ぐ娘を持つ男親、なんてぬるい感慨ではありません。ジャン・バルジャンはあがきます。コゼットを取られる!

それはマリウス側も同じことでした。結婚を望む男にとって常にラスボスは恋人の親。意を決して政治的対立をして絶縁した祖父に、会いにいくマリウス。そして……絶望の只中のマリウス青年に、そしてジャン・バルジャンに、歴史的事件が降りかかるのです。すなわち、六月暴動。

【第5部】「ジャン・バルジャン」怒涛の物語、ここに完結

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物語もクライマックス!息切れしていませんか?唐突に挟まれる作者の演説、批評や批判や意見……読んでいてうんざりするかもしれません。しかしそこは2周目以降に読めばOK。そう、この物語は2回以上読み返す価値があるからです。最後の最後まで読み切るまで、笑いあり涙ありツッコミあり、感動あり。ミリエル司教から託された善の心は、そして元囚人の彼は、若い2人の恋は、どうなっていくのでしょう?

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