ヨーロッパの歴史

【絵画】写実主義絵画の特徴は?代表的画家3人の絵から解説

傑作「落ち穂拾い」ににじみ出る農民たちへの愛

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By ジャン=フランソワ・ミレーGgHsT2RumWxbtw at Google Cultural Institute maximum zoom level, パブリック・ドメイン, Link

ミレーの傑作にして代表作「落ち穂拾い」。これが描かれたのは1857年。やはりこの絵画にも政治的背景が関わってきます。

収穫の際にこぼれ落ちた「麦の落ち穂拾い」は、貧しい人や社会的弱者に対する権利として認められていた慣習でした。しかしミレーがこの絵画を製作する直前の1854年、地主階級は、この落ち穂拾いを廃止する運動を起こします。地主らの損失が大きくなるという理由によってでしたが……農村社会の相互扶助・助け合いのための慣習までもがないがしろにされてゆく情勢下、ミレーの描いた「落ち穂拾い」のビジョンは見る人に衝撃を与えました。

よく見ると農民たちの服は破れ、その上大地に落ち穂はほとんど残っていません。手につかんだわずかな麦の落ち穂で食いつなぐ農民……。また「落ち穂拾い」は旧約聖書のルツ記という書に題材をとった絵という説もあります。ミレーは農民・農村の現実にじっと寄り添い細やかに描き続けた誠実な画家でした。

19世紀を駆け抜け、次の時代への橋渡しをした巨匠・ジャン=バティスト・カミーユ・コロー

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By ジャン=バティスト・カミーユ・コロー不明, パブリック・ドメイン, Link

写実主義画家3人の締めくくりとするのは、印象派やモダニズムとの橋渡しをした長生き画家ジャン=バティスト・カミーユ・コローです(没年は78歳。当時としては長生き!)。18世紀末に誕生し19世紀の後半まで生きのびた彼は、前出の2人とはまた別の新しい絵画世界を生み出しました。こちら晩年のコロー作品「ナポリの浜の思い出」はなんと東京・上野の国立西洋美術館の所蔵。身近に見る機会がありそうですね。

懐かしくありふれた風景を描く「モルトフォンテーヌの思い出」

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By ジャン=バティスト・カミーユ・コロー – The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメイン, Link

コローの代表作「モルトフォンテーヌの思い出」です。上に掲げた「ナポリの浜の思い出」と並ぶ「思い出」シリーズの一環。コローは春夏シーズンに戸外で制作をはじめ、寒い秋冬の時期に一気にアトリエで仕上げにかかるというスケジュールで絵画制作を行っていました。その結果として彼の絵は「完璧に客観性のある写実主義」とは少し違うものになっています。

彼の風景画の特徴は、そこら辺にふつうに存在する、ありふれた光景をありのままに描いたこと。ロマン主義以前のように、神話絵や歴史絵の背景を描く風景画ではありません。そしてそんな中でも、実際の「ふつうの風景」に彼の想像した人物を配置。この「モルトフォンテーヌの思い出」のように銀色のもやが画面全体を覆っているような、独特の色彩感覚で描きました。このような叙情的風景画に「思い出」とタイトルをつけ、多く残しています。

単なる客観性に基づいた現実の再現という意味での写実主義から、一歩飛び出したコロー。彼の独創性は絵画史において画期的でした。その後の世代に大きな影響を与えています。

美しい空想の中の、だれでもない少女「真珠の女」

写実主義絵画特集のトリを飾るのはこちら!「真珠の女」です。コローが亡くなるまで自身のアトリエに置いていたという、画家の思い入れのこもった一作。

モデルにイタリア中部地方の民族衣装を着せて描いたこの作品。現代で言うならコスプレでしょうか。木の葉をつづった冠の影の一部が額に真珠のように見えることから「真珠の女」というタイトルで呼ばれています。なんとも美しい。ここまで人物を美しく描くにもかかわらず、コローは画家には珍しく、著名人の肖像画というものを残していません。彼は知人家族の肖像画や、このように民族衣装をまとったモデルを描く「空想的肖像画」をメインに製作を行いました。

彼の「ありのままの、なんでもない風景を描く」姿勢は印象派に多大な影響を与えています。また、見込みある画家に援助を与えるなど、コローの存在自体がモダニズムへの橋渡しをしました。

描いているものはドラマティックじゃないのに、最高にドラスティックな芸術運動

image by iStockphoto

写実主義を代表する巨匠3人の絵画の世界。現実に誠実にむきあう写実主義絵画の世界を堪能いただけたでしょうか。それまでの絵画がとらわれてきた「ドラマティックさ(劇的)」から脱皮した、ドラスティック(急激)な芸術の革命。高貴な天上の世界を見ていた芸術家たちが、ふと地上に目をおろした時、そこにあったのはむきだしの日常でした。これらを真摯に丁寧に描いた絵画はその後の芸術や歴史に大きな影響を与えていくのです。Rintoの芸術関連の記事はこちらからも!

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