【絵画】写実主義絵画の特徴は?代表的画家3人の絵から解説
写実主義の旗を掲げた大家・ギュスターヴ・クールベ
By ギュスターヴ・クールベ – 1. The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202. 2./3. Musée Fabre, Official gallery link 4. Freunde der Nationalgalerie, Staatliche Museen zu Berlin, Presse, パブリック・ドメイン, Link
さていよいよ写実主義の画家たちを紹介して参りましょう。写実主義画家といったらこの人!その名は ギュスターヴ・クールベ。写実主義運動の旗印となった画家です。1855年に発表したレアリスム宣言で「生きる時代の風俗や事件や思想を見たままに表現すること、つまり『生きている芸術(=アール・ヴィヴァン)』を作り上げることが目的」と言い放った人物。彼こそが写実主義という運動のガソリンになった存在ですが……一体どんな絵画を描いたのでしょうか?
歴史を変えた歴史画っぽくない歴史画!「オルナンの埋葬」
By ギュスターヴ・クールベ – 投稿者自身による作品 撮影日: 2005年12月15日, CC 表示 2.5, Link
クールベの代表作「オルナンの埋葬」。正式には「オルナンの埋葬に関する歴史画」というタイトルです。画家の故郷である山奥の田舎町オルナンでの平凡な葬儀の様子……。大きさはなんと、縦3.1メートル×横6.6メートルの超大作!大きい!こんな「ふつうの出来事」を歴史のワンシーンとしてとらえることは非常に斬新な視点でした。
たしかにこのような平凡な営みの中に歴史というものは存在します。革新的な絵画です。といっても発表当初の評価は最低レベル。ドラマティックなものを探求してきたそれまでの画壇は、まったくドラマティックな題材ではないこの作品を見てイマイチぴんとこなかった模様。
この作品はパリで開催された万国博覧会に出展しようとした大作。しかし叶わず……そこでクールベは後援者に頼み込み「ギュスターヴ・クールベ展。入場料1フラン」という看板を掲げた小屋を博覧会場のそばに建てて展示をしたのです。クールベは世界発!「個展」を開催した画家。この「オルナンの埋葬」への執念を感じるエピソードです。
【閲覧注意】コレ描いちゃうの!?写実主義の極北「世界の起源」
By ギュスターヴ・クールベ – 不明, パブリック・ドメイン, Link
えっ……これは描いちゃっていいんですか?脚を広げた裸の女性の局部を描いた、これは写実主義の極北のような作品。題名は「世界の起源」。生命の誕生する源たる女性の陰部を大胆に描き出したこれは、まさにむきだしの表現。
野性的な生命のにおいがする作品です。エロでもポルノでもないのが大きな特徴でしょうか。ぎょっとするものの、見ているとあまりいやらしくないことに気づきます。これまでも西洋絵画はヌードを扱ってきましたが、さすがに女性の局部まで描くことはありませんでした。ザ・リアリズム!クールベのど根性をひしひしと感じます。
絵画世界の限界突破した「世界の起源」、実は日本の浮世絵が大きく影響を与えているんです。歌川国芳などの描いた「大開絵(おおびつえ)」つまり春画ですね。言われてみれば、なるほど……?ちなみに本作が展示されているオルセー美術館では絵葉書の売上第2位。オルセーに行ったらみなさんも度胸試し(?)に買ってみてください!
優しく誠実な目で農民を描く、ジャン=フランソワ・ミレー
By ジャン=フランソワ・ミレー – Google Art Project: Home – pic Maximum resolution., パブリック・ドメイン, Link
今なお多くの人からこよなく愛される画家の登場です。ジャン=フランソワ・ミレーは「農民絵」によって非常に有名。この絵「晩鐘」は、教会から響く鐘の音を聞きながら、夕べの祈りを捧げる農民の姿。労働者階級たる農民に優しく寄り添った彼は、左翼・社会主義者のレッテルを貼られることも多くありましたが、彼は自分には農民画が最も合っていると書簡に書き残しています。「芸術で、私の心を動かすのは何よりも人間的な側面なのだ」と。紐解いていきましょう。
「種まく人」に籠められたメッセージ
By ジャン=フランソワ・ミレー – LgE5YAcQ5OqmZA at Google Cultural Institute maximum zoom level, パブリック・ドメイン, Link
ミレーは「種まく人」と題したこの絵をサロンに提出、入選を果たします。しかしこの絵は大激論を巻き起こしました。絵1枚で!?なぜ!理由として、この頃のフランスの情勢が関係しています。2月革命や普通選挙の実施で、農民・労働者階級が政治に介入するようになってきていました。それに脅威と対抗心を感じていたブルジョア階級。ミレーの絵に「労働者の悲惨な現実」という政治的メッセージを読み取ったのです。
ミレーが実際に政治的意図を込めていたかどうかはともあれ、この作品は革新的。これまで顧みられてこなかった、生の農民の姿をここまで活写した画家はミレーが初めて。また、多くの画家が敬遠してきた絵の具の「厚塗り」というものを技法として活用したのも画期的でした。
ちなみ「種まく人」を製作する頃、ミレーは運命の地・バルビゾン村に移住。政治的混乱に加えてコレラの脅威に見舞われたパリから逃れてきたのです。物価が安く、パリにそれなりに近い、イイ感じの郊外だったバルビゾン村には次第に多くの画家が集い、最終的に「バルビゾン派」と呼ばれる美術の一派が形成されるほどになりました。それについては、また別の記事で。
By フィンセント・ファン・ゴッホ – The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメイン, Link
ちなみに後代の画家ゴッホの模写した「種まく人」はこんなの。ゴッホは牧師の家に生まれ町人育ち。農民のあいだで生活したことがありません。そのためか、主題として扱われている農民に生彩や表情がほとんどありません。それとこれは1889年、すなわちゴッホ「発狂」の頃に描かれた作品。なんだか怖く感じるのはだからなのでしょうか……。
ゴッホという画家の特徴による、ミレーとの本質的な違いはもちろんあります。ゴッホにとってミレーは精神的な絵画の師でした。細かな表情や生命まで拾いあげて絵として昇華させたミレーってやっぱりスゴイ人だなあと感じますね。