フランスヨーロッパの歴史

世界を席巻した「ジャポニズム」とは?影響を受けた画家も解説

「ジャポニズム」、という言葉をご存知ですか?日本文化が海外に渡り、新たな魅力を生み出しました。美術にそんなにくわしくなくても知っているようなあの画家たちも、「ジャポニズム」の影響を受けていたと言われているのです。今回はそんな「ジャポニズム」について、また影響を受けた画家たちについて紹介していきます。

ジャポニズムってなんだろう?

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ところで、ジャポニスム?ジャポニズム?意外と「どっちが正しい表記なの?」と気になってしまいますよね。「ス」が濁るか、濁らないか。どちらの表記も使われることがあるものですが、どんな違いがあるのでしょうか。実は、「ジャポニスム」はフランス語で、「ジャポニズム」は英語なのです。どっちかが間違っているわけではないんですよ。

いつ、どこで流行ったのか

ジャポニズムは、19世紀という時代にヨーロッパ、とくにフランスで流行しました。そんな理由もあり、「ジャポニスム(Japonisme)」というフランス語の呼び方の方が海外においては主流であるようです。では、ジャポニズムとはそもそも何かと言えば、「日本趣味」のこと。当時のヨーロッパに住む人たちの目には、日本の文化が目新しい、異国文化溢れる魅力的なものに見えたのでしょう。私たち自身も、遠い国の文化を魅力的に感じることがありますよね。19世紀当時はもちろんインターネットもないですし、文化に触れようとしたら現物を直接遠くまで運ばなければならないのですから、より希少価値は高かったことでしょう。

ジャポニズムが流行るまでの流れ

ジャポニズムが流行る前に流行っていたものがあります。それは「シノワズリー」。これは、「中国趣味」という意味を持っています。「東洋」という遠く離れた地の文化に、19世紀~20世紀ヨーロッパの人々は惹きつけられていたのでしょう。

「日本趣味」というものを細かくわけると、「ジャポニズム」の前に「ジャポネズリー(Japonaiserie)」という概念がありました。1853年(嘉永6年)、日本の浦賀にマシュー・ペリーらが来航します。いわゆる黒船来航ですね。これを機に日本の文化……たとえば浮世絵、工芸品などが大々的に欧米へ伝わります。ジャポニズムのはじまりは、欧米の人々による浮世絵版画を始めとした日本の美術品収集からでした。もっともジャポニズムが流行った土地、フランスで始まったのです。そんな中で日本は1867年に初めて万国博覧会に出展。ジャポニズムはさらにブームを広めていくことになりました。

芸術界にあたえた影響、そしてその後

ジャポニズムとしてフランスなどの海外に伝わった日本美術。その中でも「浮世絵」が美術界にあたえた影響はかなりのものでした。浮世絵というものは、「線」でその絵が構成されているという特徴があります。立体感がなく、平面的なのです。それまでの西洋美術は写実的なものを是としていましたが、画家たちは浮世絵に描かれる自由な世界に衝撃を受けました。日本では「普通」であった表現技法が、海外の人々にとっては衝撃的だったというところに、芸術の面白さを感じられますね。

19世紀の末から20世紀初頭、ヨーロッパを中心として「アール・ヌーヴォー」という運動が起こります。これはフランス語で「新しい芸術」という意味で、既成概念にとらわれない装飾性や、新素材を利用した芸術などが特徴の運動です。ジャポニズムは先述の「平面性」によって、この「アール・ヌーヴォー」に影響をあたえています。ジャポニズムの大きなブームが終わったあとも構図などの面でその特徴は画家によって描かれ続け、ついには普遍的な表現技法として使用されるようになったのでした。

ジャポニズムの影響を受けた芸術家たち

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広い範囲に、また長期間にわたって芸術界へおおきな影響をあたえつづけたジャポニズム。具体的にはどんな人々がジャポニズムを好んだのでしょうか。ここからは「日本趣味」の芸術家たちと、彼らがどんな影響を受けてどんな絵を描いたかなどを紹介していきます。

エドゥアール・マネ、フィンセント・ファン・ゴッホ ジャポネズリーの影響を受けた絵画

Van Gogh - Portrait of Pere Tanguy 1887-8.JPG
By フィンセント・ファン・ゴッホMusée Rodin, パブリック・ドメイン, Link

ジャポニズムの前身とも言えるジャポネズリー。ジャポネズリーを代表する画の一つが、エドゥアール・マネ(1832年〜1883年)によって1868年に描かれた『エミール・ゾラの肖像』という作品です。この絵に描かれている人物エミール・ゾラはマネの友人。フランスの有名な小説家です。ジャポネズリーは技法的に日本のものが取り入れられているわけではないですが、背景の浮世絵から日本感を感じることができます。浮世絵に描かれているのは大鳴門灘右エ門(おおなるとなだえもん)という、お相撲さんの姿。実際にマネはこの浮世絵をコレクションとして所有していたそうです。

マネの絵と同様に日本趣味が感じられる作品が、フィンセント・ファン・ゴッホの『タンギー爺さん』。こちらも『エミール・ゾラの肖像』と似ていて、背景に日本美術が散りばめられる、という形をとっています。「タンギー爺さん」というこの絵に描かれた人物は、ジュリアン・フランソワ・タンギー(1825年〜1894年)。パリにおいて、画材屋と画商をしていました。ゴッホが彼をモデルにして描いた絵は全部で3作。もっとも有名と思われるロダン美術館所蔵の上記画像は2作目であり(3作目が先に描かれたという説もあります)、3作目の『タンギー爺さん』は「ジャポニズム」的要素が感じられるものとなっています。マネと同じくゴッホは浮世絵収集をおこなっていました。

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