古典主義に関わる2つの芸術運動
By ラファエロ・サンティ – Web Gallery of Art: Image, パブリック・ドメイン, Link
最初に、古典主義・新古典主義に影響を与えた2つの芸術運動について解説しておきましょう。古典主義画家たちが終始リスペクトし研究した「古典」としてのルネサンス、そして同時期に展開され対立関係となったバロック様式……名前しかほんのりと把握できていない方が多いのでは?せっかくなので復習かたがたその世界を追っていきましょう。
最初に~古典主義の「古典」とはなんぞや?
By サンドロ・ボッティチェッリ – Adjusted levels from File:Sandro Botticelli – La nascita di Venere – Google Art Project.jpg, originally from Google Art Project. Compression Photoshop level 9., パブリック・ドメイン, Link
西洋世界の世界観はざっくり2つに分けることができます。キリスト教的世界観と、ギリシャ・ローマ的なもの。
キリスト教の理想世界は神の意志に従って人間が自身を律し、清らかさを保ち神にゆるしを乞いつつ、すべてのことを神にゆだねるというもの。一方でギリシャ・ローマ時代は西洋世界が常に慕ってきた「古き良き時代」。自由でのびのびとして、技術や文明は発達し、何よりも自然の姿や欲求に対して素直……。西洋の芸術の歴史はある時期までキリスト教の「ストイック」とギリシャ・ローマの「自由」の二極を行ったり来たり。
古典主義・新古典主義は、ギリシャ・ローマ時代の理念の方へシフトした芸術運動でした。そして古典主義以前にギリシャ・ローマ的世界観を最大限リスペクトした時代が――ルネサンスです。古典主義はこのルネサンス時代絵画を勉強・研究して独自の世界を作り上げました。古典に学べ!それが古典主義と言えるでしょう。
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やたらドラマティック!バロック様式って?
By ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ – Web Gallery of Art: Image Info about artwork, パブリック・ドメイン, Link
古典主義と同時期に盛んだったバロック美術について先に紹介しておかなければなりません。16世紀にはじまり17世紀までヨーロッパをカオス化させた宗教改革ののち、衰退したカトリックの対抗宗教改革が起こります。この際に、文化的な復興運動も行われました。それがバロック美術です。
上に掲げたのはバロック絵画の傑作カラヴァッジョ「キリストの捕縛」。ドラマティックな人の動き、明暗の美しさ(特に「黒」の使い方)よく見るとイスカリオテのユダが握っているキリストの手のシワとかものすごく精密。甲冑の光の反射が細かい。すごい!
「なんだこりゃ、細部が精密!ドラマティックすぎる!」「というかドラマティックすぎて、なんかいびつ!(※バロックとは「いびつ」という意味を含みます)」そんな17世紀ごろのキリスト教の世界を扱ったな絵画がバロック美術です。さて、アンチテーゼ的な古典主義絵画とはどんなものなのでしょう?
【17世紀古典主義】フランス王室で愛された絵画とは?
芸術の国フランスで花開いた「古典主義」。17世紀、ちょうど時代はブルボン王朝全盛期で、画家たちは王族や貴族をパトロンに持っていました。古典主義の2大画家を紹介しますが、この2人もフランス王室に深く関わりを持っています。さて古典主義の絵画とはどんなものでしょう?前述したルネサンス美術との類似、バロック様式との対比もお楽しみください。
深い寓意と謎……古典主義の代表画家ニコラ・プッサン
By ニコラ・プッサン – The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメイン, Link
古典主義の代表格といったらニコラ・プッサン。17世紀のバロック様式イケイケの時代に活躍した画家ですが、題材はルネサンス期に特に多くあつかわれたギリシャ・ローマ的な世界が多く、上に掲げた「アルカディアの牧人たち」は特に深い謎をはらんだ絵画として名高い名作です。
アルカディアとは「楽園」のこと。羊飼いたちが見ているのは墓石で「エト・イン・アルカディア・エゴ(Et in Arcadia ego)」と記されています。直訳すると「私はアルカディアにおいてでも存在する」。この意味は「死(私=死神)は楽園(アルカディア)にもある」とされていますが、なんとも不思議な言葉と風景です。深い寓意に満ちたこの絵はルイ14世が大のお気に入り。死ぬまでそばに置いて眺めたといいます。
先に挙げたバロック絵画的な激しさはなく、あくまでも抑えた調子で、陰影もバロックほどではありません。見ていてなんだか落ち着く色合いですね。この「あえておさえた感じ」が古典主義の特徴の一つでもあります。
神秘的?独自の世界観でルイ13世を魅了!ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
By ジョルジュ・ド・ラ・トゥール, パブリック・ドメイン, Link
なんとも不気味な絵ですね。ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「いかさま師」です。ラ・トゥールはルイ13世の「国王付画家」と称号を与えられるほどスゴイ腕を認められた画家でした。一時期時代の流れの中で忘れられていましたが、近年になってそのスゴさが再発見されています。
先にバロック絵画の項で挙げたカラヴァッジョから、明暗の対比において大きな影響を受けた画家です。この「いかさま師」も、背後の闇、賭博テーブルに落ちる影、光に人が浮かび上がる様が実に見事な対照をなしています。この神秘的な、不可思議な感じがラ・トゥールの魅力。
神秘的……というより明らかにコワイ感じですね。独自の世界観はラ・トゥールだけが持つもので、なんともミステリアスです。他の画家にはありません。見ているだけでジワジワくる感じは、国王お付きの画家の面目躍如といったところでしょうか。