ヨーロッパの歴史

【芸術】写実主義・リアリズムって?19世紀の画期的な芸術革命の世界

芸術の分野でよく言われる「写実主義」「リアリズム」「自然主義」……教科書で読んだ気がするものの、一体何なのだか把握できていませんよね。芸術とはたんなる爆発ではなく、技術や様式を勉強した上で成立する作品です。写実主義はその画期的な「技術革命」でした。19世紀に隆盛し、絵画や文学において活発に行われた模索活動「写実主義(レアリスム)」についてご紹介しましょう。

【絵画編】写実主義とは何ぞや?成立の事情や画壇の世界

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まずは絵画の方面の「写実主義(レアリスム)」に迫っていきましょう。写実主義が誕生した時代背景とは?代表的な3人の画家の特徴や、「写実主義」に属する意外なジャンルもご紹介。それまでの絵画の目指したところとはまったく別の領域へシフトした絵画の写実主義。その世界とはどんなものなのでしょう。

「写実主義」誕生の時代と背景

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写実主義(レアリスム)はフランス発の活動。日本語に別の言葉で訳すと「現実主義」とも呼ばれます。写実主義のおこったのは、19世紀中葉。アヘン戦争が勃発、帝国主義や植民地支配が隆盛となってきます。資本家と労働者のあいだで貧富の格差が広がり、革命が起こり、進化論が発表され……と、価値観の転換が起こる激動の時代。

日本では幕末、大政奉還が行われて明治に移ったあたりの時代に写実主義が起こりました。これが日本近代文学の方針を大きく決めることになります。またロンドンやパリで万国博覧会が開催されるなど、国際レベルで技術・芸術への力の入れ方が強くなってきた頃でした。

芸術とは科学であり技術。絵画においては数学的アプローチが不可欠であり、優れた小説を書く上では構造的な見方が必要です。これまでの様式・形式から離れ、新しい技術・技巧を開拓し、発達させるという、写実主義は画期的な技術革命であったと言えるでしょう。

写実主義の代表的な画家3人!クールベ、ミレー、コロー

写実主義画家の代表格はクールベ、ミレー、それにコローです。写実主義画家として有名なクールベは、絵画は空想や物語ではなく、もっとリアルな現実を描くべき!と主張。「私は一人の人間として、自分は生きた芸術をつくりたいのだ」というクールベの言葉はレアリスム宣言としてその後の写実主義運動の指針となりました。

日本でも有名かつ人びとに愛されているミレー。代表作は「種を蒔く人」「晩祷(ばんとう)」。農民の姿、すなわち労働者階級を、宗教的な畏敬をこめて描いたものです。卑しいとされた労働者の姿を芸術の域まで高めたミレーの絵画はまさに画期的でした。

コローは、写実的風景画を極めた画家。ありのままの「自然」を愛した人物です。目の前の光、緑、空気、影を忠実に丁寧に絵画にしたコロー。彼の色使いや描き方は印象派画家たちに大きな影響を与えました。この三人の画家に共通するのは、そのまま・ありのままの姿を描きながらも詩情や個性を成立させたこと。技術革新と同時に芸術家としても一級でした。

実は「印象派」も写実主義?

ルノワール、モネ……日本でも大人気の印象派。「印象派=なんとなくの印象を描く絵画」と思っていませんか?いえいえ、印象派とは独自の技巧を用いて自然な光を忠実に画面に写し取る、という野心あふれた試みだったのです。

しかし新しい技術の模索はときの有識者たちに足蹴にされてしまいました。印象派画家の作品たちはフランス画壇のコンクール「サロン」において片っ端から落選させられてしまいます。サロンに落選し、パトロンを失うと画家にとっては死活問題のため、印象派画家たちがサロン審査員の皇帝ナポレオン3世に苦情を寄せるほどでした。近代絵画の父と呼ばれたセザンヌに至ってはサロンの選考にはずーっと落ち続けだったのです。

印象派の特徴はまさしく、光をとらえていること。キャンバスに近づくとなにか描いてあるかサッパリわからない印象派の絵ですが、遠くから見ると光の陰影や人の表情が見える不思議。これはそれまでにはない画期的な技術・発想だったのです。

【文学・小説編】文章で書く限界、文章で記す愉悦に迫る

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小説においても写実主義運動は盛んに行われました。しかし容易に想像できることながら、小説において文章ですべてを正確に書き写すことなど不可能です。文学における写実主義の隆盛はわずか数十年の命でしたが、その間に「完璧な小説」「完璧な文章」「徹底して細部や暗部を描く」という、これまでにない成果が上がりました。写実主義の巨人ゾラ、フローベール、そして日本の自然主義についても紹介しましょう。

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