山を築く大地の神:ゲブ(Geb)
ゲブは大気の神シューとテフヌトの息子であり、大地を司る神です。妻であり妹でもあるヌトと抱き合っていたところを父親であるシューに割って入られ、引き裂かれて天地ができたとされています。
このとき、ゲブが離れたがらなかったことから、大地が隆起して山になったのだそうです。
大地の神ということで、農耕や作物の恵みを表す神として崇められることもあります。
ヌトとの間にオシリス、イシス、セト、ネフティスを授かり、王として地上を統治していたこともあるとか。恵みの神として自ら作物を生み出し、豊穣なエジプトの大地そのものを表していると見られています。
壁画や絵図では、頭の上に鳥を乗せている姿をしていることも。ガチョウがシンボルになっていることもあります。
天翔ける天の女神:ヌト
ヌトは大気の神シューとテフヌトの娘であり、天地創造に関わる天空の女神でもあります。シューにゲブとの仲を引き離され、天と地が生まれたエピソードは前述の通りです。ゲブと引き離された折に腹部に天の川ができ、これをシューが支えているとも言われています。
ギリシア神話などでは、天を男の神が、大地を女神が司ることが多いようですが、ゲブとヌトは逆で、ヌトが天界を支える役目。絵図でも、ヌトは大きく弓なりに描かれていることが多く、神話で活躍するのもヌトのほうが多いようです。
地球近傍天体(小惑星)のひとつに「ヌト」と命名されたものがあります。
農耕と生産を司る神:オシリス(Osiris)
オシリスは農耕や豊穣、生産の神として称えられた神です。
壁画などでは、白い布を身体に身に着け、王冠をかぶって玉座に座り、エジプトの王として描かれています。白い布はミイラであることを表しており、死者として描かれているともあるのだそうです。
また、作物が地下から地上へと実るところから、冥界に通じた神として崇められることも。死者を死後の世界へ受け入れる王として多くの絵図に描かれています。
小麦やパン、ワインの製法を人々に伝え、法を作り、民のために数々の功績を残しました。しかしこのことを妬んだ弟・セトに殺され、ナイル川に投げ込まれてしまいます。オシリスの身体は妹でもあり妻でもあるイシスによって助けられ、ミイラとなって復活。この話は後々の世で、主にギリシア人たちによって描かれた物語ですが、エジプト神話の中でも最も多く語られている物語のひとつです。
ペガスス座の惑星に「オシリス」という名前が付けられています。
ナイルの恵みを表す女神:イシス(Isis)
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おそらくエジプト神話の中で最も有名な神様と言えるでしょう。数々の神話に登場し、イシスを祭った場所や神殿もたくさん存在します。
イシスはナイルの豊かな土壌と実りの女神。イシスとはギリシア語の呼び名であり、エジプトではアセトと呼ばれていました。
特に前述のオシリスとの悲劇は有名で、夫を失った悲劇の女神として登場することも多いです。また、オシリスとの間にホルスを授かります。
名前は「椅子」に由来すると言われており、「玉座」を守る女神とも。頭に玉座を乗せた姿が描かれることも多いです。守護の女神としてギリシャやローマなど他の国々の神話や伝承の女神と結びつき、イシス信仰は世界各地に拡大。エジプトを代表する女神として今も語り継がれています。
獣の頭をした恵みと破壊の神:セト(Set)
悪役としても英雄としても描かれる、激しく雄大な神として語られることの多いセト。砂嵐、雷鳴、異邦など、人々が恐れるものを司る荒ぶる神として伝わっています。
民衆から絶大な支持を受けるオシリスに嫉妬し、殺害。王位を奪い、その後もホルスと玉座をめぐって争いを繰り広げるところから、ヒールとして嫌われ役を務めているセトですが、絶大な力は信仰の対象にもなり、神話や絵図の登場回数も多いです。
死者を守る葬祭の神:ネフティス(Nephthys)
ネフティスはゲブとヌトの末娘で、オシリス、イシス、セトとは兄妹の関係ですが、妻でもあるという女神。伝承や絵図ではイシスと共に描かれることが多く、姿かたちはほぼ同じですが、頭に載せているものがイシスとは異なります(イシスは玉座、ネフティスは祠堂)。
オシリスに嫉妬し王座を狙う夫・セトに逆らって、オシリスを救うためイシスに協力したため、死者の守護神に。ネフティスが主役になる神話はほとんどなく目立たない存在ですが、非常に強い力を持っているのだそうです。