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諸説アリ!「おにぎり」と「おむすび」の違いを歴史から考えてみた

日本語は本当に表現豊かで言葉が豊富な言語です。同じように使っていても少しずつ意味が異なる言葉や、違う単語なのに実は全く同じ意味だった言葉など、起源や由来を調べていくと次々と新しい発見があります。今回取り上げるのは「おにぎり」と「おむすび」の違いについて。まったく同じものなのか、もともとは違うものだったのか、いろいろな説や解釈が存在するらしいのですが、果たして別物なのか同じなのか……。国民食「おにぎり・おむすび」の歴史を覗いてみましょう。

別々の道を歩んできた?「おにぎり」と「おむすび」の歴史

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コンビニエンスストアやスーパーの店頭で見かけない日はないほどの人気商品・おにぎり。具材も握り方も豊富で、毎日食べても飽きない庶民の味方・日本人のソウルフードと言っても言い過ぎではないでしょう。お米のおいしさはもちろんのこと、ご飯がぎゅっと詰まっていると食べ応えがあって満足感も増すから不思議です。では「おにぎり」「おむすび」という言葉は、いつ頃から使われていたのでしょうか。語源や由来などについて調べてみました。

おにぎり発掘!弥生時代からあったって本当?

炊いたご飯を、型を使ったり手で整えたりして三角や球体などの形にまとめたもの、と解釈するなら、おにぎり・おむすびの歴史は遠く弥生時代までさかのぼることができます。

石川県の杉谷チャノバタケ遺跡という弥生時代後期の遺跡では、1987年、米粒のかたまりが炭化したものが出土しており、日本最古のおにぎりとして大変話題になりました。およそ2000年前のものと思われる竪穴式住居から見つかった、やや三角形をした黒いかたまりはもち米でできている模様。炊いたご飯を握ったのではなく、チマキのように蒸して作られたものではないか、とも言われています。

また、神奈川県の北川表の上遺跡(古墳時代)でも、2009年、10cm四方ほどの大きさの炭化した米のかたまりが出土。いっしょに樹皮のようなものの痕跡も見つかっていて、こちらは1500年前のおにぎり弁当の発見か?と注目を集めました。

さらに、同じく神奈川県の北金目塚越遺跡でも、弥生時代後期のものと思わる炭化米のかたまりが発見されています。こちらで見つかったものは大小いくつかの大きさの、三角形をした可愛らしいもの。現代人が思い描くおにぎりの形に非常に近い状態で、温帯種と熱帯種ののジャポニカ米が使われていたそうです。

奈良~平安時代の文献に見る「握飯」「屯食」

おにぎり・おむすびが最初に文献に登場したのは、平安時代と考えられています。

「屯食(とんじき)」という名前の食べ物がそれ。包飯(つつみめし)とも呼ばれ、もち米を蒸して握り固めたものでした。当時は、宮中や身分の高い貴族が部下や従業員たちを庭先に集めてふるまう、ちょっとしたボーナスのようなものだったようです。もち米はお祝いの席などに用いられるおめでたい食べ物だったので、従業員たちはさぞ喜んだことでしょう。

時代が進むにつれ、炊いた米を握ったものを「屯食」と呼ぶようになったと言われています。鎌倉時代から室町時代の頃になると、もち米からうるち米が使われるようになり、広く携帯食として普及・定着していきました。

江戸時代に入って海苔が一般にも広く流通するようになると、握った米に海苔を巻くスタイルが誕生。海苔で包めば風味も味わえるし栄養もある、それに米粒が手につきにくいし食べやすい。江戸庶民は毎日かなりの量の白飯を食べていたとの記録もあり、日々の食事に旅のお供にと、おにぎり・おむすびは多くの庶民に愛されていたと考えられています。

おむすびはどこから?女性言葉?神様に由来?

もともと屯食と呼ばれていたものが、時代と共に広く一般的に食べられるようになって、自然と呼び方も「握飯」「にぎりめし」「おにぎり」と様々に変化していったものと思われます。昔の人にとっては、名称の違いはそれほど大きな問題ではなかったのかもしれません。

「にぎりめし」に丁寧な気持ちや親しみを込めて「お」を付け「おにぎり」という単語が誕生した、と考えてよいでしょう。江戸時代、おにぎりを作っていたのは、奥さんや娘さんなど台所を預かる女性陣だったはず。「握り飯」という男性的な呼び方から、自然と「おにぎり」という呼び方が生まれたとしても不思議ではありません。きっと、ひと手間かけたという気持ちが込められているのでしょう。

では「おむすび」という呼び方についてはどうでしょう。

おむすびという言葉が使われていた痕跡は、江戸時代のあたりまで、文献などには見当たらないのだそうです。おそらくは公家の上流社会で使われる女房詞(平安時代や室町時代に宮中などに仕える女性が使っていた言葉)で、ご飯を握ったものを品よく優雅に「むすび」と呼んでいたのではないか、と思われます。

おむすびについてはもうひとつ、『古事記』にも登場する「神産巣日神(かみむすびのかみ)」という神様にちなんでいるという説も。神様の恵みによって収穫できた米を、神様の力が宿る山の形・三角形にしてお供えし、感謝の気持ちを込めて食べた……それがおむすびの始まりとの見解もあるのだそうです。

白熱!「おにぎりとおむすびの違い」説はこんなにある!

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何せ文字による記録などない時代から食べられていたと思われるので、歴史や語源、由来についてははっきりしたことはわかりませんでした。知れば知るほど奥が深い「おにぎり」と「おむすび」問題。それだけ古くから多くの人々に愛され、当たり前のように食べられてきたということなのでしょう。ここからは、巷でささやかれている「おにぎりとおむすびの違い」に関する様々な説について、代表的なものをピックアップしてご紹介します。

三角・丸・俵型:形の違いによる説

まず、形による違いではないか、という説です。

おにぎりは白飯を手で握ったものから来ているということで、形は問わず、三角でも球体でも俵型でもよいが、おむすびは三角形をしていなければならない、というもの。これは、先ほど少し触れた「神産巣日神」が関係しています。神様へのお供えは、山の形をイメージした三角形でなければならなかったため、おむすび=三角形となったのです。

一方で、俵型がおむすびである、という説も。時代の変化や地域による違いもあるようで、形状だけでは名称の違いを明確にすることは難しそうです。

東日本と西日本:地域による違い説

では、地域による区分はどうでしょう。

東日本ではおにぎり、西日本ではおむすびと呼ぶことが多いという見方もあります。全国的には「おにぎり」という呼び方が多いようですが、東日本では「おにぎり」「おむすび」の両方使われる傾向が。中部地方や中国地方では「おむすび」と呼ばれる機会がやや多いのだそうです。

このような意識調査が行われる前、昭和の初め頃や大正・明治時代なら、もっと明確な区分があったかもしれません。しかし、物や情報が瞬時に流通する現代では、物の呼び方の境目もなくなりつつあります。特に、スーパーや大手コンビニチェーンが商品名として「おにぎり」という名称を使い始めてからは、それまでおむすびと呼んでいた地域でも、コンビニに行けば「おにぎり」と呼ぶようになるはずです。

「おむすび」という呼び方は、比較的、東海道など街道筋沿いに見られる、という見解もあるそうですが、もしかしたら、街道を行く旅人が残していった言葉なのかもしれません。

「今の旅の人、おにぎりのことをおむすびって言っていたよ。面白い呼び方だね。おむすびだって。うちでもおむすびって呼ぼうか」

そんな会話があったかも……しれません。

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