三国時代・三国志中国の歴史

「四面楚歌」の由来って?中国史の英雄たちの栄枯盛衰のストーリー

「四面楚歌」という四字熟語は、割と今日でもポピュラーなものだと思います。「周りが敵ばかり」というざっくりした意味ならご存知の方も多いと思いますが、この由来となった故事はいかがでしょうか?実は、中国史における英雄たちの物語から生まれたものなんです。今回は、四面楚歌のストーリーの裏側と、当事者となった英雄たちについてご紹介していきたいと思います。

「四面楚歌」の舞台となった時代は?

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四面楚歌の意味は「周りが全部敵で逃げ道もなく、孤立無援の状態」です。現代でも有り得るシチュエーションなので、よく使われる言葉ですが、この由来となったのははるか昔、紀元前の中国での出来事でした。四面楚歌の故事が起こるこの時代の状況を解説しますね。

「四面楚歌」に愕然とした項羽

まず、四面楚歌がどういう状況で起きたことかを簡単にご紹介しておきましょう。

秦の滅亡後、項羽(こうう)劉邦(りゅうほう)は覇権を巡って争いましたが、項羽は劉邦の軍に囲まれてしまいました。

そして、自分を取り巻く四方から、故郷である楚(そ)の歌が聞こえてきたことに、項羽は愕然とします。

「私の同胞たちは、みな劉邦に降って私の敵となってしまったのか!?」

もはや絶望的な状況に追い込まれたと項羽は悟った…というわけです。

当時の中国の情勢

さて、少し時間を前に戻しましょう。

始皇帝が亡くなってからというもの、中国を統一したはずの秦の政権内部は混乱を極め、弱体化の一途を辿っていました。それに加えて民衆には過酷な労働や税が課され、彼らの不満はどんどん膨れ上がり、ついには「陳勝・呉広の乱(ちんしょう・ごこうのらん)」という史上初の農民反乱が起きてしまったのです。

この乱に、当時下級役人だった劉邦や、楚の名族出身の項羽が加わり、打倒・秦を掲げて各地で戦いを繰り広げることになったというわけなんですよ。この頃の中国の歴史は「史記(しき)」という作品に詳しく描かれています。

項羽という男

では、四面楚歌のエピソードの主人公と言ってもいい項羽という人物についてご紹介しましょう。

彼は、中国南部のという国の出身でした。祖父は名将として名高く、両親を早くに失ったものの、項羽自身は名門の血を引く存在として注目されていたのです。

若かりし頃の彼は、学問にも剣術にも身が入らずにいました。しかし、「字は自分の名前が書ければ十分。剣術はひとりを相手にするものだからつまらない。そんなことより、万人を相手にするものがやりたい!」と言い出し、兵法を学んだのだそうです。

そして、身長8尺2寸(約188~196cm)の堂々たる体躯と怪力の持ち主に成長した彼は、叔父と共に打倒・秦を掲げて戦に身を投じました。そして連戦連勝を収め、当時並ぶもの無き武将となったのです。

劉邦という男

一方、劉邦は、地方の下級役人でした。あまり真面目ではありませんでしたが、親分肌で人情味があり、たくさんの人に慕われたといいます。

彼の場合は、部下の人夫たちが過酷な労働から逃げ出してしまったため、彼もなし崩し的に任務を離れることになったのです。そして仲間たちに推され、やがて戦いに身を投じることとなりました。

項羽と違う点は、彼には負け戦も多かったということ。ただその一方で、多くの有能な仲間や部下に恵まれていたという点もありました。

秦の滅亡と項羽の全盛

陳勝・呉広の乱をきっかけに、中国各地で勃発した秦への反乱は、やがて大きなうねりとなって秦そのものを飲み込んでいきます。

秦の都・咸陽(かんよう/陝西省咸陽市)へ攻め込んだ項羽でしたが、なんとすでに、劉邦たちが先に入ってしまっていました。劉邦に対し、秦王は降伏していたのです。

プライドを傷つけられた項羽は激怒しますが、側近たちの取り成しにより何とか機嫌を直します。

そして彼は自身の強さを盾に「西楚の覇王(せいそのはおう)」と名乗り、秦を倒す際に出兵した各諸侯に対して領地の分配を行いました。

すでに王も同然の行動でしたが、この領地分配については、項羽と関係が良好かどうかという点のみを基準にしたものだったため、諸侯からはだんだんと反感を買うようになってしまいました。最大の功労者であった劉邦を、自身の脅威になるからと漢中(かんちゅう/陝西省漢中市付近)に左遷してしまったことも、大きなマイナスポイントだったのです。

欠点が身を滅ぼした項羽、長所が身を助けた劉邦

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諸侯たちの不満が徐々に蓄積され始めていることに、項羽は気づくのが遅れました。その間にも、左遷したはずの劉邦が勢いを盛り返し、やがて項羽に反旗を翻してきたのです。それでも、何度も劉邦を破った項羽でしたが、劉邦の挽回力は彼の想像を上回っていました。そして、彼に敗北の時が迫って来たのです。

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