もしも強盗事件が起きたら
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2つ目のケースは「強盗事件」です。ある強盗犯が、ナイフを女性に突きつけ、カバンを奪って逃走しました。幸い女性に大きなけがはありませんでしたが、100万円を盗まれました。犯人は逃走。女性はナイフを突きつけられた恐怖と、100万円を奪われたショックで、失意の中泣きました。
強盗事件に巻き込まれた!盗られたモノはどうなる?~日本の場合~
日本では、強盗犯がつかまれば、5年から20年の懲役に科されます。懲役とは、刑務所に収監され、刑務作業をすることです。しかし、強盗犯に盗んだモノを返させる決まりはありません。被害者は、盗まれたモノを返してもらうように請求することができますが、支払うことのできない人が多く、返してもらえないまま…ということが多いそうです。
強盗犯がつかまらなければ、盗まれたモノやお金は返してもらうすべもありません。日本では、強盗事件の被害者は泣き寝入りするしかないことが、ほとんどなのです。
強盗事件に巻き込まれた!盗られたモノはどうなる?~ハンムラビ法典の場合~
「もし人が強盗を働き、捕らえられたなら、その人は殺さなければならない。」
強盗犯は、盗んだモノや被害の度合いは考慮されず、殺すのが決まりでした。犯人がどんなに苦しい生活をしていても、刑が軽くなることはない、犯罪者に厳しい内容だったことが分かります。しかし、ハンムラビ法典では、犯罪者に厳しいだけでなく、被害者の救済についてもしっかり考えられていました。それは、犯人がつかまらない場合に発揮されます。
「もし強盗がとらえられなかったなら、強盗にあった人は、なくなった物が何であれ、神の前で申告しなければならない。そして強盗が行われた地あるいは領域の(行政権を有する)市と市長は、彼のなくなった物は何であれ彼に償わなければならない。」
ハンムラビ王は、モノが盗られたなら、強盗事件の起きた市や市長が責任をもって償うことを決めました。日本では、強盗にあった被害者を救う道はありませんが、古バビロニア王国では、社会が補償する仕組みがしっかりととられていたことが分かります。
強盗事件に巻き込まれた!被害者が命を落としたら?
ちなみに、被害者が命を奪われた場合は、似たような対応がとられていました。
古バビロニア王国では、被害者が命を奪われたら、強盗事件が起きた市と市長が、その遺族に銀を支払うことが決められていました。金額は、男子ひとりの60か月分の収入、言いかえれば、5年分の生活費にあたりました。
日本でも、国が給付金を支給する制度(犯罪被害者補償制度)に基づいて、被害者の遺族にお金が支払われます。しかし、日本でこの制度がつくられたのは1980年でした。
被害者の救済を考えたハンムラビ王
犯罪の被害者救済が問題として議論されるようになったのは、比較的最近のことです。日本で被害者を救済する制度がはじまったのは、わずか40年ほど前で、しかもこの制度は、被害者がケガを負ったり命を落とした場合でないと適用されません。今でも、ひき逃げ事件や強盗事件の被害者は、犯人が不明であったり、つかまらなかった場合、残念ながら、被害者がつぐなわれる道はないのです。
これに対し、ハンムラビ法典は、犯人がつかまらなかった場合でも、被害者やその遺族の救済がきちんと考えられていました。今から3700年以上も前につくられたにも関わらず、被害者を救う視点を持っていたというのは、驚くべきことです。
ハンムラビ王に課せられた社会の正義
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ハンムラビ法典と、現代の日本の法律を比べてみると、ハンムラビ法典は犯罪者にかなり厳しい罰が与えられていながらも、被害者の救済がしっかりと考えられていました。それに対して日本の法律は、犯罪者を裁くためのものであって、被害者の救済については、まだまだ課題が残ります。なぜ3700年も昔につくられた法律に、被害者救済の視点が盛り込まれていたのでしょうか。そこには、当時の王が担った役割が関係していました。