日本の歴史

かわいいウサギの島は実は「毒ガスの島」だった?【大久野島、負の歴史】

大久野島はかつては【毒ガスの島】だった?

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かわいいウサギがたくさんいる大久野島。そんなウサギの楽園の島にも実は負の側面はあったのです。ここからはあまり知られていない「大久野島の負の部分」を紹介していきましょう。

近代までの大久野島

平安時代末期、この海域は平家の勢力範囲にあり、平清盛の父忠盛の名を取って「忠海」と名付けられていました。古来から九州と畿内を結ぶ瀬戸内海は重要な地域だったのですね。

時代は下って中世に入ると、この海域は村上水軍小早川水軍が活動する拠点となり、明治に至るまで大久野島には村上水軍の末裔が住んでいたと伝わっています。

やがて明治に入るとこの島には、航路の安全のために灯台が建設され、日清戦争や日露戦争の影響もあって軍の施設が建設されるようになりました。そしてこの頃から大久野島は、その存在を知られないために地図から消されるようになったのです。

地元がすすんで毒ガス工場を誘致する

キッカケは、第一次世界大戦でドイツが連合国に対し毒ガスを使用し、大量殺りく兵器として広く認知されてからでした。その悲惨さから、1925年にジュネーブ条約で毒ガスの製造と使用が全面的に禁止されますが、この時日本は批准しませんでした。資源の少ない日本が軍事的に優位に立つためには化学兵器の使用が必要不可欠だと判断されたからです。

しかし、「我が国は条約に批准してないので、毒ガス作ってもいいのである!」なんて公然とは言えません。そこで秘密裏に人がいない閑散とした場所を毒ガス工場建設候補地としてリストアップが図られました。

そこで地元広島出身で、後に内務大臣にもなる望月圭介が建設誘致を斡旋し、地元の忠海町も不況対策の見地から誘致に乗り気でした。そうして何の障害もないまま大久野島に日本唯一の毒ガス工場が造られることになったのでした。

毒ガス実験にはウサギも使われていた

1929年に工場が完成し、いよいよ毒ガスの製造が始まりました。ここで作られていたのは「マスタードガス」「ルイサイト」「ホスゲン」「青酸」など猛毒性のあるものばかり。まさに毒物のオンパレードだったのです。青酸カリヒ素といえばわかりやすいでしょうか。

そして毒の効果を試すための実験動物として、大量のウサギがこの島に持ち込まれたのです。(といっても当時のウサギは全て処分されてしまったため、現在いるウサギは戦後に島外から持ち込まれたもの。)

忠海町の雇用対策として、多い時は6千人もの人々が船でこの島へ毎日通勤していたそうです。そしてここで製造された毒物は、全国各地に貯蔵されたり、砲弾や爆弾に詰められて中国大陸へ渡り、実戦にも使用されていました。

大久野島毒ガス工場で働いていた人々の意識

1945年の終戦に至るまで、この島では毒ガスが製造されていました。中にはうすうす感づいていた人もいたでしょうが、多くの工員が毒ガスを製造しているという事実を知らされないまま作業に当たっていました。戦争も激しさを増すと一般工員だけでなく、学徒動員の名のもとに多くの学童も従事させられ、まさに命を代償に働いていたのです。

実際に毒ガス製造の最前線で働いていた人々は、昭和30年(1955年)頃までにほとんど亡くなっていますし、戦後もずっと毒物の後遺症で苦しんでいる方々もいらっしゃいました。何より意識の根底にあるのは別の加害者意識。「自分たちが作ったモノで多くの罪もない人々が殺された」ということではないでしょうか。

「お国のために懸命に頑張るしかなかった」「当時は致し方なかった。そんなこととは知りもしなかった」と言いながらも自責の念を捨てきれず、戦後になって日本が中国大陸で行ったことが明るみになるにつれ、自分たちが被害者でもあり、なおかつ加害者でもある。そのようなジレンマに苦しんだ方も多かったことでしょう。

現在の毒ガス工場の跡地

現在、毒ガス工場があった跡地には当時の建物をそのまま利用している「大久野島毒ガス資料館」が建っています。ここには旧日本軍の毒ガス製造に関する資料や、実際に中国で使用された砲弾などが展示されており、過去の負の歴史を今に伝えているのですね。

戦後の失業と食糧難に追われていた忠海製造所の元工員の中には、毒ガスに起因すると思われる患者が多発し、治療を受けても治癒に至らず、咳がひどく、呼吸困難となり、ガンになる者も多く、死亡者が続出する事態が起こった。そこで元工員たちは組織を作って関係各方面への陳情活動を開始したのです。このことが社会問題として新聞、ラジオなどでその惨状が取り上げられ、ついに国会の議題となりました。

出典元 大久野島の証言集より

しかし猛毒の威力は現在に至ってもなお消えてはおらず残留しているため、多くの区域が立ち入り禁止であるため注意が必要です。

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明石則実