現代文学の基礎と称される長編小説『ドン・キホーテ』を解説!スペインの文豪セルバンテスが描く滑稽小説の世界とは?
4.『ドン・キホーテ』あらすじ
image by iStockphoto
『ドン・キホーテ』は、5億部もの発行部数を誇る、世界で一番読まれた小説です。先ほどからお話ししている通り、騎士道物語を読み過ぎて、現実世界と物語世界の区別がつかず虚構世界でしか生きられなくなった男の物語。心配する村人たちに騎士道世界を押し付けられ、騎士道世界の創造ができなくなり力が弱まり、最後には死んでしまいます。それでは、世界で一番読まれた小説『ドン・キホーテ』のあらすじをご紹介しましょう。
4-1ドン・キホーテ狂人となる
スペイン中部のラ・マンチャ地方にある村に、主人公のアロンソ・キハーノという50手前の郷士が住んでいました。むさぼるように「騎士道物語」を読みあさり、本を買うために田畑を売り払うほど。やがて彼は狂気に囚われ、現実と物語の世界の区別ができなくなるのです。
「私は、勇敢な騎士、ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャである!」といい、埃とカビに塗れたひいお爺さんの甲冑の手入れをします。円形の盾や槍を持ち、痩せ馬(ロシナンテ)に乗り足の速い猟犬を連れて遍歴の旅に出かけました。騎士道物語にのめり込んだ彼は、中世の騎士道を実践し、世の中の不正を正し弱い人たちのためになりたいと思ったのです。
理性を失った人には思えないほど、立派な理念を掲げ正義感に酔って旅立つのですが、散々痛い目にあわされます。前編だけ読めば、単に狂った男のしくじりエピソードを書いた面白本という立場なんです。
4-2冒険の始まり
出発直前に騎士道物語には必ず出て来る思い姫が、いないことに気付いたのです。最後の準備に近くの村に住む、かつて恋をしていた百姓娘アルドンサ・ロレンソを、ドゥルシネーア・デル・トボーソという思い姫に仕立てます。ここから、数々のユニーク体験をする冒険が始まったのです。
宿屋に着いたキホーテは、この安宿を城と思い込みます。主人を城主と盲信すると、自らを「正式な騎士」と任命してもらいました。実は宿の主人は泥棒上りの悪い人だった人物です。でも、流石に狂人としか思えないキホーテを心配し、従士が必要と一端村に戻るよう説得され、キホーテは応じて帰ることにしました。
キホーテを不運が襲います。帰る途中に出会ったトレドの商人一行に、思い姫の美しさを話すも信じてもらえず、キホーテは暴言を吐いた上にロシナンテに乗ったまま攻撃にでたのです。しかし、ロシナンテが転倒し転がり落ちました。甲冑の重みで起き上がれず哀れな姿をさらしながらも、暴言を吐き続けるキホーテを、ある男が彼の槍を折り叩きのめしたのです。同じ村の農夫に助けられ連れ戻されました。
4-3従士を連れ旅立つ
叩きのめされても騎士道物語への夢は冷めず、近所の農夫サンチョ・パンサに「手柄を立てて島を手に入れたら、領主にしてやる」と言いくるめて従士としキホーテは前向きに中世の冒険を続けます。キホーテの眼には日常の景色も、何もかもが新鮮に見えました。
とくに有名なのは前編8章の風車の突撃シーン。風車を巨人と思い込み突進するのです。他にも羊の群れを軍勢として突撃したり、護送中の漕刑囚を暴政による可哀想な被害者と思い込み開放したり、することは全てむちゃくちゃ。ほどんどの冒険は挫折してしまうのです。
4-4徐々に深刻化する後編
後編は、物語の内容が複雑になり深刻さを増します。変な話を聞いてきたサンチョが、キホーテに村に帰ってきた学士のサンソン・カラスコが、『ドン・キホーテ』という本が世間を騒がすほどの人気となっていると話ているというのです。キホーテはサンチョにカラスコを読んでこさせて、本について聞きます。事情を知るカラスコは、凛々しさや勇気、忍耐力などを兼ね備えた優れた騎士と噂されていると、嘘を伝え旅立たせるのです。家政婦や姪は大反対するも、彼らは3度目の遍歴の旅に出発します。
学士カラスコの作戦は、キホーテを一端遍歴の旅に行かせ、カラスコが偽りの騎士に扮して後を追い、戦いを挑んで打ち負かそうというもの。その上、2年間の蟄居をいい渡し、おとなしく従い家に籠る間に狂気が治ると踏んだのです。学士は、「森の騎士」、「鏡の騎士」、「銀月の騎士」として、登場し肉体的にはキホーテを打ち負かします。
後編では、思い姫のドゥルシネーアに会いに行こうとしたり、ライオンと戦おうとしたり、「ドン・キホーテ」の愛読者でキホーテが狂人と知る公爵夫人に城に招かれたりと、どたばた珍道中でさまざまな体験をしました。トルコとスペインの思い姫のドゥルシネーアに会いに行こうとしたり、ライオンと戦おうとしたり、「ドン・キホーテ」の愛読者でキホーテが狂人と知る公爵夫人に城に招かれたりと、どたばた珍道中でさまざまな体験をします。トルコとスペインのガレー船隊の交戦を目撃したりもしました。
4-5帰ってきた善人キハーノ
後編63章で、行先を彼の虚構世界サラゴサからバルセロナに変えたのが運の尽き。滅亡へと向かうのです。もし彼の安住の地サラゴサに行っていたら、前編29章で弱まった力や後編10章で失った自身の回復ができていたかも。だって、バルセロナを選んだ時点で、虚構世界ではなく、現実世界を選んでいるんですもの。
更に、後編72章では、『贋作ドン・キホーテ後編』を登場させたのです。そして、偽りのキホーテに自分が本物のキホーテだということを認めさせ、偽りのキホーテを良く知るアルバロ・タルフェに「本物だと」宣言させます。でも、自分が本物のキホーテということは、本物の物語の中の主人公であり、現実ではないことに気づかされたのです。遍歴の旅の最後は、学士カラスコ扮する「銀月の騎士」との決闘に敗れ、戦う前に約束した通り、遍歴の騎士を終わらせます。
帰ったキホーテは、病に倒れ命が短いことを医師より告げられました。正気に戻り自分は「アオンソ・キハーノ」になったといいますが、周りは信じられません。狂人時代のキホーテに付き合い、「ドゥルシネーアが魔法使いから許され魔法が解かれた」と話しますが、既に善人キハーノに戻っていたのです。