小説・童話あらすじ

現代文学の基礎と称される長編小説『ドン・キホーテ』を解説!スペインの文豪セルバンテスが描く滑稽小説の世界とは?

名は思い出したくないが、スペインはラマンチャ地方のさる村に、さほど前のことでもない、槍かけに槍、古びた楯、痩せた馬に、足早の猟犬をそろえた、型のごとき一人の郷士が住んでいた。昼は羊肉よりも牛肉を余分に使った煮込み、たいがいの晩は昼の残り肉に玉ねぎを刻みこんだ辛子和え、土曜日には塩豚の卵あえ、金曜日には扁豆、日曜日になると小鳩の一皿ぐらいは添えて、これで収入の四分の三が費えた。そののこりは、厚羅紗の服、祭日用のびろうどズボン、同じ布の靴覆いに使い、ふだんの日は黒っぽいべリヨリ織で体面をととのえた。家には四十歳を過ぎた家政婦と、まだ二十歳にならぬ姪と、それに痩せ馬に鞍もつければ、剪定用の鉈もふるう畑仕事や市場への買い物に行く若者がいた。われらの郷士の齢はまさに五十歳になんなんとしていた。

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3.『ドン・キホーテ』とは

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著者のセルバンテスは、中世の廃れた騎士道物語を、皮肉を込めて諷刺する場として、この物語を描いたのではないでしょうか?冒険小説としての立場が有名ですが、会話の部分が多く書かれています。会話のやり取りを楽しみながら読むのもこの本の魅力です。

3-1ユニークなタイトルが人々を引き寄せた

『ドン・キホーテ』は、近代小説の出発点とされる、前編49章、後編74章の長編小説です。『ドン・キホーテ』という名前は、日本で翻訳された時に付けられたもの。前編は『機知に富んだ郷士 ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』で、後編は『機知に富んだ騎士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』といいます。郷士というのは下級武士的な立場で、昔のドンは親分や実力者を指しており、「郷士とドン」というアンマッチでユニークなタイトルが受けたのも名作となった要因です。

騎士道物語は、中世に流行しドン・キホーテが出版された近世には既に廃れていました。甲冑を着た人もいない時代で、日本でいえば侍の格好をして、今の時代の日本を旅するという感じでしょうか。文中で語っているように、奇妙奇天烈なシーンの連続性も魅力なのです。

3-2ドン・キホーテは乗っ取られた?

彼の小説は、軽妙なユーモアと皮肉、滑稽さが入り混じっているのが特徴です。そのひとつに、あくまで著者はセルバンテスなのですが、物語の中にもう一人の著者を生み出しています。著者のアラビア人歴史家「シデ・ハメーテ・ベネンヘーリ」がアラビア語で書いたものという偽りが紛れているのです。

セルバンテス自身は、あくまでアラビア語をスペイン語に訳しただけという設定となっています。物語が盛り上がった時にじらすような箸休め的な存在でも使われ、読者の心理を弄ぶ描写として何度も登場しているんです。でも、これが邪魔でなく妙に面白いから、彼の天才的な能力のひとつなのでしょう。

3-3奇妙なユーモラスの連続

騎士として行動する時に、風車に突進したり、水車に飛び込んだりと意味不明なことをした後に、自分の行動を正当性があるかの如く理路整然と話して納得させるのです。先ほどお話しました通り、後編で彼は既に有名人。会う人は狂人として接するのですが、礼儀正しく知識人で頭の回転も速いのです。セルバンテスは、キホーテを騎士道以外のことでは、教養も分別もある立派な人物と印象付けています。

推理小説的な要素も、あるのです。キホーテは、狂人なのか、狂人を装っているのか?とか、キホーテの存在を、読者は単純にはくくれなくなります。彼をどう捉えればいいのか、複雑な人間模様や体制を、自分なりに推理し読み進めるのもこの本の魅力です。

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