日本の歴史

アメリカの「核の傘」とは?ホントに日本は守れる?その疑問を徹底解説!

「非核三原則」を国会決議

日米同盟のベースとなる日米安保条約の締結によって、日本は経済だけでなく軍事力に関してもアメリカと密接な繋がりを持つことになりました。今日に至るまで「対米従属」「アメリカの属国」だと揶揄されるのも、そこに理由があります。

米ソ冷戦の激化に伴って「いかに日本を守るべきか?」が大きな焦点となりました。国会だけでなく国民間でも喧々諤々の議論が交わされましたが、結局は「日本国土を防衛するためにはアメリカの強大な軍事力が必要」という結論に達したのです。

しかしソ連はとっくに大量の核兵器を配備していますし、中国も1964年に初めて核実験に成功しています。そういった状況下で、アメリカが持つ核兵器の担保なしに防衛戦略を立てるのは難しい話でした。

とはいえ、アメリカの核兵器を日本で配備するにはハードルが高く、「唯一の被爆国にもかかわらず核に頼るとは何事だ!」といった国民の反発も予想されます。そこで当時の佐藤栄作内閣は「非核三原則」を打ち出して、国民感情を逆撫でしない方策をひねり出したのでした。

「核兵器をもたず、つくらず、もちこませず」

 

「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まないというこの核に対する三原則、その平和憲法のもと、この核に対する三原則のもと、そのもとにおいて日本の安全はどうしたらいいのか、これが私に課せられた責任でございます。」

引用元 「衆議院予算委員会における佐藤総理答弁(昭和42年12月11日)」より

 

しかし非核三原則の中には「もたず、つくらず、もちこませず」という文言はあるものの、なぜか「使用せず」という言葉がありません。これはいったいどういうことなのでしょうか。

これは、もし実際に核兵器が使用されるのであれば、それは日本ではなくアメリカだということ。いわば日本は「アメリカの核の傘」によって核に依存せざるをえない状況にあることを黙認しているのです。

アメリカとの密約

「非核三原則」を国会決議し日本の国是とした佐藤首相は、1974年にノーベル平和賞を受賞していますね。ところが話はそう簡単ではなかったのです。

非核三原則を提唱していたその裏で、アメリカのニクソン大統領「日本への核兵器持ち込み」の密約を交わしていたといわれています。2018年に見つかった外務省の資料によれば、密約書はなんと佐藤総理の自宅から発見されたようで、当時の沖縄返還交渉問題が深くかかわっているようなのです。

返還前の沖縄には、アメリカ軍が持つ核兵器が最大で1300発も保管されており、返還交渉の過程でアメリカ軍は「核抑止」を背景に撤去を頑なに拒否していました。

こうした中、下田駐米大使はスナイダー公使からこう説明を受けたといいます。

「作戦行動にあたっての基地使用については、こちらとして満足し得る条件が得られれば、有事の場合の問題はある。」

いわば有事の際に核兵器持ち込みを認めてくれれば、基地からの撤去はしますよ。ということを意味していますね。

それを受けた日本側も「核問題は最終的に首脳間で決着する」と見通しを示したうえで、「いわゆる返還後の有事持込みの扱い方について、我が方としても考えて置く必要があると認められる。」と結論付けています。

結果としてアメリカ側は、有事の際の核持ち込みを条件として沖縄から核を撤去するという密約の方針を固め、日本側もそれを容認。佐藤=ニクソン間の密約として締結されることになりました。

ここまでの動きを見ると、いかに日本がアメリカの言いなりとなり、「非核三原則」という大ウソをついてまで核に頼ろうとしたのかがよくわかりますね。

「核の傘」で日本は守れる?

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日本と核兵器の関わり合いを見てきたところで、では実際にアメリカの「核の傘」で日本は守れるのか?また核兵器は日本にとって必要なのか?といったことを検証していきましょう。

日米同盟は「盾と剣」の関係

日本の自衛隊はご存じの通り、専守防衛に特化していて外国へ進攻する能力はありません。「専守防衛」とは文字通り国土を守るためだけに与えられた任務のことです。

では万が一、日本が外国からの攻撃を受けたらいったいどうなるのでしょう?よく「アメリカが日本を守ってくれるはずだ」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、そんなバカなことはありません。あくまで敵の攻撃は自衛隊で受け止めねばならないからです。そうやって時間を稼ぐ間に、在日米軍やアメリカの来援部隊が日米安保条約に基づいて介入し、敵を攻撃します。

戦国時代の籠城戦によく似ていますが、自衛隊は救援がやってくるまで耐えきれば良いというわけですね。よく安保条約における日米関係を「盾と剣」になぞらえることがありますが、まさしく「日本が攻撃されれば、その後にアメリカが報復にやって来る」という状況になるわけです。

ところが現代戦は限定的な地域紛争だけではありません。もし核ミサイルによる攻撃を受けた場合はどうなるのでしょう?

日本には高高度迎撃用ミサイルであるSM-3を積んだイージス艦が6隻あり、さらに2020年4月に「まや」が就役し、引き続いて2021年には「はぐろ」が就役予定です。各艦に8発ずつのSM-3を搭載していますから、計64発の迎撃ミサイルが撃てるということになります。

さらにアメリカ第7艦隊所属のSM-3搭載艦が5隻ありますから、有事の際には日米共同でのミサイル防衛も可能となっていますね。ちなみに2018年発表の防衛省資料によれば、その迎撃率は77%に達するとも。

そればかりではありません。もし核ミサイルを撃ち漏らした場合でも、地上で待ち構えるPAC-3(地上型迎撃システム)が迎撃します。ただ重要地域のみの防衛に特化しているため、日本全てをカバーできるわけではありません。

しかしながらイージス艦を中心とした対ミサイル防衛の場合、それぞれの寄港地が異なるため、迅速な洋上展開に時間がかかるというデメリットがあります。そこで導入が検討されているのが地上配備型のイージス・アショアという地上型弾道ミサイル迎撃システムなのですね。

いわば日本を核攻撃から守るためには、核兵器で対抗するのではなく、鉄壁の防衛システムを構築した上で対処にあたるということがスタンダードになっているのです。

懸念される中国の脅威とは?

日本と中国は、尖閣諸島をはじめとした東シナ海海域に領海問題を抱えています。また南シナ海においてもフィリピンやベトナムなどを相手に領有権を主張しているため、その中国の覇権主義を危ぶむ声も出ていますね。そういった意味では中国が仮想敵国になりうる可能性も高いわけです。

中国は軍事大国ですから、核弾頭保有数が270個もあり、その多くは日本を含む太平洋地域を指向しているとされています。果たして「中国の脅威に対する核抑止力」は必要なのでしょうか?

答えは「正」であり「否」でもあるでしょう。まず中国が持っている基本的な核戦略は「先制不使用」ということ。相手が撃って来ない限り、こちらから撃たないことを前提としていますね。なぜなら中国が常に意識しているのはアメリカの核戦力ですから、「万が一撃ってきたら、こちらからも報復するぞ!」という切り札に過ぎません。

また核弾頭保有数に関しても、アメリカが保持している数は6800個と明らかに中国を圧倒していますね、まともに戦っても勝ち目はありません。ですから核戦争になれば対抗できるわけがなく、もし日本を核攻撃したが最後、アメリカの恐ろしい報復が待っているということになります。

ちなみに中国人民解放軍ロケット軍は、戦術・戦略ミサイルを統括していますが、誤認や誤射を防ぐためにミサイル本体と核弾頭を別々に保管しているそうです。それだけ核兵器の取り扱いに慎重にならざるを得ないということでしょう。

アメリカが圧倒的な核戦力を持っているからこそ、中国は勝負を最初からあきらめているということであり、ある程度「核抑止が有効」だという確証となるでしょう。

また日本・アメリカ・中国における経済的互恵関係による要素も高いのではないでしょうか。アメリカにとって中国は最大の輸入国ですし、アメリカの国債を最も多く買い入れているのが中国です。また中国にとって日本は輸入ランキングで2位、輸出ランキングで3位というお得意様ですね。

さらに中国は「一帯一路構想」で広範囲に市場開拓に力を入れていますから、もし世界に脅威を与える動きをすれば、自分で自分の首を絞めることにもなりかねません。それこそ国際的信用を失う結果となり、資本流出や金融不安を招いてしまう結果となってしまうでしょう。

日本が核武装できる可能性は?

次に日本が「核抑止」のために自らで核武装し、アメリカの「核の傘」から脱することができるのか?という問いです。実はこれまで旧防衛庁や防衛研究所などが「日本の核武装の可能性」について、幾度となく研究し議論されてきました。しかしその答えは全てが「核武装できる可能性はない」というものでした。

仮に「アメリカの核の傘が閉じた場合」「アメリカが日本の核武装を容認した場合」においても、利点を見い出せないとしており、明らかに疑問符が投じられているのですね。

その理由としては以下の4つです。

日本の原発には使用済み燃料棒があり、プルトニウムも存在しているが、兵器級にするためには精製が必要。日本にはそのような精製施設が皆無であること。

日本はIAEA(国際原子力機関)に加盟しており、全ての核物質が査察の対象となる。これに違反し軍事目的に転用すれば、たちどころに国際的信頼を失い、国際安保理に制裁を勧告されることになる。

核兵器開発のために莫大な予算を組まねばならず、国民の理解は到底得られない。また核実験場をつくるための適当な場所がない。

日本の核開発は周辺諸国との軋轢を生み、不毛な核軍拡戦争となることが考えられる。中国は「日本の不法な核兵器配備に対抗するべき正当な権利の行使」として軍拡に踏み切る。

このように、日本が核武装するべきメリットはどこにも見当たらず、まさに「カネの無駄」ということになるでしょう。「核武装の議論はするべき」という識者もいらっしゃいますが、上記の理由を踏まえれば議論など入る余地もありません。

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明石則実