平安時代日本の歴史

意外に面白い話がたくさん「今昔物語集」平安後期の説話集の奥深き世界を解説

「今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)」という読み物をご存じでしょうか。「国語の時間に習ったような気がする」「名前だけは知っている」「でも実際に読んだことはない」「どういう内容か知らない」という方も多いと思います。難しそう、何が書いてあるのかわからないと思う……と敬遠されがちな古典文学ですが、読んでみると意外にも面白いお話がたくさん収められているんです。現代語に読みやすく翻訳されたものも数多く出版されているのでお奨め。今回のでは、そんな「今昔物語集」を徹底マーク。作者や成立など基本情報から代表的なお話のあらすじまで、「今昔物語集」の奥深き世界をざくっと解説いたします。

今昔物語集とは何か?作者・時代・構成など基本情報

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日本の古典文学というと、奈良時代の歌人たちの和歌を集めた「万葉集」や、平安時代中期に紫式部によって描かれた長編物語「源氏物語」、紀貫之の紀行文的文学作品「土佐日記」などを思い浮かべる方が多いと思います。和歌集や読み物などは、いつ頃書かれたものか、作者が誰なのか、概ねはっきりしているものが多いですが、「竹取物語」のように作者も成立も不明で写本が残っているだけ、というものちらほら。では「今昔物語集」とは?どのような物語集なのでしょうか。まずは「今昔物語集」の基本情報をチェックしてみましょう。

今昔物語集の作者は誰?いつ頃書かれたものなの?

「今昔物語集」は非常に謎の多い物語集です。

作者も、書かれた時期も不明。誰が書いたものなのか分かっていません。

書かれた(編纂された)時期についても、おおよそ平安時代後期(12世紀)頃だろう、ということは確かなようですが、具体的な時期ははっきりしていないのだそうです。

お話の最初のほうに、お釈迦様に関するお話や仏教渡来にまつわる話がたくさん収録されているので、奈良時代か平安時代のお坊さんが書いたものなのでは……?という説も。ただ、後半になるとだんだん、魔物や泥棒が出てきたり、戦や恋愛話など様々なお話が登場するので、他の可能性も考えられそうです。

かなりの数の物語が収められていますが、具体的・歴史的な出来事(大きな戦争や飢餓、天災など)に関する記述がほとんど見られないため、内容から成立時期を推測することも難しいのだとか。実にミステリアスです。

「今昔物語集」は一般的に、説話(せつわ)というジャンルに分類されます。説話とは、人から人へ、主に口伝えで語り継がれた話のこと。神話や伝説、民話などの総称です。

おそらく900年ほど前に成立した、作者不明の物語集。誰が何のために、誰のために作ったものなのか……。「今昔物語集」の全容が明らかになる日は来るのでしょうか。

「今昔」とはどういう意味?何が書かれているの?

今昔物語集は作者も成立時期も不明ですが、実は正確なタイトルも分かっていません。

各物語ともすべて「今ハ昔(今は昔)」という書きだして始まっているため、便宜上「今昔物語集」と読んでいるだけ。実際、作者がどのようなタイトルをつけていたのかも不明なのです。

「今は昔」は「今となっては昔のことですが」という意味合い。ちなみにどの物語も末尾は「トナム語リ伝ヘタルコトヤ(~と、語り伝えられているのだそうです)」で終っています。

さて、そんな「今昔物語集」にどれくらいの数のお話が収められているかというと……なんと全三十一巻。この中に、1000話以上ものお話が収録されています。

ただ、残念ながら八巻・十八巻・二十一巻は欠けており、収録されているお話の中には未完成と思われるものもいくつか。題名だけで内容が書かれていないものもあります。そうなると実際には、1000話をはるかに超える数の話が収められていた可能性が高い。そのため、今昔物語集のお話の数を「1000話以上」とあいまいな数で表すことが多いのです。

内容は、天竺(てんじく・インド)のお話と、震旦(支那・中国)のお話、そして本朝(日本)のお話の三部構成になっています。それぞれ、まず初めに仏教の説話が登場し、その後、その他の物語が続くような流れになっているようです。

今昔物語集が平安時代に成立したものなら、この当時の情報では、「中国」と「インド」と「日本」が世界のすべてであったはず。その他の、ヨーロッパや中東といった国々の存在などまだ誰も知らない。今昔物語集は全世界の様々な説話を収録した物語集、と言ってもよいのかもしれません。

どんな内容?今昔物語集に影響を受けた小説はあるの?

当たり前のことですが、昔は印刷技術などありませんでしたから、読み物は基本的に人間が手で書き写して複写を作ります。今昔物語集も同様で、人の手によって書き写されたものが現代に残っていたため、私たちはその存在を知ることができたわけです。

もちろん、最初に書かれた「原本」が残っていれば理想的ですが、500年・1000年となるとなかなか難しい。写しているうちに文章の一部を書き忘れてしまったり、文字が抜けてしまったり、1冊丸ごと抜け落ちてしまったりした可能性は否めません。

今昔物語集の写本で、現存する最古のものは「鈴鹿本」と呼ばれ、国宝に指定されています。

文体はいわゆる「漢字仮名交じり文」。仮名はひらがなではなくカタカナで、カタカナは漢字に比べて少し小さめの大きさで書き添えられている印象。これが原本どおりなのか、写した人物が良かれと思ってこのような書き方をしたのか分かりませんが、かしこまらず読みやすい内容になっています。

そんな今昔物語集ですが、他の文学作品や歴史的資料にはあまり登場していません。

そもそもタイトルが何だったのか未詳なわけですから、資料に載らないのも無理はありませんが……。ただ、写本がたくさん残っているということは、各時代の人々に愛され、読み継がれてきたことは間違いないと思われます。

今昔物語集が注目されるようになったのは、近代に入ってから、と考えてよさそうです。

特に芥川龍之介は、今昔物語集を題材に小説を書いた作家として知られています。『羅生門』や『鼻』、『藪の中』などが代表的な作品です。

意外と知ってる?今昔物語集に収録されている有名なお話

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前述のように、芥川龍之介の著書を通じて今昔物語集の存在を知った、という方も少なくないかもしれません。また、他にも、どこかで聞いたことがあるような昔語りのお話が、今昔物語集にはたくさん収められています。読んでみると結構おもしろい。次に、1000を超えるお話が収録されている今昔物語集の中から、有名なものをピックアップしてご紹介いたします。

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