イギリスヨーロッパの歴史

シンプル?せっかち?無頓着?イギリスの食べ物は本当に美味しくないの?

「イギリスの料理はまずい」「ろくな食べ物がない」と言われることがありますが、実際のところはどうなのでしょうか。イギリス出身者自らが自虐的に「イギリス料理はまずい」と冗談交じりに嘆くこともあるようですが、イギリスは近代ヨーロッパのリーダー的存在だったはず。なぜイギリスの食べ物はまずいなどと言われてしまうのでしょう。実際にいろいろ調べてみると、イギリス発祥の食べ物はたくさんありますし、決してどれもこれもまずいというわけでもなさそう。そこで今回は、そんなイギリスの食べ物に着目。イギリス料理の世界へとご案内いたします。

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「イギリス料理」と言われても、すぐに思いつかない……という方も多いかもしれません。長い歴史を持ち、立派な王室がある国でありながら、フランスやイタリアと比べると、いまひとつ食文化に華やかさが欠けるような気もします。比較対象がフランス料理やイタリア料理だから、イギリス料理はいまいち、と感じてしまうのかもしれません。実はイギリス発祥の食べ物って、たくさんあるんです。今回は様々なイギリス料理の中からえりすぐってご紹介いたします。

日曜日の定番メニュー「サンデーロースト」

「イギリスの食べ物が不味いのは、産業革命で忙しかったからだよ」

そんなジョークを耳にしたことがあります。

味の良し悪しは別にして、産業革命がイギリスの食文化に影響を与えていたとしても不思議ではありません。

そんなイギリスの伝統的な食べ物に「サンデーロースト」と呼ばれるものがあります。

その名の通り、日曜日の午後のランチメニュー。食材や単品料理の名前ではなく、調理した肉や野菜を一つの皿に盛って食べるワンプレート料理です。大きめのお皿にいろいろな料理をたくさん乗せていただきます。

お皿に盛るものは地域によって多少違いがあるそうですが、20世紀半ばごろまで、イギリス全土だいたいどこの地域でも、日曜の午後にサンデーローストを食べる習慣が続いていたのだそうです。

毎日忙しい農民や労働者が、日曜日くらいはゆっくり休もうとして始まった食習慣だと言われています。日曜日はパン屋が休みでパンが手に入らなかったから、牛を丸ごと焼いて昼食代わりにしていたのが始まり、との説もあるそうです。

1週間がむしゃらに働いて、日曜日は全員休む。いかにも、産業革命で忙しかったイギリスっぽい感じがします。

「ロースト」と名がつくところからもわかるように、メインは肉料理です。

地域や飲食店によって、肉の種類はいろいろあるようですが、ローストビーフやローストポーク、チキン、ラム、鴨や七面鳥が用いられることも。これに甘めのグレイビーソースやマスタードをたっぷり添えて、茹でたジャガイモや豆、野菜などを一つの皿に盛りつけます。

盛り付けは豪快に。もし食べきれなかったら、翌日のサンドイッチの具材にしたり、余すところなく活用するのも伝統となっているようです。

イギリスといえば「フィッシュ・アンド・チップス」

19世紀半ばごろ、忙しい労働者たちの間では、早く手軽に食べれて安い食べ物が人気でした。

時代は産業革命真っただ中。鉄道が普及し、大量の物資の輸送が可能になった頃、それ以前はなかなか口にする機会がなかった魚類も、効率よく各都市に運び込まれるようになりました。

安価で大量に手に入る白身魚。これに衣をつけて揚げたものに、同様に安価に手に入るジャガイモを揚げたものを組み合わせて誕生した食べ物が「フィッシュ・アンド・チップス」です。

現代では、伝統的なイギリス料理の一つとしてきれいにお皿に盛って出す店もありますが、基本的には「忙しい労働者たちがサッと食べるファストフード」的なものでした。

労働者向けということもあって、腹持ちの良さを重視し、衣は厚め。長めにカットした白身魚にたっぷりと衣をまとわせて油でこんがりキツネ色に。味付けは塩やビネガー系のソースのみと非常にシンプルなもので、客はこれを紙に包んで持ち帰り、がぶりとかぶりついていたのだそうです。

白身魚が淡白なので、厚めの衣との相性は抜群。現代では、タルタルソースやケチャップなど、各店や家庭でそれぞれ工夫した味付けでフィッシュ・アンド・チップスを楽しむケースが増えてきています。

スコットランドの伝統料理「ハギス」

私たちが普段「イギリス」と呼んでいる国は、実際には、グレートブリテン島やアイルランド島北部などいくつかの島々に点在するイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドが合わさったもの。連合国とも連邦国家とも違う、独特の形態をとっています。

そのうちのひとつ、スコットランドはグレートブリテン島の北部を占める国。寒さが厳しいことでも知られるこの地域には、冬を乗り切るための独特の食文化が根付いています。

中でも有名なのが「ハギス(haggis) 」という、羊の内臓を羊の胃袋に詰めて調理した食べ物です。

イギリスには数多くの腸詰料理(ソーセージなど)がありますが、ハギスは独特。羊の内臓に香草や野菜を加えて細かくミンチ状にし、牛脂などと合わせて胃袋に詰め、茹でたり蒸したりして調理します。

寒い地域の料理らしく、かなりこってりとしていて味付けも濃いめです。

独特の香りから、好き嫌いが分かれる料理ともいわれていますが、これを肴にスコッチを一杯やるのがたまらない!という人も少なくありません。

長い間、スコットランドの人々が大切にしてきた伝統料理。日本でいうところの「鮒寿司」や、東南アジアの「ドリアン」のような存在かも。強烈なインパクトを持っているけれどファンも多い。そんな料理、伝統ある国なら一つや二つあるものですよね。

イギリスにも、「ハギス」のようなこだわりの食べ物がたくさんあるのです。

家庭料理の定番「ヨークシャー・プディング」

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プディングと名前がついていますが、お菓子のプリンとは非なるもの。

どちらかというとパンのような、料理の付け合わせとして食べる炭水化物系の食べ物です。

見た目は、中身のないシュークリームのような感じで、味は淡白。ぷくっと膨れた丸い形をしており、時間がたつと真ん中がへこんで、一見、ドーナツのようにも見えます。肉料理などソースのかかった料理と一緒にいただくのが一般的です。

触感はふわっとしていてもちもち。肉料理の濃いめのソースとの相性がよいです。

先ほどご紹介した「サンデーロースト」の付け合わせとしても知られています。

ヨークシャー・プディングがいつ頃からあったのか定かではありませんが、18世紀中頃にはすでに存在していたようです。その昔、お腹を満たして食費を節約するために食べられていた、とも言われています。

スコットランドから世界へ「スコーン」

「スコーン(scone)」は日本でもおなじみの食べ物になっていますが、こちらもイギリス発祥。スコットランドが本場です。近年では日本のベーカリーなどでもよく見かけます。

材料は小麦粉、ベーキングパウダー、牛乳といたってシンプル。ざっくり混ぜ合わせて、丸型や三角形に形を整えてオーブンで焼き上げます。

イギリスでは紅茶のお供として、ジャムなどをつけて食べるのが一般的。スコーンそのものはややパサッとしていて淡白に作られていますが、バターやレーズン、チョコレートなどを練りこんで焼いたものも人気です。

スコーンは海を渡り、アメリカに伝わりました。アメリカでは「ビスケット」と呼ばれることが多く、単体でも食べられるよう、甘く味付けたものが多く出回っています。朝食に、卵やベーコンと合わせて食べることも多いようです。

独特の触感「イングリッシュ・マフィン」

ヨークシャー・プディングやスコーンをご紹介したのなら、これを取り上げないわけにはいきません。イギリスの朝食メニューの定番、イングリッシュ・マフィン(English muffin)です。

「マフィン」というと、カップケーキのような形状もありますが、「イングリッシュ・マフィン」と呼ばれるものは平たく丸い形をしたもの。ファストフード店マクドナルドの「エッグマック・マフィン」というメニューをご存じなら話が早いです。

材料は小麦粉、牛乳、塩、砂糖、そして酵母。これらを練って発酵させ、平たい丸型に成型して焼き上げます。

焼き上がりの表面に、つぶつぶとしたコーンミール(トウモロコシの粉)がまぶしてあるのが特徴です。

内部にたくさんの気泡ができており、バターやソースがよくしみ込んで料理との相性もばっちり。真ん中を手で割いて半分にして、卵やベーコンなどを挟んで食べるのもおいしいです。

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