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千夜一夜物語とは?傷ついた王様を惹きつける妖艶な世界観を徹底解説!

「千夜一夜物語」とはどういうものなのか、タイトルを聞いたことはあるけれど詳しく知らない、という方も多いのではないでしょうか。またの名を「アラビアンナイト」。たくさんの物語から構成される説話集のことです。実はこの「千夜一夜物語」、子供向けの童話集かと思いきや、中には少々艶っぽい感じの大人向けの物語も含まれていて、全体的に妖艶な雰囲気が漂っています。どういういきさつで作られた物語なのでしょうか。今回の記事では、世界中の人々から愛さ続ける「千夜一夜物語」を取り上げて、起源や由来、代表的な物語など詳しく解説します。アニメや映画の題材になったこともある有名な物語も多数登場。これよ読めばきっと「千夜一夜物語」の見方が変わるはずです。

続きはまた明日……毎夜語られる「千夜一夜物語」とは

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「千夜一夜」と呼ばれているところから何となく想像がつきますが、「千夜一夜物語」とはたくさんの物語が集まってできています。今から千年以上も前に語られていたペルシアの説話がもとになり、長年かけて物語や小説がどんどん追加され、編纂されて現在のような形になったとされている「千夜一夜物語」。どんな構成の物語なのか詳しく見ていきましょう。

「千夜一夜物語」とはペルシアの王に毎夜語られる物語

もともとの「千夜一夜物語」は、女性の語り口で綴られているのだそうです。

なぜ女性なのか?その問いの答えは、この物語の始まりに隠されています。

その昔、ササン朝ペルシアという国にシャフリヤールという王様がいました。王様は物語の中の架空の人物ですが、ササン朝という国は4~5世紀頃にメソポタミア地域に実際にあった国です。

ある日、シャフリヤール王は、王妃が奴隷と浮気している現場を目撃してしまいます。妻の不貞に王様は激怒し、王妃と奴隷の首を跳ねて殺害。それでも心の傷は癒えず、シャフリヤール王は若い娘と一夜を共にしてはその娘を殺すという、連続殺人鬼のようなことを何年も繰り返すようになってしまうのです。

このままでは国中の若い娘が殺されてしまう。王の暴挙を止めなければ……。王に仕えていた大臣の娘・シェヘラザードが、王のもとに嫁ぐと名乗り出ます。

今までどおりなら、初夜を迎えた後、シェヘラザードは王に殺されてしまうはず。しかしシェヘラザードは恐れることなく、王に古くから伝わる物語を聞かせます。シェヘラザードの話は面白く、王の興味をひきました。

続きが聞きたい。ならば続きは明日の夜に。明日はもっと面白いお話をお聞かせしましょう。

王はシェヘラザードを殺さず、明日もまた物語を聞かせるよう命じます。

次の夜も、その次の夜も、毎晩毎晩、シェヘラザードは様々な物語を語り、これが千と一夜繰り返された……。これが、「千夜一夜物語」の始まりです。シェヘラザードが命を賭けて語った物語の数々。王がシェヘラザードを殺さず続きを聞きたがるほど面白い、古今東西の珍しい説話が詰まったものが「千夜一夜物語」なのです。

「千夜一夜物語」の数は本当に1001話もあるの?

では次に、「千夜一夜物語」の成り立ちと歴史について見ていきましょう。

「千夜一夜物語」は、ササン朝ペルシア時代に各地方で語られていた民話などがもとになり、800年代に原型ができたといわれています。

もともとはアラビア語で書かれており、「アラビアンナイト」と呼ばれることも多いようです。

ただし、書籍や書類が現存しているわけではないので、当時どういう形態をしていたか、確かなことはわかっていません。

その後長きに渡り、イスラム社会で語り継がれてきた「千夜一夜物語」。徐々に話が追加され、増えていった可能性も示唆されています。

18世紀初頭、フランスの東洋学者で東洋写本などを多く扱っていたアントワーヌ・ガランがアラビア語からフランス語に翻訳。「千一夜」というタイトルで出版したことがきっかけとなり、「千夜一夜物語」は一気にヨーロッパ中に広まっていきました。このとき、翻訳に使われた元本(写本)には、282夜分(1つの話を分割しており、話の数としてはだいたい35話)の話が納められていたといわれています。

そして、この写本には、結末は描かれていなかったのだそうです。

しかしガランをはじめ、当時のヨーロッパの人々は考えました。この本のアラビア語のタイトルは「アルフ・ライラ・ワ・ライラ」。ダイレクトに訳すと「千夜と一夜」となります。そんなタイトルがついているくらいだから、本当は1001夜分あるんじゃないか?いや1001話あるべきなんじゃないか?と。そんなこんなで、徐々に話の数が増え、アラビアっぽい感じの話がどんどん追加され、1001夜分の話をおさめた「千夜一夜物語」が出版されるようになったのです。

ガランの後にも、リチャード・バートンやシャルル・マルドリュスなど、「千夜一夜物語」を手がける作家・翻訳家が現れます。それぞれ、結末が少し違ったり、趣の異なる世界観が描かれており、「千夜一夜物語」の人気はますます高まっていきました。

「千夜一夜物語」の結末は?シェヘラザードの運命やいかに

様々な物語が詰まった「千夜一夜物語」。

長い長い物語の結末はどうなったのでしょう。シェヘラザードの運命は?気になりますね。

「千夜一夜物語」の結末は、実はいくつか存在しています。翻訳を手がけた人物によって創作・追加されたものが多く、結末も様々。もともと「これがオリジナルだ!」というものがどれだかはっきりせず、現存する写本を比べても、結末もあったりなかったり、違っていたり。欧米で翻訳を出すとき「じゃあ独自の結末を描こうか」となるのも無理はありません。

有名な結末のひとつに、シェヘラザードが産んだ王子が描かれたものがあるのです。

千一夜目、シェヘラザードの話に飽きたシャフリヤール王は、とうとうシェヘラザードを殺そうとします。そのときシェヘラザードは、王との間にできた三人の王子を連れてきて命乞いをしたのです。王子の存在を知らなかった王は大変喜び、シェヘラザードを殺すことをやめ、彼女を正式に妻に迎えることを誓います。

千一夜というと、3年近い年月ということになるのでしょうか。その間、王子の存在に気づかないとは……。

一方「千夜一夜物語」翻訳の先駆者であるアントワーヌ・ガランが描いた結末は、とてもシンプルで、千一夜目の話が終わったところで、王がシェヘラザードの勇気に感銘を受けて殺すのをやめる、というものだったそうです。

結末は様々あれど、概ね、シェヘラザードは助かりハッピーエンドというものが目立ちます。

それだけ、「千夜一夜物語」が多くの人々に愛され続けてきた、ということなのかもしれません。

アラジン、アリババ、シンドバッド……「千夜一夜物語」の代表作をご紹介!

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冒険ものあり、恋愛ものあり、面白おかしい話あり、心和む話あり……「千夜一夜物語」におさめられているお話はバラエティに富んでいます。中には、独立してアニメや映画の題材となった有名なものも。ディズニー映画になったものもありますし、日本漫画界の巨匠・手塚治虫が独自の世界観で冒険アニメにしたことでも知られています。「ああ、あれもそうなのか!」シェヘラザードが王様に聞かせた話には、どんなものがあったのでしょうか。現代では、児童文学作品のひとつとして読まれることも多い「千夜一夜物語」の代表作をいくつかご紹介します。

ひらけ!ごま!「アリババと40人の盗賊」

「千夜一夜物語」の中で最も有名なお話といってもよいでしょう。

昔々、あるところに、貧しいけれどとても働き者のアリババという男が暮らしていました。

あるとき、アリババは山で薪拾いをしている最中、茂みの向こうの洞穴の周辺に怪しげな男たちがいるのを見かけます。男たちは盗賊で、洞穴に盗んだ財宝を隠していたのです。

盗賊たちは閉ざされた洞穴の前で「ひらけゴマ!」と叫びます。すると洞窟の入口を覆っていた岩の扉がすっと開き、盗賊たちが中へ入ると再びピタッと閉じたではありませんか。

注意深く観察していると、盗賊たちが洞穴の中から出て行って、彼らが立ち去ると岩の扉はまた硬く閉ざされます。

その様子を見届けたアリババは、洞穴の前に立ち、あの合言葉を口にして扉の奥へ。穴の中にあったお宝をできるだけ抱えて持ち帰ったのです。

かくして大金持ちになったアリババ。しかしお宝を奪われた盗賊たちが黙っているわけもありません(自分たちも人から盗んだくせに)。街中探ってアリババを探し出します。盗賊の親分は油売りの商人に変装してアリババに接近。家に泊めてもらい、寝静まった頃にアリババを殺す計画を立てていました。盗賊の親分が持ち込んだ油壺には、39人の盗賊たちが隠れていたのです。

この危機的状況に、アリババに仕える女奴隷のモルジアナがいち早く気づきます。ご主人様を助けなければ!モルジアナは機転を利かせ、油壺に熱した油を入れて盗賊たちを全員殺害。一度は逃げ去った盗賊の親分が再び接近してきたときも、モルジアナはその正体を見抜き、間一髪、アリババの命を救います。

アリババはモルジアナの機転に感謝し、自分の息子の嫁になってほしいと懇願。さらに、洞穴に残っていたお宝を全て持ち出し、貧しい人たちに分け与えて、末永く平和に暮らしたのだそうです。

ランプの魔神が大活躍!「アラジンと魔法のランプ」

こちらも「アリババと40人の盗賊」と同様、「千夜一夜物語」の枠を越え、単独での知名度が高い物語。ディズニーランドのアトラクションにもなっているので、改めて解説するまでもないかもしれません。

昔々、あるところに、アラジンという名前の、貧乏でちょっと怠け者な青年が暮らしていました。

古道具を集めて売ったりしながら生計を立てていましたが、売れ行きは芳しくありません。

あるとき、見知らぬ男が現れて、「素晴らしいものを見せてやる」とかなんとか言って、アラジンを町外れの洞窟へ連れ出します。実はこの男、悪い魔法使い。アラジンをそそのかして魔法のランプを手に入れようと目論んでいたのです。

何も知らないアラジンは男から「洞窟の奥に古いランプがあるので、それを持ってきて」と言われ、お守りとして指輪を渡されます。

アラジンは指輪をはめ、薄気味悪い洞窟の奥へ。ランプを見つけ、持ち帰ります。そのランプには、願い事を何でも叶えてくれるランプの精(魔神)が住んでいました。

ランプをこすると恐ろしい姿の魔神が現れ、アラジンの願いを何でも叶えると言います。アラジンはその強大な力を使って大金持ちに。豪邸を建て、美しい女性と結婚して幸せに暮らします。

しかし、ランプを奪われた(自分も盗もうとしたくせに)悪い魔法使いが黙っているはずもありません。魔法のランプを奪い、アラジンの妻も誘拐。アラジンは指輪に宿っていた精霊(魔神)の力を借り、妻とランプを取り返します。

ランプの精と出会うまでは、ちょっぴりぐうたら者だったアラジン。ドラえもんとのび太のような関係になってしまうのかと思いきや、終盤は勇気を持ってランプを取り返し、悪い魔法使いを懲らしめます。

子どもからお年寄りまで、多くの人に愛される物語です。

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